日医・松本会長 26年度診療報酬改定「診療所の経営状況、大変苦しい」 24年度改定後に著しく悪化
公開日時 2025/04/24 06:58

日本医師会の松本吉郎会長は4月23日の定例会見で、2026年度診療報酬改定に向けて、「病院のみならず、診療所の経営状況も大変苦しい状況にある」と強調した。特に、24年度改定から病院・診療所ともに赤字の病院が拡大し、経営状況が「著しく悪化している」との見方を表明した。松本会長は改めて、「まずは補助金での早期の適切な対応が必要であり、さらに診療報酬で安定的に財源を確保しなければならない。26年度診療報酬改定の前に期中改定も必要な状況にあり、補助金と診療報酬の両面からの対応が必要だ」と強調した。
松本会長は、4月14日に開かれた自民党社会保障制度調査会に厚労省が提出した資料を引き合いに、診療所の経営状況について言及した。病院・診療所の24年度の経常利益率を機械的に推計したデータによると、病院のみ運営する法人では最頻値が▲1.0~0.0%、無床診療所のみ運営する法人では▲3.0~▲2.0%、有床診療所のみ運営する法人では▲1.0~0.0%だったことを紹介。22年度、23年度の実績ベースでは0.0~1.0%が最頻値となっており、「24年度診療報酬改定後に経営状況が著しく悪化している」との見方を示した。
そのうえで、「賃金上昇と物価高騰、さらには日進月歩する医療の技術革新への対応へは十分な原資が必要。他産業では賃金等が上がっており、経済成長の果実を利用して、補助金や診療報酬による機動的な対応も行わなければならない」と訴えた。
◎「公助、共助の経済成長の果実を社会保障に還元を」 現行の保険料水準のままでも増加
医療財源については、「税金による控除、保険料による共助、患者さんの自己負担による自助の3つのバランスをとりながら進め、自己負担のみを上げないこと、あわせて低所得者への配慮が重要」との見解も改めて表明した。税収が増加するなかで、「税収増加分の社会保障関連、特に医療へのさらなる投入が、適切な医療を提供する上で欠かせない」との見解を表明。他産業で賃上げがなされていることから、「現行の保険料水準のままでも共助の財源は増加している」とも述べた。「医療保険財政を守るためにも、政府の求める賃上げをしっかりと進めていくことは極めて重要だ。公助、共助の経済成長の果実を、医療をはじめとする社会保障に活用して、経済をさらに好循環させていかなければならない」と訴えた。「丁寧な議論を重ねることを前提としてだが、負担する能力のある方には、ご負担いただくということも必要になるかもしれない」とも述べた。
そのうえで、松本会長は改めて、「高齢化の伸びの範囲内に抑制するという社会保障予算の目安対応の廃止」の必要性を強調。骨太方針2024において記載された「経済物価動向等に配慮しながらという文言ではまだまだ弱いことから、さらにそれを強めた文言としなければならない。財政フレームを見直し、別次元の対応とすることが必要だ」と述べた。診療報酬については、賃金・物価動向に対応する新たな仕組みの導入の必要性も強調。現行制度下では、「これ以上の賃上げは到底不可能であり、このままでは人手不足に拍車がかかり、患者さんに適切な医療を提供できなくなってしまう」と危機感を露わにした。このほか、小児医療・周産期体制の強力な方策の検討も求めた。
◎給付と負担のバランス指摘する財務省のデータ「もはや卑劣であると言わざるを得ない」
財務省が財政制度等審議会財政制度分科会に、日本が諸外国と比べて給付と負担のバランスが不均衡の状態に陥っていることを示したデータを提示したことにも言及した。データが消費増税前の15年のものだとして、「自らに都合がよくなるようなデータを恣意的に利用した主張を引き続き展開している」と指摘。直近の22年のデータでは日本の給付と負担のバランスは改善されているとして、「あたかも社会保障支出の膨張によって給付と負担のバランスが悪化し続けているような主張をすることは、もはやまあ卑劣であると言わざるを得ない」と糾弾した。
「医療費削減ありきで議論を進める姿勢は改めるべき」と強調。財務省が“大きなリスクは共助、小さなリスクは自助”と主張していることにも、「日本医師会はそれには反対している」と主張。「そもそも大きなリスクは小さなリスクから生まれるものであり、両者を線引きすることは不可能。国民生活を支える基盤として、必要かつ適切な医療は保険診療により確保するという国民皆保険制度の理念を今後とも堅持し、給付範囲を縮小すべきではない。低所得者層の貧困化も社会問題となる中、所得などによって必要な医療を利用できる患者さんと利用できない患者さんの間での分断を生み出してはならない」と訴えた。