ファイザーR&D石橋社長 「グローバル開発のクリティカル・コア」実現で新薬迅速に届ける 変革をリード
公開日時 2024/06/13 04:51
ファイザーR&D合同会社の石橋太郎社長は6月12日に開いたメディアセミナーで、グローバル開発において日本が必要不可欠な「クリティカル・コアになる」ことで革新的新薬を迅速に届けることに意欲をみせた。昨年から、「世界各国で承認を得るためのグローバル開発を日本が牽引することを目指して活動を開始した」ことも紹介。ドラッグ・ラグ/ロスが懸念される中で、課題として指摘されることの多い治験スピードも、他国と同等以上のスピードで、試験全体の組み入れ期間を半減することにチャレンジしていることなどを紹介した。石橋社長は、「ステークホルダーと連携し、日本における医薬品開発の変革をリードしていきたい」と意欲を語った。なお、創薬環境をめぐっては、昨年から厚労省や内閣官房の検討会で議論が進められているほか、6月下旬にも閣議決定される骨太方針でも焦点となっている。
◎グローバルの創薬イノベーション「日本もその一員として役割を果たす必要がある」
国際共同治験が主流となり、医薬品の製造もグローバル化するなど、医薬品をめぐる環境が変化する中で、石橋社長は、「創薬イノベーションサイクルはグローバル規模で機能するもので、国ごとにあったり、一つの国中に閉じていたりするものではない」との見方を表明。「各国で得られた利益は、国ごとに個別に投資されるのではなく、グローバル規模で次の研究に再投資がされる」と説明。「グローバル規模の創薬イノベーションサイクルが機能するためにも、私達日本もその一員として役割を果たす必要があり、そうすることで日本が新薬にタイムリーにアクセスできるようになると考えている」と話した。
◎日本でのFIH試験への取組みに意欲 海外医療機関と連携できる医療機関も増やす
グローバル開発の加速に向けた取り組みとして石橋社長は、「日本のみならず、世界各国の承認申請に使用されるエビデンス創出に取り組んでいる」と説明。革新的新薬を迅速に日本の患者に届けるためには、開発早期から日本が参画する必要性が指摘されている。一方で、そのハードルの一つとして、初めて人に投与する、ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験を実施できる施設が限られていることなども指摘されている。同社は、FIH試験を含めて早期段階の探索的試験に日本もオンコロジー領域などで参画するなどしているという。ただ、実施できる施設数が限られていることから、「その数を増やすために探索的な臨床試験で求められる安全性評価や緊急時の対応、海外医療機関との連携ができる医療機関を増やすことを進めている」と述べた。
◎治験スピード向上にチャレンジ ネットワーク活用で半数のフェーズ3で他国より速く
スピードやコストなど治験環境も課題として指摘されるが、「フェーズ1からフェーズ3を通して、他国と同等、もしくはそれ以上のスピードで患者さんの治験参加を日本で進め、試験全体の組み入れ期間を半減することにチャレンジしている」ことも紹介した。石橋社長は、「海外のチームとうまく連携しながら、日本で実は治験を結構早く立ち上げることができている」と説明。さらに、治験実施設に加え、周辺医療機関や関連施設などとのネットワークを通じて症例集積も可能との見方を示した。「すでに結果がいくつか出てきている。試験を早いタイミングから立ち上げ、日本での組入れを開始することで、日本が参加しているフェーズ3のおよそ半分近くで他国より速いスピードで治験参加を進めることができている」と自信を見せた。
日本では1症例当たりの単価の高さも指摘されるところだが、「他国の物価上昇や為替の影響を除いても、医療機関と業界各社の努力によって結構下がってきている。それほど日本で治験をやると高いという印象はない」とも話した。
◎日本人P1通知を歓迎 「世界各国で使用されるデータを生み出せるのでは」
ドラッグ・ラグ/ロスが懸念される中で、厚労省は昨年、「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」を立ち上げ、薬事規制についての議論が重ねてきた。海外で開発が先行している品目では、「国際共同治験開始前に日本人対象の第1相試験を追加実施する必要はない」ことを明確化する通知が発出されるなど、薬事規制の見直しもすでになされている。
石橋社長はこうした薬事規制の見直しを「非常に我々にとって大きな後押し」と歓迎する。日本で治験を行われない“ジャパン・パッシング”を懸念する声もあるが、否定的な見方を表明。「早期から日本も参加できるようになるのではないか。日本だけではなく、世界各国で使用されるデータを生み出せるのではないかと思っている」と強調した。
「グローバル開発品は、海外と同時期に申請し承認を得ることを原則としている」と話す同社にとっても、新興バイオファーマなどからの導入品については、早期の開発に日本が含まれていないものも多く、結果的にドラッグ・ラグが生じているケースもあるという。新興バイオファーマの日本への参入障壁として日本語も指摘される。日本人P1の基本的考え方は英語版が同日発出されたことや、PMDAがワシントン事務所を開設し情報発信を行うことに触れ、期待感を示した。「我々のグローバルネットワークを通じてそういう例えば交渉が始まったときに、日本での開発の仕方についてインプットできればいいと思っている」とも話した。
◎薬事規制の運用やアップデート 規制当局との対話を通じて
一方で、通知発出後の適切な運用については課題認識を表明。「個々のプロジェクトについて相談に行くと、必ずしもそうした結果になっていない。我々も個社あるいは業界団体として、規制当局とも連携しながら適切に運用される」よう働きかける姿勢を示した。また、「定期的にその内容を見直す、アップデートしていく」重要性も強調。業界団体などを通じ、「いまの規制で課題があるのであれば、(規制当局とも)一緒に議論しながら見直し、日本の創薬力向上につなげていきたい」と話した。
◎ADC有するSeagen社との統合でがん領域に期待 30年にはブロックバスター8以上を
同社の今後のパイプラインについては、がん領域に期待を寄せた。米ファイザーは23年3月にADC技術に強みを有するSeagen社を買収、統合しており、オンコロジーの開発パイプラインを強化した。グローバルでは30年に向け、ブロックバスターを8以上(現在:5)、オンコロジー領域のバイオ医薬品の割合を65%以上(同:6%)、患者数を2倍(100万人)に引き上げることを掲げていることも紹介した。