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【World Topics】関税強化と米国医療 輸入に頼るジェネリック医薬品中心に高まる供給不安への懸念

公開日時 2025/02/12 04:51
トランプ大統領が、カナダ・メキシコからの輸入品に25%の関税を、中国には10%の追加関税を課す大統領令に署名した。特別課税の理由は両国からの違法移民や薬物の流入を阻止するために米国が国境警備等に支出している経済的負担がきわめて大きいためである。(メディカル・ジャーナリスト 西村由美子)

課税開始は2月4日の予定であったが、トランプ大統領は署名直後にカナダ・メキシコ両国トップとの外交交渉を開始。カナダのトルドー首相、メキシコのシェインバウム大統領との話し合いの結果、両国がそれぞれの国内における国境警備を強化することに合意したとして、その結果を見るための30日間の猶予が設定された。

長い国境線を持つ米国では違法移民や違法物資の多くがカナダかメキシコの国境を超えて陸路で流入する。違法物資の大半は違法薬物でその大半が中国製だと言われている。これら違法移民・違法物資の流入を阻止するために米国が支払っている警備費用は巨額で、しかも近年急激に伸び続けている。2024年度の国境警備費は7ビリオンドル超(1兆円超)で、1994年(400ミリオンドル)の20倍であった。

トルドー首相とシェインバウム大統領はそれぞれカナダ側・メキシコ側の国境で違法移民が米国に流出するのを阻止するための警備を強化(実際には国境警備費を大幅に増額)することをトランプ大統領に約束し、30日間の履行期限を得たところである。

◎ジェネリックの8割が入手困難との試算も 輸入国トップは中国

一方、米国内では、この措置により医薬品の価格高騰ならびに深刻な医薬品不足をはじめとする医療市場へのネガティブ・インパクトへの懸念が広がっている。

中国、メキシコ、カナダはこの順で米国への輸入品供給国のトップ3である。医薬品についてもジェネリック医薬品を中心に中国(1位)、メキシコ(2位)、カナダ(4位)が上位を占めている(ちなみに3位はインド)。新たな関税措置の導入でこれら3カ国からの医薬品供給が低減あるいは停止するようなことがあれば、米国の医薬品市場へのネガティブ・インパクトは必至である。現在流通しているジェネリック医薬品の8割が価格高騰だけでなく入手困難になるとの試算もある。

米国ではジェネリック医薬品が処方薬の90%を占めている。問題はその大半を輸入に依存しており、国内製造力がきわめて低いことである。

ジェネリック医薬品の製造は利益率が低いために大手を中心に既存企業はこの分野への進出に意欲がない。海外の低コスト製品との競争も意欲を削ぐ原因である。利益率が期待できない業界には投資家も関心をもたないから新規ベンチャーの創出も期待できない。

コロナ・パンデミックや大型ハリケーン被害などから、何度も深刻な医薬品不足を経験したバイデン政権は連邦予算を投下してジェネリック製造業の生産力の強化を図ろうと努力してきた。しかし、急増する国内需要にははるかに及ばず、医薬品輸入は依然として年々増加し続けている。

◎薬効成分の製造8割を海外に依存

ジェネリック医薬品だけではない。米国は医薬品の薬効成分の製造の80%を海外に依存しており、医療機器・部品の大半も、マスクや手袋や医療用ガウン等のサプライの大半もほとんど海外に依存しているのである。

懸念される医薬品供給不安への対応策に関するメディアや業界からの問い合わせに対し、ホワイトハウスは「トランプ大統領は関税引き上げで国内産業を育成・拡大し雇用機会を拡充する」との主張を繰り返すにとどまり、個別具体的な対応策には一切言及していない。

米国内での医薬品・医療機器・医療サプライ産業の創出・育成から製品の安定供給の実現までには少なくとも1年半から2年は必要というのが有識者の共通見解である。
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