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田辺三菱売却 三菱ケミカル・筑本社長「化学とのシナジー希薄になった」 製薬取り巻く環境変化大きく

公開日時 2025/02/10 04:52
三菱ケミカルグループの筑本学代表執行役社長は2月7日、田辺三菱製薬の売却を決定したことを受けて開いた会見で、「業界や事業構造の変化によって、化学と医薬との親和性やシナジーの顕在可能性が希薄になってきた」と理由を語った。医薬品のモダリティが低分子からバイオへとシフトするなかで、化学に強みを有する同社とのシナジーが見いだせなくなってきたことを理由にあげた。新たなモダリティによる新薬開発に巨額の投資が必要になる中で、「当社グループ傘下においては、実行可能性に一定の制約が生じていたのも事実」と説明。「お互いがより成長する」ために、今回の売却という判断に踏み切ったと強調した。

◎「長年同じ屋根の下で暮らした家族、お互いがより成長するために、袂を分かつ」

「田辺三菱製薬は長年同じ屋根の下で暮らした家族であり、同根だ。大変に親孝行な子供でもあり、大変感謝している。今回、お互いがより成長するために、袂を分かつことになるが、お互いのパーパスの達成に向けて両社ともにますます奮起をする必要があると思っている」-。会見の冒頭、筑本社長は田辺三菱製薬の売却について自らの言葉でこう語った。

三菱ケミカルグループはこの日に開いた取締役会で、田辺三菱製薬をBain Capital Private Equity, LP(ベインキャピタル)が投資助言を行う投資ファンドが間接的に株式を保有する特別目的会社の株式会社BCJ-94 の傘下に異動することを決議した。譲渡対価は約5100億円。6月下旬に予定する株主総会の決議などを経て、25年度第2四半期(25年7〜9月)に売却を完了する。譲渡の具体的な方法については現時点では未定で、両社で協議を進め、現在精査をしており、今後決定する予定という。三菱ケミカルグループは、25年度第2四半期に約950億円の譲渡益を計上する。

三菱ケミカルホールディングス(当時)は2020年に約5000億円を投じて田辺三菱製薬を子会社化。売却などの見方も強まる中で、医薬品事業について「売却を含めたあらゆる選択肢を念頭に置いてポートフォリオ改革を推進している」と表明。昨年11月に「新中期経営計画2029」の公表に際しては、「唯一の問題はパイプラインの拡充だが、我々だけではなかなか大量の資金を独自に投入することは難しい。パートナーを探していくということが我々の道だと考えている」(筑本社長)としていた。

◎譲渡額は「非常に公正」 「早く決断しないと、競争関係が激しくなっている」

筑本社長が会見で繰り返し強調したのが、製薬業界を取り巻く「環境変化」の大きさだ。モダリティの多様化が進む中で、「製薬事業の置かれている状況は大きく変わってきた。モダリティが変化する中で、化学とのシナジーがだんだん薄れてきていると感じざるを得ない状況になった。バイオが多くなる中で、難しいということが今回の判断に至った大きな理由でもある」と話した。

譲渡額が約5100億円となったことについて「非常に公正な額」とする理由としても環境変化の大きさをあげた。「医薬の事業は5年前といまでは世界的な環境が大きく変わってきている。投資額も非常に大きくなってきている。モダリティも変化する中で、現在の評価額としては非常に妥当なものであると思っている」と述べた。「今のタイミングで早く決断しないと、特に製薬の分野では競争関係が激しくなっている。タイミングとしては良かったのではないか」と売却を急ぐことにもつながったとした。

◎決定までに製薬企業との交渉も ベインキャピタルから「創薬・育薬力、国内販売力を評価」

最終的にベインキャピタルへの売却を決めた理由について、「お互いの成長が最も重要と考え、田辺三菱製薬の成長をより推進してくれるパートナーということで選ばせていただいた。ベインキャピタルは、アメリカにおいても非常に強いでファーマのチームをお持ちだ。彼らのチームと田辺三菱製薬の力を合わせることで、さらに一層成長することができると確信している」と述べた。

ベインキャピタルからは、「田辺三菱製薬の創薬・育薬力、日本国内における販売力について非常に高い評価をいただいた」という。荒木謙執行役員ポートフォリオ改革推進所管は、「ベインキャピタルの投資先であるバイオテック企業の日本進出、日本での製品最大化や、田辺三菱製薬が大型製品を導入する際の資金的なサポートを行うなど、ハイレベルのアイデアをシェアいただいた」ことも説明した。

売却先の決定に至るまでに、製薬企業との交渉もあった。筑本社長は、「製薬企業さんも含め、パートナーとなる方、特に分野が同じようなところを目指されている方や、新たな分野を一緒に考えたいという方もいらっしゃった。当初、かなりの数が検討の対象になったが、最終的にベインキャピタルが一番よかろうということになった」と明かした。「製薬企業との戦略的なパートナーシップでは、先方が得意な分野は続けていきたい、もっとやりたいとなるが、そうでない分野については、興味がないということ。ベインキャピタルは、それを全て受け入れてやっていくことができるというのがもう最大の良かった点だと思う」とも話した。

◎人員削減など「短期的に大きな動きがあるとは想定していない」

事業分野の切り売りなどを懸念する声もある。今後のベインキャピタルの決定であることから筑本社長は「全くわからない」と断ったうえで、「(ベインキャピタルが)あれだけのファーマ事業を抱えていて、短兵急にどうするということはないと私は思っている。直接お話をさせていただいたときに非常に熱い思いを頂戴した。お任せして十分に足る企業だと感じている」と述べた。

全世界で5000人以上の従業員がいるが、人員について荒木執行役員は、「田辺三菱製薬の雇用に関しては大変熱くご配慮いただけるとお約束はいただいている。少なくとも短期的に何か大きな人員等の動きがあるということは想定していない」と説明した。


◎「過去の薬害には引き続き誠意をもって対応」 会社名は変更へ

薬害エイズ事件を引き起こしたミドリ十字が合併を繰り返して現在の田辺三菱製薬となっている。筑本社長は、「過去の薬害への対応は引き続き、ベインキャピタルの下で患者さんに寄り添って誠意をもって対応するとうかがっている。その点ご安心いただけると幸いだ」とも述べた。

今後、“田辺三菱製薬”の名称も変更されることになる。「一つ言えることは田辺三菱製薬の三菱という名前は取らせていただくことになる。その後どういう名前になるかはこれから、ベインキャピタルを中心に検討していただくことになる」(荒木執行役員)という。

◎ベインキャピタル 田辺三菱製薬を「独立した企業」として支援

ベインキャピタルは同日、田辺三菱製薬について「独立した企業として、メディカルイノベーションの伝統をさらに発展させながら、事業開発、ライセンス活動、創薬活動の生産性向上、商業化、戦略的買収を通じて、新たな成長機会を開拓していく」と発表した。

ベインキャピタル・プライベートエクイティのパートナーである末包昌司氏は、「田辺製薬は、何世紀にもわたり日本の患者に革新的な医薬品を届けてきた企業だ。今回そのような企業と提携し、そのさらなる成長と進化を支援させていただけることを光栄に思う。同社は独立した企業として、当社のグローバルなリソースからの全面的な支援と、ヘルスケアバリューチェーン全域で価値創造を推進してきた当社ヘルスケアチームの豊富な経験を活用できるようになる。ベインキャピタルは同社と緊密なパートナーシップを築き、ベスト・イン・クラスの国内医薬品プラットフォームを構築する支援をさせていただけることを楽しみにしている」とコメント。

ベインキャピタル・ライフサイエンスのパートナーであるRicky Sun氏は、「日本の政府や規制当局が日本市場における革新的な医薬品の開発と承認を加速させるためのイニシアチブをいくつか開始したことから、日本のライフサイエンス産業には成長と未開拓の機会という明るい兆しが見えている。今回の投資は、当社チームの臨床的知見とカンパニークリエーション・サポートを活用し、アンメット・メディカル・ニーズが非常に高い領域で長期的な基礎的医薬品開発に焦点を当てた大規模プラットフォームを構築することで、最終的には日本だけでなく世界中の患者に革新的な医薬品を届けられる素晴らしい機会だ」とコメントを寄せている。
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