国立がん研究センター中央病院は6月26日の記者会見で、希少がんを対象とした医師主導治験をフルリモートのオンライン治験（DCT：分散型臨床試験）で実施すると発表した。対象となるのは、類上皮肉腫の患者を対象としたEZH2阻害薬（E7438）の適応拡大を目的とした臨床第2相試験。今回は、中国・四国地方に在住する患者を対象に、中央病院の医師がオンラインで患者同意や治験薬投与、評価などを行う。また、患者はあらかじめ契約したパートナー病院の四国がんセンターか島根大学医学部附属病院を来院し、治験に関する検査などを実施する。これにより患者は東京の中央病院を一度も来院せずに治験を行うことが可能となる。この日の会見ではオンラインでの患者登録を8月から開始することも明らかにした。

◎「患者団体から地方在住患者の治験へのアクセス改善の要望が強かった」

「地方に居ながら、患者は東京（中央病院）に来ることなく医師主導治験に参加することが可能になるというところが最大のポイント」－。中村健一国際開発部門長（写真）はこの日の記者会見でこう強調した。続けて、「保険診療でがん遺伝子パネル検査を受けた患者のうち、エキスパートパネルで提示された治療薬を投与した患者は8.1%のみ。地方の患者は治験参加のチャンスが圧倒的に少ない。患者団体から地方在住患者の治験へのアクセス改善の要望が強かった」とも指摘した。実際に、希少がん・希少フラクションの治験は特に都市部の病院に集中するという。

中央病院では希少がんを対象とした「MASTER KEYプロジェクト」に取り組んでいる。全国7施設、製薬企業15社が参画し、産学協同の希少がん開発基盤を整備しており、すでに医師主導治験16、企業治験11の計27試験を行っている。ただ、参加施設を全国に広げようと活動しているものの、中国・四国、南九州、北陸などは、「なかなか実施施設へのアクセスがしにくいということが問題になっていた」と中村部門長は指摘する。今回のオンライン治験の実施は、こうした地域に居住する患者の利便性向上を考え、「地元に居ながらにして治験に参加できる環境を整えることにあった」と説明した。また、オンライン治験の第１号として、類上皮肉腫の患者を対象としたEZH2阻害薬（E7438）への適応拡大を目的とした臨床第2相試験を実施する。治験の選定については、適応拡大を目的としたEZH2阻害薬の安全性プロファイルが確立されていることなどをあげた。

◎オンライン治験は「D to P with D」 四国がんセンター、島根大医学部附属病院とパートナー施設契約

具体的なオンライン治験の運用は、中央病院がオンライン診療を使って患者の参加同意や適格性判断、治験継続／中止の判断、有効性評価／安全性評価を実施。患者は居住地から近いパートナー病院を来院し、血液検査や画像診断など治験に必要な検査を受ける。さらにパートナー病院は中央病院と治験の検査に関する契約を締結、検査結果はクラウド上で中央病院と共有することになる。

今回のケースでは、中国・四国地方の患者を対象とするため、四国がんセンターと島根大学医学部附属病院の2施設とパートナー病院の契約を締結。中央病院の治験責任医師と患者がオンラインで面談する際には、パートナー病院の主治医が同席することも規定している。いわゆるオンライン診療における「D to P with D」の形態を採用しているところが特徴だ。

◎患者アクセスに加えて、「治験のコストの圧縮が見込める」

リモート治験のメリットについて中村部門長は、「何といっても地方でこれまで治験にアクセスできなかった患者さんが地方にいながらにして治験に参加できるということが大きい」と指摘。「我々にとってのメリットは患者登録が大幅に迅速化できること。中央病院は関東圏内からしか患者登録できなかったが、これにより日本全国から患者登録ができるようになる。患者登録の期間が短くなるだけで治験コストも減らすことができる」と強調した。さらにデータの質の担保と言う面で、「データをクラウド上に格納することで、我々が遠方までモニタリングしにいく必要もなくなるなど、このモニタリングを簡略化できるというところが、大きなメリットであり、治験のコストの圧縮が見込める」との期待感を表明した。