中外製薬の奥田修代表取締役社長CEOは7月29日、社長懇談会に臨み、一般社員へのジョブ型雇用の導入や実質的な定年廃止を盛り込んだ「新人事制度」を25年1月から導入すると発表した。ジョブ型の導入に伴い、一般社員であっても社内の高度専門人財のポジションに“手上げ”で応募できるほか、健康で働きたい意思と成果を出せる人財であれば、会社とのマッチングで65歳を超えても働くチャンスを得ることができる。奥田社長CEOは、今回の人事制度の刷新が同社の「TOP I 2030」達成に不可欠と強調した上で、「社員一人ひとりが自分で考え、キャリアを自らデザインでき、主体的に実行できる人財」を求める考えを打ち出した。

「これまで通りのやり方ではTOP I 2030の目標は達成できない。我々はそれくらい高い目標を掲げている。であるならばトップがあれこれ指示を出して動くような組織だといけない。社員一人ひとりが主体的に、こうやってみる、違うやり方を考えてみる、その上で動くことのできる人材が必要だと強く思った」―、奥田社長CEOはこう指摘する。続けて、「やりがいを感じ、自らが主体的に成長し、会社のプロジェクトや会社に貢献できるヒトが大切になる」と、人事制度を刷新する意義を力説した。

◎幹部社員に導入済みのジョブ型雇用を一般社員に拡充

同社の新人事制度は、幹部社員に導入済みのジョブ型雇用を一般社員に拡充する。若手社員にとっては、自らが担う職務の明確化とメリハリの利いた評価と報酬を得ることが可能となる。また、一般社員にとって、適所適材と新陳代謝の促進なども期待できるという。奥田社長CEOは制度運用に際し、「成果に対してはメリハリの利いた評価が求められる。“ここが出来ていない”、“こうすればデキル”という上司と部下の会話がすごく重要になる」と見通した。

今回のジョブ型導入に伴い本社は、高度専門人材の活躍促進のためにプロフェッショナルポジションを拡充する。高度専門人財のポジションを公開することで、社員自らが「手上げ」によるポスティングの機会を提供し、社員の複線的なキャリアパスの設計を促進するとした。

◎シニア社員制度を廃止　「中外を卒業する時期」は「自ら判断」　26年から実施予定

一方で、実質的な定年廃止を打ち出した。いままでの制度では、60歳まで正社員として働く社員と、シニア社員として65歳まで働く2ルートがあった。新人事制度ではシニア社員制度を廃止し、ジョブ型で65歳まで働くことが可能となる。また、雇用上限年齢も撤廃することにしており、奥田社長CEOは、「本人の健康状態が良く、働く意思があり、会社が継続して働けるとマッチングできた場合」に65歳以降も働ける環境を整えた。これにより年齢に関わらず担う職務に応じて正社員と同等の処遇を得ることができる。ただし、「健康状態が基準に満たない場合には、会社がお断りすることもある。一概に言えないが健康状態が悪くて働きたいといっても、マッチングが一致するかは分からない」とも述べ、“実質的”な定年廃止の位置づけとも指摘した。このほか、「中外を卒業する時期」については「自ら判断」するとし、2026年から実施する方針も明らかにした。

◎奥田社長CEOが求める人財「自分で考えて、自分のキャリアをデザインして実行できる」

奥田社長CEOは同社が求める人財について、「一番大事なキーワードは“自分で考えて、自分のキャリアをデザインして実行できる”ということ。まさに人生の多くの時間を会社に費やす訳で、これは重要な問題だ。これまでは会社から“これをやってくれ”とお願いすることがと多かった。これからは、まさに主体性をもっと発揮して欲しいということになる」と強調した。

一方で会社側の意図として、「自分のキャリアを築き始める人は仕事に対する“やる気”やモチベーションが向上する。そして、次のキャリアを考えて自ら行動するようになる。そうすると組織全体の成長にもつながる」と述べ、この取り組みを通じて「TOP I 2030」の達成に向けて邁進する意思を強調した。

◎社員が“来たくなる”オフィスにリニューアル　横、縦、斜めの繋がりがイノベーションを起こす

このほか社長懇談会では、東京・日本橋の本社オフィスをリニューアルし、社員のコミュニケーションを目指す「カフェKOM」を設置したことが報告された。奥田社長CEOは、「コロナ禍を超えて在宅勤務が当たり前になった。ただ当社は、出社を強制することはない。このため社員自らが“来たくなる”オフィスを作ろうという考え、ハード・ソフトの両面で打ち手を仕掛けた」と強調。「患者さんのためにという同じ思いを持った仲間が、同じ場所に集い、横、縦、斜めの繋がりを強めて、その繋がりがイノベーションを起こす土台になると信じている」と述べた。