ビジネス環境激変!キーワードは「リスキリング」
コロナ禍や国際紛争、物価高やエネルギー価格の高騰などの影響で、ビジネス環境の変化のスピードが加速しています。製薬業界では、早期退職者の募集や組織再編に伴うポジションクローズを行う企業が相次ぎ、不安感を高めている人もいるかもしれません。では、そんな状況下でいま、私たちに求められている“力”とは何なのでしょうか。自らのキャリアを切り拓いていくという気持ち、そして自らのスキルをアップデート、つまりリスキリングしていくことではないでしょうか。日本のリスキリング啓蒙活動の第一人者である一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブの後藤宗明代表理事は、「自分のスキルをアップデートできるかどうかに、今後のキャリアの選択肢の命運がかかっている」と呼びかけます。後藤さんのインタビューから、いま私たちに求められている新たな働き方を考えていきましょう。
リスキリングって何!?
2022年の新語・流行語大賞にもノミネートされた「リスキリング」という言葉。経済産業省では、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。
最近では、岸田文雄首相が産休・育休中の女性に対してリスキリングを支援する考えを示し、批判を受けましたが、遡る22年10月には、秋の臨時国会における所信表明演説で、リスキリング支援に今後5年間で1兆円の予算を投じる方針を示しており、いま多くの人から大きな注目を集めています。
注目が集まる背景には、技術的失業と呼ばれる「テクノロジーの導入によりオートメーション化が加速し、人間の雇用が失われる社会的課題」が深刻になっているという問題があります。近年では、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応を念頭に語られることも多くなっており、製薬業界で働く皆さんにとっても身近なことになりつつあります。後藤さんは、そんなリスキリングの概念や手法を紹介し、普及に努めており、いま、「リスキリングはやるしかないものだ」と訴えています。コロナ禍や国際紛争など、先行き不安の高まりも相まって、こうした環境下でしなやかに生きていくために、必要だと指摘しているのです。
コンフォートゾーンを抜け出せ!
では、私たちがまず取り組むことは何なのでしょうか。後藤さんは、「今の快適なコンフォートゾーンから抜け出して、行動範囲を増やして、新しい情報を取りに行くということ」だと強調しています。「日常の中の人間関係や情報収集の中で、均質性の高いコミュニティでいればいるほど、新しいことを知る機会が少なくなる」からです。そのうえで、時代の急激な変化を自分事として捉えることができるかどうかが勝負だと指摘しています。
コンフォートゾーンから抜け出す―。後藤さんのメッセージは、年齢が高くなるにつれ、厳しい言葉のように聞こえるかもしれません。しかし人生100年時代のいま、健康であれば70代や80代になっても働く、いわゆる「生涯現役」が当たり前になりつつあります。後藤さんは、「今50代の人は仮に80歳まで働くのであれば、まだ約30年あり、折り返し点でしかない。新しいことは覚えられないとか、逃げ切ることができるのであれば、それに越したことないと思うが、それはもうおそらくできない。そうすると、いかに早く自分自身をリスキリングするかどうかだ」と力を込めます。
そのうえで、リスキリングを始めようとする人に対しては、新入社員の時の仕事の仕方を思い出して、とアドバイスしています。「新入社員の時、何をやったらいいのか全く分からないので、とにかく先輩や周りの方、上司に言われたことをとにかくまずやってみてということがあったと思う。とにかく毎日が新しいことだらけで、一生懸命についてくしかない。がむしゃらにやるということだ」と言います。
原点は100社から突き付けられた「ノー」
実はこの“がむしゃら”な働き方は、後藤さん自らが実践してきたリスキリングでもあります。後藤さんは、銀行員を経て、人材・採用などHR関連、そして米国での起業、NPOやフィンテック企業の立ち上げなど数多くのキャリア経験を積んできました。しかし2014年、43歳の頃に行った転職活動で、書類選考と面接で合わせて100社以上の企業から「ノー」を突きつけられました。
これまでの人生を振り返り、後藤さんは「リスキリングしながら自分自身を変革し続けてきた」と話しています。初めてテクノロジーの分野に取り組む際には、ミーティングの会話が理解できなかったという後藤さん。このため分からない単語を書き出し、インターネットで検索したり、人に尋ねたりして知見を深めていったといいます。まさに節目節目で、新入社員の時のようにがむしゃらに働くことで、自身をリスキリングし、キャリアを広げ、繋ぎ続けてきたのです。
あなたはどちらの社員か?
ミクス編集部が22年9月に行ったアンケート調査で、ある企業は、「現状の課題を理解し柔軟に対応できる社員とそうでない社員との二極化が見られ、その差はますます拡大している」とコメントしていました。コロナ禍や急激なDX化、国際紛争、物価高と外部環境が目まぐるしく変化する今、あなたは「現状の課題を理解し、柔軟に対応」できていると言えるでしょうか。
「外部環境の変化に合わせて、自分のスキルをアップデートしていくっていうことができるかどうかが、これからの残りの人生において、選択肢が増えていくキャリアになるかどうかの命運がかかってると思う。リスキリングはもうやるとか、やらないとか、やりたくないとかの選択肢ではなくて、もうやるしかないものなのだ」-。後藤さんの言葉に、チクリとした胸の痛みを感じる人は少なくないでしょう。1歩を踏み出す勇気がいま求められているのです。
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