旭化成の工藤幸四郎社長は5月28日の記者会見で、スウェーデンの製薬企業カリディタス社（Calliditas Therapeutics AB）を株式公開買付けで買収すると発表した。工藤社長は、「カリディタス社は米国医薬品市場の腎疾患領域で強力なプレゼンスを有しており、今後も高い成長が見込まれる」と強調。同社が掲げる成長戦略（GG10）との「親和性も高い」と述べ、買収に踏み切ったことを明らかにした。会見では旭化成ファーマの青木喜和社長がグローバル経営体制について説明し、「比較的リスクの低い専門治療領域に特化したビジネスモデルを想定している。営業費用が低く抑えられ、臨床試験や事業開発に投資しながらも、収益性を維持できる収益構造を目指すことができる」と強調した。2030年度には医薬事業のグローバル売上全体で3000億円を目指すとした。

カリディタス社の買収は同日開催した取締役会で決議したもの。買収における取得価額は約1739億円。24年7月から株式公開買付けを開始し、9月中にクロージングしたい考え。25年度中に営業利益の黒字化を目指すとし、2030年度以降にピーク売上高5億米ドル超を見込んでいる。

◎旭化成・工藤社長　米国事業を腎移植から腎疾患領域まで拡大「シナジーが期待できる」

工藤社長は会見で、2025年度末までに医薬事業の完全統合を成長戦略に掲げ、「One AK (Asahi Kasei) Pharma体制」への移行を進めていることを改めて紹介。「カリディタス社の買収を通じて、米国の医薬事業を腎移植から腎疾患領域まで拡大させる製剤やパイプラインを拡充できる。これによりアプローチする医療機関を増やし、腎疾患領域でのプレゼンスを大いに向上させていきたい」と意欲を示した。

買収するカリディタス社は、すでに米国市場で腎臓専門医向けに疾患進行リスクがある原発性IgA腎症治療薬Tarpeyo（タルペーヨ）を販売している。工藤社長は、米国子会社のVeloxis社の腎移植手術患者向け免疫抑制剤Envarsus XRなどと「シナジーが発揮できる」と期待感を表明。「我々が強みを発揮できる特定の疾患領域にフォーカスして社会貢献する。そして成長市場である北米で新たな成長ドライバーを手に入れることで、グローバルスペシャリティファーマとして旭化成の医薬事業は成長できると信じている」と胸を張った。

◎旭化成ファーマ・青木社長　「比較的リスクの低い専門治療領域に特化したビジネスモデル」

旭化成ファーマの青木社長は会見で、今回のカリディタス社を踏まえたグローバル経営体制のイメージを説明した。青木社長は、比較的リスクの低い専門治療領域（スペシャリティ）に特化したビジネスモデルにする考えを強調。「できれば第3相臨床試験が1本で済むような希少疾患に類する領域、さらにメディカルアンメットニーズが非常に高くて成功確率が高いところにターゲットを絞っていきたい」と語った。

具体的には、自己免疫疾患、腎臓疾患、移植領域、重症感染症の４つを重点領域に掲げている。青木社長は、「ベースとなるテクノロジーはイムノロジー（免疫領域）で、旭化成ファーマ、Veloxis社の持っているそれぞれのテクノロジーでシナジーが発揮できる」と強調した。

◎臨床試験や事業開発に投資しながらも、収益性を維持できる収益構造を目指す

収益構造については、「営業費用が低く抑えられ、臨床試験や事業開発に投資しながらも、収益性を維持できる収益構造を目指す」としたほか、「事業開発については、メガファーマにとっては小さすぎる市場だが、小規模バイオテック企業には大きすぎる市場、今回のIgA腎症をターゲットにするようなM&Aや製品導入などの事業開発を進めていきたい」と意欲を示した。

さらに2025年度末を目標とするグローバル経営体制については、「日本から駐在員をたくさん送り込んで日本人が主体で経営するのではなく、各国の優れた人材が経営する多国籍の経営体制」を目指したいと述べた。

◎最終的には2030年度に医薬事業で売上高3000億円目指す

One AK Pharma体制への移行を踏まえた業績目標について青木社長は、「23年度で1000億円を超えてきている25年度には今回買収するカリディタス社の売上げも入っており2000億円に迫る。最終的には2030年度に3000億円という目標を掲げてアクションしている」と強調した。