
科研製薬の堀内裕之代表取締役社長は4月9日、2031年度を最終年度とする10年間の「長期経営計画2031」の一部見直しに関する説明会で、「(24年度は)研究開発や海外展開の成果などが一度に芽吹いた1年になった」と振り返った。24年度は長期経営計画で掲げた開発品の導出や導入が相次ぎ成立。米アーディ社の買収も完了して米国展開の足掛かりもできた。ただ、「導入・M&A市場の競争激化、為替変動、研究開発費の高騰など当初予定していた以上に事業環境は大きく変化した」とも指摘。戦略投資額を当初の「10年間で2000億円以上」から「10年間で2600億円以上」に引き上げるなど長期経営計画を一部見直すことになったと説明した。
科研製薬は24年5月に、スイスのニューマブ社とアトピー性皮膚炎を対象に共同開発している二重特異性抗体・NM26-2198(開発コード)について、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)と知的財産譲渡及び販売提携オプション契約を締結した。同年12月には、自社開発していた2型炎症疾患を対象とする経口STAT6阻害薬をJ&Jに導出するライセンス契約を締結した。
科研製薬はNM26-2198の契約一時金として24年度に8600万米ドルを受領。今後の開発の進捗により最大2億5240万米ドル及びアジアでの売上に応じたロイヤリティを見込む。STAT6阻害薬では24年度に契約一時金3000万米ドルを受領し、開発の進捗により最大12億1750万米ドル及び全世界の売上に応じたロイヤルティを見込めるようになった。
一方、M&Aや製品・開発品の導入については、25年3月に希少疾患治療薬を手掛けるアーディ社を1億米ドルで買収。米国で販売中の悪性血管周囲類上皮細胞腫瘍治療薬・FYARROを得るとともに、米国の販売基盤及びノウハウも獲得した。同じく3月には米アルミス社のTYK2阻害薬・ESK-001の国内の皮膚科領域疾患に係る開発・商業化権を獲得するなど、長期経営計画がスタートした22年度から24年度末までに計7品目(22年度2品目、23年度1品目、24年度4品目)を導入した。4月9日にも、米カルビスタ社から遺伝性血管浮腫治療薬・セベトラルスタットの国内販売権を獲得したと発表した。
同社の綿貫充研究開発本部長は説明会で、製品・開発品の導入に相次ぎ成功した背景について、この3年間にラインセンス部門を特別に強化したわけではなく、「積み重ねてきたものがたまたま一度に花開いた状況」だと述べた。
◎P1以降プロジェクト数 常時“6品目以上”を“8品目以上”に引上げ 海外展開品の導入強化
長期経営計画は、▽研究開発、▽海外展開、▽経営基盤――の3つの戦略で構成している。今回、内外の事業環境の変化や開発パイプラインの拡充を踏まえ、31年度までの施策の追加や変更を行った。戦略投資金額の引上げや株主還元を強化する方針も示した。
研究開発では、フェーズ1以降のプロジェクトを当初の「常時6品目以上」から「8品目以上」に引上げた。毎年1品目以上の導入を目指す方針に変更はないものの、「海外展開品もターゲットとして推進」すると明示し、海外製品の導入の注力度合いを高めた格好だ。
海外展開では、アーディ社の買収完了を受けて、▽FYARRO事業の継承・安定運営、▽欧州展開の検討、▽アーディ社とのシナジーを見込んだ海外展開品の確保――を施策に追加した。
経営基盤に関しては、高度な専門知識を持つ人材を積極的に採用するほか、従業員エンゲージメントのいっそうの向上を期待して従業員向け株式給付信託(ESOP)を導入することを盛り込んだ。営業のCRM活用を推進して情報提供活動を最適化し、既存品の価値最大化を図る考えも示した。
◎今後7年間の戦略投資 研究開発に約1100億円 M&A・導入等に約600億円
戦略投資額は、31年度までの10年間で当初「2000億円以上」としていたが、今回600億円増額の「2600億円以上」を投じる方針を打ち出した。22年度~24年度の3年間に約720億円を投じていることから、今後7年間で約1900億円を投資する計画となる。鈴土雅常務取締役は、▽研究開発費に約1100億円、▽設備投資(DX含む)に約200億円、▽M&A・導入費等に約600億円――を投じる計画を披露。M&A・導入費等を用いて、「海外の販売品もターゲットに、毎年1品目以上の導入を目指す」と述べた。
株主還元は24年度の配当(190円)を下限としつつ、配当性向30%以上、総還元性向50%以上に変更し、株主還元7年間総額500億円以上とする方針を示した。海外展開の更なる進展を見据え、会計基準をIFRSへ早期に移行する検討も進める。
◎資産売却や有利子負債の検討も
戦略投資や株主還元強化の原資は、営業キャッシュフローのほかに資産売却や有利子負債の活用などを検討していく考えで、「バランスシートマネジメントも活用し創出する」(鈴土常務取締役)としている。
◎31年度業績目標は変更せず 売上高1000億円、営業利益285億円目指す
長期経営計画の最終年度となる31年度の業績目標は変更せず、31年度に売上高1000億円、営業利益285億円、ROE10%以上、海外売上高比率30%以上――を目指す。鈴土常務取締役は営業利益の今後の推移に関し、「25年度以降、クレナフィンのパテントクリフの影響と、戦略投資による費用増加に伴い、利益は一時的に減少する見通し」としたが、「戦略投資を中心に新薬の上市、海外展開を通じて利益成長を図る。31年度の営業利益285億円を目指す」と強調した。
◎24年度通期予想を修正 導入・導出・米社買収で売上上方修正 利益は一部下方修正
科研製薬は4月8日、24年度(25年3月期)の連結業績予想を修正した。修正後の業績予想は、売上高は前回予想から55億円増の940億円(前年度比30.5%増)、営業利益は前回予想と同じ208億円(同118.6%増)、親会社帰属の当期純利益は2億円減の140億円(同74.5%増)――とした。
売上高の上方修正は、STAT6阻害薬のライセンス契約締結に伴う契約一時金の受領などによるもの。利益面の修正は、TYK2阻害薬・ESK-001のライセンス契約締結に伴う契約一時金の支払いや、アーディ社買収に関する費用支払いなどを精査した結果となる。堀内社長は、「24年度の期初計画では増収減益を見込んでいた」とした上で、この1年間に開発品の導出や海外展開で複数の進展があり、「増収増益の着地となる見込み」と述べた。