住友ファーマ・野村社長 ラツーダ1本足からの脱却へ「複数の柱で支える形に構造転換」 新中計を公表
公開日時 2023/05/08 04:51
住友ファーマの野村博代表取締役社長は4月28日、2023年度からスタートする新たな中期経営計画を発表した。同日の会見で、野村社長は、「ラツーダ1本でやってきたが、これからは、精神・神経、がん、そしてその他の領域の色々なモダリティで我々の事業の成長を支えていく。ただ1本足でなくて、複数の柱で支えていく」と事業構造の転換を図る姿勢を強調した。基幹製品の収益基盤の確立に加え、再生・細胞医薬やフロンティア事業などで複数の製品を上市させ、同社を支える姿を描いた。特許切れによる、いわゆる“ラツーダクリフ”に直面する中で、24年3月期にはコア営業損失が620億円となる見通しも示し、24年度以降は黒字化に向けて注力する姿勢を強調した。
「ラツーダ一本足ということでやってきて、ラツーダがLOEを迎え、我々の中で次の成長パイプラインにつなげることにできなかった。そういう点で、大変反省している」-。野村社長は会見で、22年度を最終年度とする前中期経営計画について振り返り、こう口にした。
◎新中計 売上収益CAGR12%以上、コア営業利益1920億円以上
新中期経営計画の初年度となる23年度ではラツーダの売上が「ほとんどなくなる」(野村社長)ことが響き、売上収益は3620億円、コア営業利益が▲620億円の赤字となる見通し。野村社長は、この業績を「底」として、24年度以降黒字化する姿勢を強調。経営目標として、24~27年度は23年度を起点として売上収益は年平均成長率(CAGR)12%以上、コア営業利益は累計1920億円以上、営業キャッシュフローは累計2700億円以上、ROICは累計6.5%以上、ROEは累計8%以上などの数値目標を掲げた。27年度の売上高は約6000億円で、日本市場での売上高は約1000億円を見込む。
再成長に向け、基幹3製品(前立腺がん治療薬・オルゴビクス、子宮筋腫・子宮内膜症治療薬・マイフェンブリー、過活動膀胱治療薬・ジェムテサ)で中期的な収益基盤を確立するとともに、“自社イノベーションの結実”を打ち出し、自社アセットを中心とした新製品で再成長を目指す姿を描いた。具体的には、適応拡大によりラツーダを超えるブロックバスターとなることを期待する統合失調症治療薬候補・ulotaront、DSP-1083(他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞)などの後期開発候補品に期待を寄せた。Ulotarontについては統合失調症の適応で、売上高200億円超の計画も示した。
研究開発については、モダリティについては、従来の化合物だけでなく、再生・細胞医薬やフロンティア事業なども含めて様々なアプローチを行う姿勢も強調した。また、初期の開発段階にある候補についても、バイオマーカーの活用などで、事業性も含めて優先品目を選定し、早期上市につなげたい考えも示した。野村社長は、「再び、ラツーダクリフの二の舞を起こさないそういうことが我々にとって重要なこと」と述べ、一つの大型品を中心とするのではなく、複数の柱を持つことの重要性を強調した。
あわせて、組織改革にも取り組む。北米事業の運営組織を集約するなど再編をきっかけに、経営体制の構築にも取り組む。23年度末までに北米総人員数は約500人削減する方針。
◎「これからも決して簡単な5年間ではない」
野村社長は、「これからの5年間も決して簡単な5年間ではない」との認識を表明。「トップラインをしっかり維持していくという意味では、ハードな5年間になる。研究開発の面においても、ラツーダ一本足ではなくてたくさんのモダリティ―で我々を支えていくものを作っていかなければいけない。我々はどれだけのモノを後期に持っていけるかとそこが非常にまた大変な5年間になるだろうなというふうに思っている」と述べた。そのうえで、基幹3製品の成長などで、「一定の加速がついてくるということになれば、次の5年間は比較的順調な成長を遂げられる」とも述べた。
◎提携で「MRの力発揮できる機会を模索」 製品構成に見合った活動を
日本市場については、再生・細胞医薬事業やフロンティア事業なども含めて、「何とか横ばいを保つ」姿勢を示した。事業の方向性としては、「注力領域での事業収益確保」を掲げた。糖尿病治療薬・ツイミーグなど注力製品の価値最大化に加え、再生・細胞医薬事業、フロンティア事業などの開始を踏まえた強化の必要性も強調した。
1000人体制のMRにも言及。「我々の営業部隊の力はなかなか素晴らしいものだと私は思っている。提携等により、その力を発揮できる機会をしっかりこれからも見ていこうと考えている」と述べ、糖尿病領域に限らず、積極的に導入や提携などに注力する姿勢も示した。MR体制については、「一度壊してしまうとなかなか復活するのは難しい」と述べ、維持する方向性も示した。
MR活動については、「製品構成に見合った活動がしっかりできるようにしていきたいと思うし、またデジタルで情報提供活動後そういうところにも踏み込んでいく」と説明。「我々はいま、糖尿病と精神・神経系と希少疾患をやっているが、これからフロンティア、再生医療というところも出てくるなかで、MRさんの中には、そういう新しい分野での営業活動に対する勉強もしていただき、そういう仕事の方にもシフトしていただくということも起こってくるだろうなと思っている。希少疾患にも新たな提携があるので、そういうシフトもある。我々の事業の内容、質が変われば、そこで求められるMRさんに求められる技量、知識あるいはスキルも変わってくると思うので、それに合わせた研修をしていくということになると思っている」と述べた。