第Xa因子阻害剤初の中和剤オンデキサ 抗凝固薬服用の患者特定が使用可否のポイントに
公開日時 2022/07/07 04:50
アストラゼネカの直接経口抗凝固薬/直接作用型第Xa因子阻害剤の中和剤・オンデキサ静注用200mg(一般名:アンデキサネット アルファ(遺伝子組換え))が5月25日の薬価収載と同時に発売され、緊急手術などにおける生命を驚かす重大な出血の防止に期待が高まっている。同社が6月28日に開催したメディアセミナーでは、国立病院機構九州医療センターの脳血管・神経内科 臨床研究センター臨床研究推進部長、矢坂正弘氏がこのような中和剤が求められてきた背景や治療効果、対象患者を特定するための工夫などについて解説した。
◎DOACで脳卒中発症率は減少も出血性合併症はゼロにはならない
心原性脳塞栓症は、心房細動などによる不整脈で血液が淀んでつくられた血栓が脳内に運ばれ、脳動脈を詰まらせることで生じる脳梗塞の一種。アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞は生活習慣病の進行により動脈硬化が徐々に悪化して起こるのに対し、突然発症して麻痺や意識障害を起こし、死に至る場合もあり、脳梗塞の中でも危険度が高い。また再発率の高さも特徴の1つといえる。そのため、非弁膜症性心房細動がある患者で、脳梗塞の既往、心不全、高血圧、糖尿病などのリスクファクターのうち、1つでも該当すれば、心臓の中で血栓をできにくくする抗凝固薬の使用が勧められている。
抗凝固薬は現在、ビタミンK拮抗薬のワルファリンと4種類の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)があり、使いかってが良く頭蓋内出血の少ないDOACの使用が増加している。九州医療センターの矢坂氏は、抗凝固薬の使用率増加に伴い脳卒中の発症率が低下しているイギリスのデータを踏まえ、「2012年前後から発症率が減少に転じているが、この頃からDOACが登場し、普及し始めた。つまり、この薬をきちんと使うことによって心房細胞に伴う脳梗塞にブレーキをかけることができる」と述べ、DOACの予防効果の高さを示した。
一方、前述のとおりDOACはワルファリンに比べて頭蓋内出血など出血性合併症が少ないと報告されている。とはいえ、心原性脳塞栓症予防のためにDOACを投与している患者の頭蓋内出血発生率は年間で100人当たり0.4人となり、6ml以上の血腫拡大を経験する可能性は抗凝固剤非投与患者より3.5倍高いというデータもある。
「確かにDOACにより頭蓋内出血は減っているがゼロにはならない。血液が固まるのを防ぐ薬を使っていたら、宿命的に出血性の合併症はついて回る。200万人と言われている心房細動の患者さんが脳梗塞予防のためにDOACを服用していたら、年間で0.4%にあたる8000人が頭蓋内出血を起こすことになり、看過できる数ではない」と矢坂氏は指摘。その上で頭蓋内出血の予後も良くないというデータを示し、出血発現時の止血対応の重要性を強調した。
◎対象患者の特定にお薬手帳、スマホを利用
その決め手となるのが、DOACの効果を打ち消す中和剤の存在だ。これまでダビガトランにしか出血発現時に使用できる中和剤がなかったが、このほど第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバントシル酸塩水和物)に対する中和剤オンデキサが発売され、4種類あるDOAC全てにおいて中和剤が出揃った。
効能または効果は「直接作用型第Xa因子阻害剤投与中の患者における、生命を脅かす出血または止血困難な出血の発現時の抗凝固作用の中和」であり、留意点として最終投与時の1回投与量、最終投与からの経過時間、患者背景等から、抗凝固作用が発現している期間であることが推定される患者にのみ使用するとしている。
矢坂氏は、添付文書の解釈について「効能・効果の文言は硬めに記されているが、実臨床の現場では抗凝固薬の投与中であれば、出血量がそれほどでなくても止血困難な出血と判断する。また臨床試験ではDOAC最終投与から18時間までの方が組み込まれていたことから、この18時間が抗凝固作用の発現期間の目安になると思う」と説明した。
第Xa因子阻害剤投与中で急性大出血を発現した患者を対象に、オンデキサ投与後の抗第 Xa因子活性の低下および止血効果を評価した国際共同第Ⅲb/Ⅳ相試験(日本人を含む)では、全体集団324例のうち約8割で点滴静注修了12時間後の止血効果が認められ、第Xa因子阻害剤3剤間の差も見られなかった。
オンデキサを使用する前提として、第Xa因子阻害剤が投与されている患者の特定が必須となる。頭蓋内出血等で救急搬送されるといった患者が想定される中、矢坂氏は「お薬手帳を常時携帯してもらったり、最新の処方内容をまとめたものを財布の中に入れておく、あるいはその処方内容を写真にして誰にも見れるようにスマホの待ち受け画面にするといった工夫が必要。そうでないとせっかく中和剤ができたのにDOACを服用しているのか否か、または服用していても薬の種類が分からないといった理由で使用を断念せざる得なくなるケースが出てくる」と留意点を指摘した。中和剤の普及を図っていくためには、第Xa因子阻害剤を含むDOAC投与患者への日常からのこういった指導も重要ということだ。