抗凝固薬のクロピドグレルとプラスグレル投与時の心血管イベントの発症リスクは、ともにプロトンポンプ阻害薬の併用の有無によらないことが分かった。クロピドグレルは、プロトンポンプ阻害薬と併用すると、効果が減弱することが指摘されていたが、一石を投じる結果となった。学会2日目の8月31日のセッション「Clinical Trial Update」で「TRITON-TIMI38」試験のサブ解析の結果が報告される中で、明らかになった。(8月31日 スペイン・バルセロナ発 望月 英梨)
クロピドグレルは、肝薬物代謝酵素の“CYP2C19”で代謝されるため、この働きを妨げるプロトンポンプ阻害薬を併用すると、効果が減弱することが最近になって分かってきた。そのため、米国FDAと欧州のEMEAは、今年5月にクロピドグレルとプロトンポンプ阻害薬との併用が不可欠でない場合は行わないことを推奨している。
ただ、クロピドグレルやプラスグレルは、アスピリンと併用するケースが多い。アスピリン投与時は胃粘膜保護を目的として、プロトンポンプ阻害薬を投与することも多いとされている。今回の解析は、このような現状を受け、プラスグレルとクロピドグレル投与時のプロトンポンプ阻害薬の使用と、心血管イベントの発症リスクとの関連を調べる目的で行われた。
「TRITON-TIMI38」試験は、PCI(経皮的冠動脈形成術)を受けた急性肝動脈症候群(ACS)患者1万3608人を対象に、プラスグレルの有効性・安全性を検証した試験。同剤のフェーズ3として行われ、クロピドグレルと直接有効性・安全性を比較した。主要評価項目は、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の発症についての複合エンドポイント。
すでに公表されている主要評価項目の発症率は、クロピドグレル投与群で12.1%、プラスグレル投与群で9.9%と、プラスグレル投与群で有意に少ない結果となっている。今回は、このデータを各群ともにプロトンポンプ阻害薬の併用の有無に分けて、再解析した。プロトンポンプ阻害薬を投与されていた4529人、プロトンポンプ阻害薬を投与されていなかったのは9079人。
■PPI有無によるハザード比は大差なく
その結果、プロトンポンプ阻害薬の有無によるハザード比をみると、クロピドグレル投与群で0.96(95%信頼区間:0.82-1.12)、プラスグレル投与群で0.99(95%信頼区間:0.83-1.17)で、大きな差はみられなかった。プロトンポンプ阻害薬を長期間服用していた2814人に絞ってみても、同様にプロトンポンプ阻害薬の有無による心血管イベント抑制効果の差はみられなかった。
■M.O’Donoghue氏「PPI併用避けるべきは支持できない」
結果を報告した英国のM.O’Donoghue氏は、「現在分かっている事実をみると、(クロピドグレルやプラスグレルなどの)チエノピリジン系薬とプロトンポンプ阻害薬の併用は、避けるべきということを支持できない」と結論づけた。試験結果は、9月1日付の「THE LANCET」オンライン版に掲載される。