アンジェリーナの主治医ファンク氏 乳房の予防的切除 乳がん罹患リスク「ゼロではないが、ゼロに近い」
公開日時 2014/02/18 03:50
乳がん発症予防のため両乳房を切除した米女優アンジェリーナ・ジョリーの主治医であるクリスティ・ファンク氏(ピンク・ロータス・ブレスト・キャンサー病院)が2月14日、理化学研究所が横浜市で開いたシンポジウムで、遺伝性乳がん・卵巣がんの予防医療をテーマに講演した。遺伝子検査により乳がんや卵巣がんの高度発症リスク原因遺伝子「BRCA1/2」の変異があると診断された人では、「私の経験上、およそ85%が乳房の予防的切除を選択する」と話した。同氏は1000人以上に乳房切除術を行った経験があり、「将来、乳がんの発症がゼロとは言えないが、ゼロに大変近い」とその有用性を強調した。
BRCA1/2はがん抑制遺伝子で、変異が生じて機能不全となった場合に乳がんや卵巣がんが発生することで知られる。この遺伝子変異保有者では70歳までに乳がんに罹患するリスクは最大87%、卵巣がんは44%。2つ目のがんの罹患リスクも上昇し、5年以内に乳がんに再び罹患するリスクは最大27%、70歳までに64%まで高まる。さらに、最初に乳がんと診断された後、10年間で卵巣がんの罹患リスクが高まるほか、前立腺がん(男性の場合)や膵臓がん、悪性黒色腫などの罹患リスクも上昇するという。遺伝子変異保有者では、親から子に50%の確率で遺伝する。
遺伝子検査によって高リスクと診断された場合は、罹患リスクを低減するため、▽自己検診、マンモグラフィー、MRIなどの定型的ながん検診▽タモキシフェンや経口避妊薬の内服といった薬物療法▽乳房切除術、両側卵巣卵管切除術といったリスク低減手術――が選択肢としてある。
このうちアンジェリーナ・ジョリーが行ったリスク低減手術は国内外で大きな話題を呼び、未発症者の心理的負担を減らす治療法として注目された。ファンク氏は乳房切除を行った場合、乳がん罹患リスクが90%以上低下し、卵巣摘出した場合の卵巣がんの罹患リスクは96%低下するとして、その有用性を強調した。
アンジェリーナ・ジョリーが乳房切除を行ったことを公表したことについては、「彼女の仕事、親としての仕事を含めて、彼女の37歳という年齢での切除は人生のタイミングとして理想的」と述べるとともに、「(BRCA遺伝子変異への)知識の啓発につながっただけでなく、以前は周囲の知識・理解不足から家族や親族に批判されることの多かった乳房切除を選択する人が、周囲の支援を得ることができるようになった」と社会に与えたインパクトの大きさを指摘した。
◎卵巣摘出の推奨年齢は「40歳未満」
ファンク氏は、早期発見が難しいとされる卵巣がんを発症する前の予防的卵巣切除についても触れた。日本では一般的ではない治療法だが、BRCA遺伝子変異保有者では「40歳を超えると急速に発症率が高まる」と説明。切除が推奨される年齢として、▽家系内の最も早い卵巣がんの発症年齢より10歳若い年齢▽40歳未満▽妊娠・出産を完了していればすぐ――を挙げた。
ファンク氏は、「卵巣切除は40歳未満が推奨されるが、アンジェリーナが40歳未満という年齢で卵巣の予防切除を選ぶかどうか分からない。もっと子供を産みたいかどうかという判断にもかかわるので、婦人科と相談する必要がある」とも語った。