【解説】RE-LY試験の結果を読む-ダビガトラン登場のインパクト
公開日時 2009/08/31 15:30
これまでワルファリンが柱となっていた心房細動患者における脳卒中や全身性塞栓症の発症予防。このスタンダード治療が、直接トロンビン阻害薬や抗Xa剤が臨床現場に登場することで、大きく変わろうとしている。臨床試験結果からみえるダビガトラン エテキシラート(以下、ダビガトラン)の特徴から、臨床現場に与えるインパクトを探る。
(望月 英梨)
抗凝固薬としては、ワルファリンが汎用されている。しかし、脳卒中の発症予防効果など有効性は高い一方で、有効性と出血リスクとの間にある治療域が狭いため、定期的なモニタリングが必要となる。また、薬剤や食物との相互作用があり、留意することも求められる。相互作用がある代表的な食物が、納豆やグレープフルーツジュースだ。
これらの理由から、実臨床では、心房細動と診断された脳卒中高リスク患者のわずか51%にしか投与されていないとのデータもある。また、治療を行っていても、適切な治療域にコントロールできている患者は半数にも満たないといわれている。
そのため、有効性と安全性のバランスがとれた臨床医にとっても使いやすい薬剤の登場が求められていた。ダビガトランは、凝固系カスケードの最終段階にある"トロンビン"を直接阻害することで効果を発揮する新たな作用機序をもった経口薬だ。
腎臓で排泄されることから、薬剤や食物との相互作用が少ないことや、治療域の広さが特徴。効果発現までの時間も短時間だ。半減期も12~17時間と既存薬と比べても短い。出血傾向が強いワルファリンは、手術時に休薬するケースもあったが、休薬している間に心血管イベントを発症することも指摘されていた。同剤では、半減期が短いため、休薬しても期間が短くすむという。
今回発表された「RE-LY」試験の結果は、これまで適切な治療域にコントロールできていれば有効性が高いとされたワルファリンとの非劣性を有効性・安全性の両面から示す結果となった。特に、このクラスの薬剤では、有効性を高めると、その結果として出血傾向が増加することが指摘されていただけに、安全性を担保したのは大きいといえる。脳出血が多いといわれる日本において、頭蓋内出血を含む出血リスクがワルファリンを下回ったのは見逃せない点だ。
1日2回の経口投与で、血液検査の必要性や、食べ合わせなどを心配しないでよいことから、医師にとっても患者にとっても大きな福音といえそうだ。まさにこれまでのアンメット・メディカルニーズを満たす薬剤と言える。
ただし、新規作用機序の薬剤であるため、今後有効性・安全性の両面でさらなるデータの蓄積は必要だろう。
同試験のコメンテーターとして登壇した英国のJohn Camm氏は、今後抗Xa剤が上市されることにも触れ、「脳卒中予防の治療は新たなパラダイムシフトを迎えた」と述べた。
今後、「RE-LY」試験の結果を皮切りに、同じ凝固カスケードの上流に作用機序を持つ抗Xa剤も登場する。抗凝固薬の市場は、目が離せなくなりそうだ。