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米メルク 心血管パイプライン縮小も執拗な追究

公開日時 2012/08/23 04:00

 米メルクは、得意分野である心臓血管疾患(CV)治療薬のパイプラインにおいて今後の主力品と見込まれていたMK-0524 Bの開発を無期限保留とした。同社のCV領域でのパイプラインが貧弱となりつつあるなかでの中止のため、同社は今後もCV領域を重視する考えだが、同社のCV領域における今後の動向が注目される。


MK-0524Bは、治験薬Tredaptive(長時間作用型niacin/laropiprant:MK—0524A)と同社のブロックバスターであるZocor(シンバスタチン)の配合剤だ。Zocorの特許は2006年に切れている。同配合剤はLDLコレステロールを下げ、HDLコレステロールを上げる作用を持つ。メルクは2014年のFDA承認を予定していた。メルクは、今回の同剤無期限保留の理由について、「業務上の理由」としか明らかにしていない。


Credit Suisse Groupのアナリストは、2011年1月に「0524Bは、2012年に発売、2015年までに7億8750万ドルの売上に達する」と予測していた。


CV疾患治療薬はメルクの2011年総売上の約9%を占める。同社の2011年R&D費は他の大手製薬企業と同程度だが、R&D費の多くはCV疾患薬のアウトカム臨床試験に使われている。アウトカム試験のうち3件が高コレステロール治療薬を対象としたものだが、これら試験結果が好ましくないとして論議となっている。これら試験のひとつにコレステロールエステル転送タンパク(CETP)阻害剤anacetrapibを検証しているフェーズIIIのDEFINE試験がある。 同剤は劇的なHDLコレステロールの増加とLDLコレステロールの低下を示した。現在、30000例を対象としたREVEAL試験が実施されており、2015年に結果が出る予定。


CETP阻害剤については、ファイザーが2006年にCVイベントが増加したとの理由でtorcetrapibの開発を、今年5月にはロシュが「臨床的に有意義な効果がみられない」との理由でdalcetrapib開発の中止を発表するなど開発断念が続いている。それにも拘わらず、メルクとイーライリリーがCETP阻害剤の開発を推進している。しかし、今までの同剤の臨床開発の困難さは同剤の高いリスクへの賭けになっている。


メルクのパイプラインにある高コレステロール治療薬は、anacetrapibとTredaptiveのみである。メルクは3件のアウトカム試験の結果に自信を持っているようだ。前述2剤のほかに、プロテアーゼ活性化受容体-1(PAR-1)拮抗剤vorapaxarを対象としたTRA-2P TIMI50試験がある。同剤は、心臓発作後の併発イベントを予防する追加療法だ。試験では26449例の心臓発作、脳卒中あるいは末梢動脈疾患発症後の安定した状態にある患者を対象として同剤の効果を検証した。


同剤は、心筋梗塞、脳卒中などCVイベントを原因とする死亡の主要複合エンドポイントのリスクを減少させた。この結果は、3月24日に米シカゴで開催された米国心臓学会(ACC)で発表され、同日、学術誌「New England Journal of Medicine」にも掲載された。しかし、同結果は、同剤が出血のリスクも増加させることも示した。だが、これは驚くべきことでもなく、別のTRACERと呼ばれるフェーズIII試験(12944例)でも頭蓋内出血を含む出血率が高くなりすぎたため、早期に中止となっている。


メルクの広報は、「これら試験結果について薬剤プロファイルを良く理解するために、かつ今後の対応について、治験担当医や専門家と協議している」と話している。


メルクは、小腸コレステロールトランスポーター阻害剤エゼチミブと高脂血症薬シンバスタチンの配合剤Vytorinについて2件の大規模アウトカム試験を実施してきた。CVイベント予防にスタチン系薬剤単剤よりも同配合剤が効果があるかを検証するIMPROVE-IT試験と慢性腎疾患患者におけるCVイベントを減少できるかを検証するSHARP試験だ。メルクは、IMPROVE-IT試験については、2014年までに18000例が集積でき、目標とした5250項目の臨床的エンドポイントを達成できると見ている。


IMPROVE-IT試験は、Vytorinがメルクのもつ残り少ないCV領域の薬剤の1つだけに同社にとって重要な意味を持っている。Vytorinの処方数は同剤の有効性が問題になって以来、落ち込んでいる。そのため、証券アナリストらは、同剤の失敗の確率を60%と見込むなど厳しい見方を示している。


メルクは、第Xa因子阻害剤betrixabanの開発権を2011年3月にPortola Pharmaceuticals Incに返還したほか、Cardiome Pharma Corpの抗不整脈薬vernakalantの開発も断念するなどCV領域のパイプラインが縮小している。


メルクのKen Frazier CEOは、ゴールドマン・サックス主催の会議で、同社は予想が難しい心血管アウトカム試験に多額の投資を行っているが、これはすでにポートフォリオにある薬剤について規制上の要求に応じているもので、長期的なものではないと投資家の懸念払拭の発言をしている。そのうえで、同CEOは、「これらはリスクを取る価値があるから行っている。従って、必ずしもメルクの将来のパイプラインの方法がこのように展開されるものだというように見てほしくない」と悲観論の打ち消しに努めた。
 


The Pink Sheet 8月13日号
 


 

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