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アイパーク 日韓エコシステムは「世界市場に進む橋頭保」 韓国・ヨンジュ長官「EUのようなシステムを」

公開日時 2025/02/21 07:00
アイパークインスティチュートは、日韓の国境を越えた“アジアの地域エコシステム”構築にアクセルを踏む。2月20日に開かれたラウンドテーブルでは、韓国スタートアップから、日韓の協業が「世界市場に進む上での橋頭保(海外市場進出などへの足がかり)になる」など歓迎する声があがった。韓国の中小ベンチャー企業部のオ・ヨンジュ長官(大臣)は、日韓の協働により、EUのようなエコシステムを構築できる可能性に言及。「バイオ分野において、日韓間ではそういった協業が発生し得る。市場自体の大きさも規模も大きくなるし、技術力が加味されてグローバルに進める」と力を込めた。

◎メガファーマ存在する日本への期待


アイパークインスティチュートは、2023年11月に、韓国の国家行政 機関である中小ベンチャー企業部と、先端バイオ分野の成長促進のための協業に関する覚書を締結。24年9月には韓国バイオスタートアップ8社がアイパークに入居するなど、協業の第一歩を踏み出していた。アイパークに入居する企業のうち2社が湘南鎌倉総合病院での臨床試験に向けて準備を進めているという。

日韓でのエコシステム構築に至った背景には、互いに相補完的な強みがあることがある。日本には基礎研究を始めた研究力の強さと、メガファーマが存在する強みがある。一方、韓国には多くのスタートアップが存在するものの、「韓国にはビッグファーマがない。また、それとつながるエコシステムが不足している部分がある」(ヨンジュ長官)。韓国政府がエコシステム構築に注力する中で、この一環としてアイパークとの連携に踏みきったという。

◎武田薬品 韓国スタートアップと2件の共同研究開始 「グローバル見据える視座の高さ」も

この日に開かれたラウンドテーブルには、韓国の政府組織、韓国スタートアップ、日系製薬企業が集い、協業開始から1年間の進捗や今後の展望を語った。日本からは、アイパークインスティチュートのほか、武田薬品、アステラス製薬、田辺三菱製薬、住友ファーマ、バイオインダストリー協会が参加した。

協業開始後、武田薬品は韓国のスタートアップを対象とした公募事業を通じ、2件の共同研究を開始するなど、成果の芽も出始めている。

進捗を報告した武田薬品R&Dグローバルリージョンジャパンヘッドオブエクスターナルサイエンティフィックエンゲージメントの寺尾寧子氏は、公募が1か月間と短期間だったものの50社から応募があったことを明かし、「各社の研究を進めたいという熱意とともに、常にそのレディーの状態を維持している、準備の勤勉さが韓国ベンチャーの特質としてあるのではないかということを改めて感じた」と述べた。また、「初めからゴールを日本ではなく、グローバルでの実用化に設定されているという視座の高さにも感銘を受けた」とも語った。そのうえで、非公式のディスカッションの段階から「我々製薬企業は提供できるものはすべて提供するというつもりの心構えで取り組んでいる」、「グローバルでの実用化という観点から、製薬企業はスタートアップにとってのスプリングボードになり得る」との考えを示した。

韓国スタートアップからは、日本の基礎研究の強みに言及する声や、日韓の距離の近さのメリットなどをあげる声も聞かれた。一方で、課題としては日本での起業の難しさや、規制面でのハーモナイゼーションの必要性を指摘する声があった。

◎ヨンジュ長官 VC通じて門戸広げてオープンイノベーションを促進する機会に

ヨンジュ長官は1年間を振り返り、「いま韓国と日本がそれぞれ持っている様々な長所をしっかりと理解をすることができた1年だったと思う。それは、湘南アイパークを通じたマッチメイキングのチャンスを作ってくださったおかげではないか」と述べた。「次の段階で、オープンイノベーションにもう少し集中した良いプラットフォームを作る必要がある。日本のメガファーマと韓国のベンチャーと合わせたから成果が出るわけではなく、ニーズに合わせて成果を出せることを念頭に置いたオープンイノベーションをデザインすることが必要だ」との考えを示した。

さらに、EUが「協業を通じて一緒に市場を作り、大きな市場を共有しながらともに成長している」としたうえで、「バイオ分野において、日韓間ではそういった協業が発生し得る。そして、それを育てるならば、市場自体の大きさも規模も大きくなり、技術力が加味されてグローバルに進めると思う」と強調した。

協業の成功に向けて、資金力の重要性も強調した。日本のベンチャーキャピタル(VC)と韓国のVCの間でグローバルVCが造成されており、韓国の中小ベンチャー企業部の予算も投入されていることも紹介。「日本の製薬企業と韓国のバイオベンチャーにとって、投資が受けられる扉を開ける。そういった方法をいま、企画している。門戸を広げることで、資金面でも貢献し、日韓間のオープンイノベーションをより促進する機会にもなるのではないか」と述べた。

◎グローバルで活躍できるスタートアップ育成で「欧米・世界の資金をアジアに」

アイパークインスティチュートの藤本利夫代表取締役社長はラウンドテーブル終了後に記者団に対し、日韓協業の「継続性」を確認できたことを成果としてあげた。藤本社長は、「基本的にエコシステムは、地域特有で連携は難しいと思っている」と断ったうえで、「強みを出し合って、一緒に欧米にアピールするようなことができたら、非常に大きなシナジーが生まれてくる」と意義を強調した。「日本は、世界に誇るグローバル企業があり、成熟した基礎研究や製品化の技術がある。韓国には製薬企業大手はあまりないが、エネルギッシュにどんどんスタートアップが生まれてくる文化がある。こうした方々が日本の安定した大企業やシステムなどと結びつけば、起業家文化(アントレプレナーシップ)に最も必要な多様性が日本で生まれてくるのではないか」と期待を寄せた。

日韓の協業でEUのようなエコシステムを構築することをヨンジュ長官が提案したことについては、「非常に魅力的な提案で、いまそのように動いていると思う」と表明した。課題としては、「最初に問題となるのはおそらく、規制調和だろう」との認識を表明。アイパークに入居した韓国スタートアップからの要望もあり、PMDA国際部から再生医療等製品の承認に向けたアドバイスを受ける場を設けているという。また、政府が日本の薬事・薬価制度の発信に注力する中で、「規制の調和に向けて一歩進んできているのではないか」との認識も示した。

資金面にも言及。「欧米日韓のスタートアップが獲得する資金の差は、非常に大きい。技術が同時にスタートしても、開発のスピードに圧倒的な差が生まれてしまう」と指摘。「日韓の統合で市場を大きくすることは大事だが、それとともに、ともにグローバルで活躍できるスタートアップを育て、欧米もしくは世界の資金がアジアに流れ込んでくるようなエコシステムを一緒に作っていくことが非常に大切だと思っている」と述べた。「日韓で協力して、世界のインベスターが注目するようなサイクルを作っていければと思っている」と意欲をみせた。

その一つの取組みとして、昨年12月には米・ボストンで、「Shonan Health Innovation Conference(SHIC)」を開催し、日本と韓国のスタートアップとVCや投資家とのマッチングイベントを開催したことも紹介。藤本社長は、「日韓が協力し、トップのスタートアップをセレクションすれば、トップVCでもきちんと会ってくれ、提携の機会も生まれると実感している。継続して行っていきたい」と意欲をみせた。

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