薬価流通政策研究会・くすり未来塾は２月17日、国民が必要とする一部医薬品の安定供給に向け、「コストに連動した薬価設定」を提言した。世界的な脱グローバリゼーションの流れによりコスト上昇が顕在化する一方で、毎年薬価改定の導入などで薬価が下落していると指摘。こうした時代にあわせて、「コスト要因で価格を変化させ、サプライチェーンを強靭化するとともに、安定供給を確保するよう、薬価制度の見直しが必要」とした。このほか、供給不安が顕在化するジェネリックのビジネスモデルにも触れ、共同開発について後発品では原則制限することや、薬価収載上は最初の後発品収載の企業数を限定することを提案した。

◎脱グローバリゼーション、コスト増による環境変化指摘　「健康安全保障」の観点も

くすり未来塾は、”健康安全保障”の観点も踏まえて、国民が必要とする医薬品の安定供給について提言を行った。現在の薬価制度である、市場実勢価格加重平均値調整幅方式が導入されて以降、一貫してデフレだったと指摘。さらに、後発品の使用促進や未妥結減算制度の導入などで、価格の引下げ圧力が強められてきたとした。制度面では後発品で共同開発が可能になったことにより、複数企業が参入。グローバル化の流れのなかで、企業が原料の調達先を海外に求めるなど、コスト低下が進んできた。一方で、新型コロナやウクライナ情勢など、世界経済が激変するなかで、世界的に供給を見直す動きが広まっている。脱グローバル化の流れが強まり、インフレ傾向に追い打ちをかけている。こうしたなかで、サプライチェーンは経済安全保障にも直結する課題となっている。

提言では、「これらの状況は、急速に変化しており、既存の制度との不整合が顕在化している」と指摘。「特に、毎年改定の実施により、この問題がさらに深刻化したとみることができる」とした。


◎「医薬品市場は同一の市場ではなく、単一の原則を当てはめることは適当ではない」

提言では、環境変化が大きいなかで、一部の医薬品についてはコストの占める割合が高く、他の医薬品とは異なるにもかかわらず、同一の薬価制度が厳格に当てはめられていることを問題視。「医薬品市場は同一の市場ではなく、単一の原則を当てはめることは適当ではない」として、医薬品のコストを踏まえた薬価制度の必要性を指摘した。現行の「コスト上昇と薬価低下が同時に発生」したことが、不採算医薬品の発生する一つの原因との考えも示した。

◎血液製剤　薬価下落の一方で原料血漿価格の引き上げで事業環境が悪化

この具体例として、血液製剤をあげた。薬価が下落する一方で、原料血漿価格が引上げにより、国内血漿分画事業者の事業環境が悪化していると説明。欧米諸国では、原料血漿調達コストの上昇などを薬価に反映していることも紹介した。実際、グロブリン製剤の薬価を国際的に比較すると、上市から薬価が引き下がっているのは日本のみで、39％引き下げられている。一方で、イギリスが28％、ドイツが９％引き上げられるなど、柔軟な価格の引き上げが行われている。グロブリン製剤は基礎的医薬品に指定されており、当面は薬価が維持される見通しだが、指定が外れた場合は赤字化が数年前倒しされるリスクがあるほか、原料が上昇するリスクもあるとしている。また、経済安全保障の観点から抗生物質なども薬価制度を見直す例にあげた。

このほか、既存薬の研究開発、改良に取り組む企業を評価する、新たな薬価制度の必要性も指摘した。具体例として、輸液製剤をあげ、配合処方の改良や、同一容器内で薬液の混合を可能にするなどの容器の改良が進められてきたものの、「むしろ薬価が下がる例がある」と指摘。「開発の投資回収が見込める制度になっておらず、ディスインセンティブしかない」として、見直しを求めた。

◎共同開発　「薬価収載上は最初の後発品収載の企業数を限定してはどうか」と提案

薬事制度をめぐる論点としては、「共同開発」をあげた。もともと新薬に認められていた制度だが、2005年の薬機法改正でも緩和された経緯がある。くすり未来塾は、「共同開発制度は、後発品について原則として制限すべきではないか。さらに、薬価収載上は最初の後発品収載の企業数を限定してはどうか」と提案。ただ、今後特許切れが見込まれる製品は市場規模が大きくないことも見込まれ、採算が取りづらい品目が出てくることも指摘。「制度設計については、国民にいかに安定的に医薬品を供給するかという観点から、官民で十分議論が必要」、「共同開発を認める企業は、自社で検査体制を持つなど品質に責任を持つ体制を持っている企業に限る、などの方策が考えられるのではないか」と提案した。

くすり未来塾の提言は第６弾。同日、ホームページ上に公表された。