一社流通について、製薬企業・卸から理由の説明を受けたことがある薬局は約7%-。日本保険薬局協会(NPhA)が会員薬局の管理薬剤師を対象に、約4500薬局から回答を得た調査結果から明らかになった。調査では一社流通であるために、納品が遅延し、服用継続が中断されるなど、患者の治療に影響を来しているとの回答も7割に上った。流通改善ガイドラインでは、製薬企業に対して一社流通の情報提供と安定供給を求めているが、製薬企業が流通改善ガイドラインを遵守していない実態が浮き彫りになった。NPhAの三木田慎也会長は、「しっかり説明責任を負ってほしいということ」と強調。「患者さんに合理的な説明ができる」情報提供を製薬企業・医薬品卸に求めた。
◎流通改善GL 一社流通を行うメーカーに理由の情報提供求める 卸との協力で
一社流通をめぐっては、厚労省の医療用医薬品の流通改善に関する懇談会で、安定供給に支障を来しているとの指摘が医療現場の構成員からあがり、製薬企業側の責任を問う声があがっていた。このため、厚労省が昨年4月に通知した「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」では、「一社流通を行うメーカーは、自ら又は卸売業者と協力し、その理由について、保険医療機関・保険薬局に対して丁寧に情報提供を行うこと。また、一社流通を行うメーカー及び卸売業者は、その医薬品の安定供給を行うこと」と明記されている。ただ、一社流通の実態は明らかになっておらず、厚労省が医療機関・薬局を対象に実態調査を進めている状況にある。
◎説明した理由に不採算品対策、契約上の理由、コスト削減など「メーカー・卸都合」も
NPhAの調査では、「一社流通品がある」と回答したのは73.0%(2550薬局)。このうち、
「メーカーから理由の説明を受けた」との回答は7.1%(180薬局)、「卸から説明を受けた」は6.9%(175薬局)にとどまった。一社流通について報告もなかったケースもメーカー、卸ともに約3割あった。
一社流通の理由について説明を受けたと回答した薬局(318薬局)を対象に、説明された理由を尋ねたところ、「対象患者が限定されている医薬品のため」が37.1%(118薬局)、「特殊な流通・保管が必要な医薬品のため」が32.4%(103薬局)、「高薬価の医薬品のため」が15.1%(48薬局)、「(より厳格な)トレーサビリティ管理が必要な医薬品のため」が6.3%(20薬局)となった。
一方で、自由回答では、「不採算品のために一社流通となったと言われた」、「薬価の過度な引き下げ防止ともとれるような説明と思った」など、不採算品対策(約15回答)との回答もみられた。さらに、「コストを抑えるため」、「流通、配送コスト削減のため」などの流通コスト削減(約10回答)との回答や、「卸とメーカーとの契約なので詳細は不明」など契約上の問題との説明を受けたケースを明かす声もあり、一社流通をめぐる実態が垣間見える結果となった。
◎一社流通の理由「すべて納得できた」は約4割 「患者には関係ない理由」との声も
一社流通の理由について説明を受けたケースもわずかだが、説明を受けても「すべて納得できた」との回答も39.3%(125薬局)にとどまった。「一部納得できなかった」が33.6%(107薬局)、「全く納得できなかった」も9.1%(29薬局)あった。
納得できなかった具体的な事例(315コメント)としては、「“メーカーとの契約上の都合”と説明され具体的な理由はなかった」、「そもそも説明に来ないというのは卸とメーカーの怠慢じゃないでしょうか」、「具体的な説明がないため納得できない」、「説明自体がない。聞いたところで仕方ないので聞いてもいない」、「メーカーからも卸からも報告がない」と、説明自体がないことに対する不満が噴出。
「自社都合によるものとの認識で納得はいかなかった」、「一社流通にすることで卸とメーカー間でそれなりのメリットがあるのだろうと想像できる」、「利益や会社負担の軽減が目的と思われるが患者さんには関係ない理由。理解はできるが素直に納得できない」との声も寄せられた。
「希少疾患用で需要が少ないものならわかるが、需要が大きな医薬品において卸を限定している理由がわからない」、「一社流通により、特定の卸への依存度が高まり、リスクが集中している」など、供給上の問題を指摘する声もあがった。
◎一社流通で患者に影響は65.5% 患者の治療継続や緊急時の対応に影響も
実際、一社流通であるために、患者に影響が出たとの回答は65.5%(1454薬局)に上った。「取引卸で欠品した場合に他に発注先がなくて困った」、「一社流通にも関わらず納期が大幅に遅れると言われた」との声が寄せられた。
「取引卸で欠品した場合に他に発注先がなく代替品の入手も困難であったため治療継続できなかった」、「新規患者分の取り寄せに時間がかかり、治療開始日が遅れた」、「緊急時に他の卸から入手できず、患者様に迷惑をかけた」、「休日や夜間の緊急時に対応できる卸が限られ、患者様の治療に支障を来した」、「緊急時の在庫不足に対応できず、患者様の症状悪化のリスクが高まった」、「急な処方変更に対応できず医療機関との連携に支障を来した」など切実な声が数多く寄せられた。
「既存品の入荷が滞り、在庫不測のためにメーカー問わず・卸も問わず該当品目を発注し何とか在庫の維持に努めているが、メーカーや卸との連絡・患者対応等に多大な労力と時間を要している」など、薬局業務への影響を指摘する声もあった。
◎入手できる卸限定で「発注先の卸がわからない」が2割
一社流通に限らず、入手できる卸が限定されることで困ったことや負担となった経験があるか尋ねたところ、81.1%(3193薬局)が「ある」と回答した。具体的には、「発注先の卸変更」(64.4%)や「卸への納品時期の確認」(45.8%)に加え、「発注先の卸がわからない」との回答も21.4%(684薬局)あった。また、「患者への欠品対応(説明や郵送等)」が81.2%(2592薬局)、「患者の継続服用が途切れる」との回答も44.7%(1427薬局)に上り、卸が限定されることが薬物治療の継続性にも影響を及ぼしていることも示唆された。
◎NPhA・三木田会長「説明責任を」 患者が納得する「合理的説明を」 企業のGL理解不十分と指摘も
製薬企業や卸から一社流通の説明を受けた割合は低率だが、NPhAの三木田慎也会長は、「想定通り」と話す。「義務付けされているにもかかわらず、私のところでも肌感覚としては、一社流通の理由について説明はない。メーカーや卸が約6万3000軒の薬局をこと細やかに回れているとは思わない」とバッサリ。「一社流通の理由は当然聞く権利があると思う。しっかり説明責任を負ってくださいということ」と強調した。
供給不安が続くなかで、「今、患者さんの視点が大変厳しく、薬屋に薬がないとはどういうことだとお叱りを受けることが非常に多い。薬がないのは、薬局の責任だろうと求められる中で、患者さんに合理的な説明ができるようであれば、薬局にとって納得感はあると思う」とメーカー、卸に説明責任を果たすことを求めた。
NPhAの石井僚特任部長は、「ガイドライン自体の理解度が薬局現場にもそれほど理解が浸透してない部分あるかもしれないが、卸さん、メーカーさんの現場の方々への理解もまだ十分ではないのではないか。理解していれば、こんな説明はしないだろう」と指摘した。
調査は、会員薬局の管理薬剤師を対象に実施し、4551薬局から回答を得た。回答期間は2024年11月1日~12月4日まで。なお、薬局側では供給不安による限定出荷による限定流通や、企業が卸を絞り込んでいるケースと、一社流通を明確に区別する手段がなく、回答者自身の認識に基づく回答をベースとしている。