製薬協・上野会長「シーリングのあり方を考える時期に来ている」 給付と負担の議論必要性も指摘
公開日時 2025/02/27 06:00
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日本製薬工業協会(製薬協)の上野裕明会長(田辺三菱製薬)は2月26日に開いた会見で、社会保障関係費について「シーリングのあり方そのものを考える時期に来ている」と主張した。少子高齢化が進む中で、政府は社会保障費を高齢化の伸び相当分に抑制する方針を堅持する。上野会長は乖離率が縮小傾向にある中で、「薬価差をベースにした財源捻出のやり方は、限界に近づきつつある」と指摘。「医療の高度化や物価・賃金の上昇を反映できるような構造」とする必要性を強調した。一方で、医療保険制度の持続可能性の観点から、“給付と負担”の議論に踏み込む必要性にも言及した。「状況を考えれば、議論はなるべく早くさせればさせなければならない。それでないと機を逸してしまう」と危機感も示し、骨太方針2025に向けて、製薬協として働きかけを強めていく姿勢を強調した。
◎日本の魅力度向上「成長市場であることが必要」 医療の高度化、物価・賃金上昇反映を
製薬協がこの日公表した「政策提言2025」では、柱の一つに、「イノベーションの適切な評価」を掲げた。上野会長は、日本市場の魅力向上に向けて、「まずは市場全体が成長市場であること」の重要性を強調。「それによって、海外からの投資を呼び込みやすくなり、また製薬産業が基幹産業、成長産業となる上で重要なことだと考える」と述べた。2月18日に閣議決定された「第3期健康・医療戦略」に官民協議会の議論を踏まえて日本市場の医薬品売上高を増加基調とすることなどが成果目標に盛り込まれたことを引き合いに、「この目標を達成するためには、社会保障関係費のシーリングの見直しが必要だ」と強調した。
現状の社会保障費について、「高齢化の伸びのみを許容する形で、それ以外の増加分についてはその大部分を薬価改定による薬剤費の抑制で補い、社会保障費全体で全体の伸びを抑えている状況が続いている」との認識を表明。そのうえで、「社会保障費全体の中で高齢化の伸びだけではなく、医療の高度化や物価・賃金の上昇を反映できるような構造として革新的新薬創出の加速や事業の健全化、医薬品の安定供給につなげていくべき」と主張した。これにより、「医薬品市場の成長が確保され、魅力ある日本市場の形成につながる」と強調した。
◎木下理事長 税収の伸びとセットでシーリングの枠検討を
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製薬協の木下賢志理事長は税収が増加している状況を加味する必要性を指摘。「ある程度歳入が伸びている一方、社会保障だけ、従来通りのやり方で自然増を圧縮している。一定の歳入があった時に、少しシーリングを解放するなどということも合わせて考えていただければありがたい」と述べた。
◎給付と負担の見直しに言及「高額医療は公助、軽医療は自助で」 国民的な議論を
日本維新の会が医療費4兆円削減を掲げるなど、社会保障費への社会への目は厳しさを増す中で、上野会長は「給付と負担の見直し」の必要性に言及した。「いまある国民皆保険制度の堅持を前提に考えると、一定の財源の中で、何を保険で賄うかということになる」と表明。「一般的な考え方」と断ったうえで、「高額医療は公助の中で考え、軽医療はだんだんと自己負担の方にという考え方のもとに、どういう割合でということになるかと思う。高額医療は保険負担と言っても、どこまで保険でみて、どこまでを患者さんご自身でみるかというところにつながっていると思う」と述べた。
「国民的な議論をもっとしないと本当に根本的な問題は解決しない。でも解決せねば、本当にこの今の日本のその医療環境がだんだんこう崩れていくというのもひとつの事実だと思う。本当に難しい議論だが、そういった認識が高まっていること自身、私はやっぱり今までになかったことで、ポジティブに捉えている」と述べた。OTC類似薬の保険適用除外などの議論もあるが、賛否は明言せずに、「もちろん医療従事者の声も聞かなくてはいけない。重要なのは、国民がそれをどう受け止めるか、というところの議論かと思う」との認識も示した。
◎26年度薬価制度改革へ「市場拡大再算定の特例、費用対効果の価格調整範囲拡大に反対」
26年度薬価制度改革の議論を前に、「まずは、短期的には市場拡大再算定の特例の廃止、費用対効果評価制度を保険償還の可否判断に用いることや、価格調整範囲の拡大には反対してまいりたい」と明言した。上野会長は、医薬品の研究開発は長い年月がかかり、成功確率も低いことから、出口に当たる薬価制度の予見可能性の必要性を強調。「将来的には市場拡大再算定の運用の本質的な見直しや、新たな費用対効果評価制度の構築に向けた議論を始められればと思っている」とも述べた。
◎柔軟な類似薬選定で革新的新薬の評価を
薬価制度を革新的新薬の価値を評価できる仕組みへと見直す必要性も強調した。モダリティが多様化する中で適切な類似薬が選定できずに、革新的医薬品の多くが原価計算方式で算定されており、「新薬の価値が十分に評価されない状況になっている」と問題意識を示した。
そのうえで、「革新性の高い医薬品について、類似薬の選択をより柔軟に行い、原価計算方針によって算定される品目を減らす」ことを提案した。現行の類似薬効比較方式では、効能・効果、薬理作用、組成・化学構造式などの類似性から類似薬が選定されているが、疾患特性や製剤特性も加えて総合的に類似薬を判断できるようにする必要性を指摘した。
◎産業ビジョン「我が国、そして世界に届ける創薬イノベーション」掲げる
製薬協はこの日、産業ビジョン2035と政策提言2025を公表した。上野会長は、「ビジョンは社会、国民等幅広いステークホルダーを対象に、我々のありたい姿、目指す姿をまとめたもので、年ぐらい10年くらいのスパンを考えている。一方、政策提言はその実現に向けて、足下の2年間を目途に政府や政策立案者に向けた提言、我々自身のアクションプランをまとめたもの」と説明。産業ビジョンでは、「我が国、そして世界に届ける創薬イノベーション」を掲げ、①イノベーションを継続的に創出し、健康寿命の延伸とともに我が国の経済成長に貢献する、②国民に革新的新薬を迅速に届け、健康安全保障に貢献する、③倫理観と透明性を担保し、社会から信頼される産業となる―ことを柱としている。ビジョンの改訂は16年以来となる。