H1

あなたはナニモノですか?

エディタV2

24年8月号『「自分にしかできないこと」で社会貢献を』から思うこと

こちらのコーナーでは、ミクス本誌の記事から人事担当者の目線で気になった記事を主にキャリア開発の視点から読み解いていきます。
製薬業界に関するニュースが日々飛び交うなかで皆さまのキャリア構築の一つの視点として読んでいただけますと幸いです。

今回は、8月号に掲載されている記事、『「自分にしかできないこと」で社会貢献を』にフォーカスを当てたいと思います。

「帰納法的キャリア形成」のススメ
今回の記事は、東京医科大学と東京藝術大学を卒業された初期研修医の方の紹介ですが、企業の人事部門で20年以上働いてきた私の目にもこの組み合わせはとても新鮮に映りました。複数の専門性を持つという意味の「T型人材」という言葉にはなじみがあったものの、医学と芸術というジャンルはある意味で対局の世界のように感じられ、それらがどのようにハーモナイズされるのかというイメージがわかなかったためです。

多くの企業で上司と部下のキャリア面談が行われるようになって久しいですが、その席で上司が言うお決まりの台詞は、「この先、どのようになりたい?」ではないでしょうか。これは、キャリアの目標から逆算的に「必要な知識や経験をいかに補充するのか」を考えるという正攻法にもとづいた質問なので決して間違いではありません。ただ、設定するゴールに完全な納得感を得られなかったり明確な根拠がない場合は、その逆算が意味をなさなくなる可能性が生じます。

さて、今回の記事の主人公は、二つの大学をめざす時点で「疾患啓発に寄与するアート作品を造りたい」と考えておられたでしょうか。答えは「No」です。紆余曲折を経ながらも自分の道を歩んできた過程で培った二つの専門性が結果的に「希少疾患啓発のためのアート」という形にたどりついたと考えられます。これを「結果論」と切り捨てるのは簡単かもしれませんが、むしろ、帰納法的なプロセスで自分にしか生み出せない価値を見つけ出されたことは称賛に価すると思います。

実は、この帰納法的プロセスは、心理学者のジョン・D・クランボルツによって提唱された「キャリアの偶発性理論」に通じるものがあります。「目標に固執せず、目の前に訪れた想定外のチャンスを活かして未来を切り拓く」という考え方がこの理論の柱ですが、目の前にある現実から解を導き出すという意味では帰納法的と言えます。成り行き任せな一面があるとも言えますが、変化が激しく先を見通しにくいVUCAの時代においてはとても示唆に富んだ考え方ではないでしょうか。
キャリアとは「自分だけが歩んでいく道」
この帰納法的なアプローチでうまくキャリアを築き上げている人たちには共通点があります。それは、「自分にしかできないこと」を強く意識し、それを磨き上げていることです。ゴールから逆算するアプローチでキャリアを考える場合は先人が持つスキルセットを真似るという手段が有効ですが、帰納法的アプローチでは自分の得意なことを研ぎ澄ますことが重要になります。ただ、この研鑽が不充分だと目の前に訪れた想定外のチャンスを見つけ出すことが難しくなることには注意が必要です。


たとえば今回の初期研修医の方の場合、その絵には独創的な世界観やそれを見る人に訴えかけてくる迫力を感じますが、これらは並々ならぬ決意で入学された藝術大学で培ってこられた高い創作技術によるところが大きいと思います。この画才と医学知識が掛け合わされることで他にはない価値を生み出しているのですが、もしその絵が陳腐なものであれば、自身の作品を通して疾患啓発ができるのではないかという考えには至らなかったのではないでしょうか。

ただ、だからと言って、やみくもに自身の強みを高いレベルに到達させればよいということではありません。大切なことは、得意技を研鑽する過程でその活かし方をイメージし、そのイメージを具現化するために磨くべきポイントや到達すべきレベルを明確にすることです。この精度が上がれば上がるほど帰納法的キャリア形成は成功しやすくなります。言い換えると、この精度向上のプロセスは、自分自身がナニモノでどのような価値を提供できるのかを考えることになります。

今回の記事を読んでいて、キャリアを考えることは「自分がナニモノなのかを認識すること」だとあらためて感じました。めざしているポジションに到達することが自己実現と考えるのも悪くはないですが、常識や慣例に縛られず自分の強みを突き詰めながら新しい価値を生み出すこともまた立派な自己実現ではないでしょうか。


新規会員登録(無料)へ

会員登録をするとイベント情報や非公開求人情報など会員限定情報をご案内いたします。

【全】fotter

株式会社ミクス(MIX, Inc)

東京都千代田区内神田2-15-2 内神田DNKビル8階
厚生労働大臣許可 13-ユ-313592

業務提携:ブライトゲート株式会社

【全】copyright