大塚ホールディングスは10月31日、井上眞代表取締役COOが代表取締役社長兼CEOに昇格するトップ人事を発表した。就任は2025年1月1日付。井上新社長は同日都内で会見に臨み、「大塚グループが目指すのは、不変の企業理念の下、ヘルスケアに関連する製品やサービスを提供することにとどまらず、生活者一人ひとりのWell-beingへの想いに寄り添う存在となること。これからもステークホルダーの皆様とともに前進し続ける」と意欲を語った。樋󠄀口達夫代表取締役社長兼CEOは、取締役相談役に就く。
◎「トータルヘルスケア企業として価値を創出、新たな挑戦を続ける役割を託された」
井上氏は、「医療の焦点が治療から、未病・予防へとシフトし、人々の健康ニーズも社会的な満足を求めるWell-beingへと進化している」と説明。様々な事業を通じ、「地域、社会を含む全てのステークホルダーと協力しながら、社会課題の解決に取り組んでいる」と述べた。医薬品事業だけでなく、ニュートラシューティカルズ(NC)事業でも広範囲な職務を経験してきた経験を持つ。これを踏まえ、「この両事業を社内グループ内に持っているからこそ、トータルヘルスケアをお届けすることができるという強い信念を持っている。これらの強みを生かし、大塚グループがトータルヘルスケア企業としてさらに価値を創出し、新たな挑戦を続ける役割を託されたものと認識している」と語った。
まずは、今年6月に発表した第4次中期経営計画を発表。従来のヘルスケアの概念を拡大し、患者や消費者を取り巻く第三者への貢献も含めた“ウェルビーイング”の概念で健康を捉え、トータルヘルスケア企業としてさらに発展する姿を描いている。井上氏は、「第4次中期経営計画で必ず責任を達成することが第一」と強調。「第4次中計の中で、いまある製品の開発の成功だけでなく、次の第5次、6次の成長に向けた開発が大きなところに来ている。そういうことを繰り返していくことで、さらに事業として、会社として厚みが出てくる」と述べた。
中計では、社会課題の解決を前面に打ち出し、これに貢献する企業の姿を描いた。「精神科などの領域ではなく、「社会課題という大きなフレームから取組む」考えも強調した。大塚HDとしてはNC事業のポカリスエット、医薬品事業のエビリファイなどを通じてこれまでも社会課題の解決に取り組んできたと説明したうえで、抗精神病薬・レキサルティが国内初の効能・効果である「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動」の承認を取得したことに言及。いわゆるアルツハイマー型認知症のアジテーションをめぐっては、患者や患者家族、介護などのコミュニティに負荷がかかることが指摘される中で、「レキサルティの適応追加は、まさに周辺の社会課題というか、地域も含めた貢献になると考えている。そういったところがやっぱりウェルビーイングになっていくんだろう」と見通した。
◎樋口氏「新たなステージに移行する今だからこそ新たなリーダーに託す適切なタイミング」
社長交代について樋口氏は、「これまで積み上げてきた事業基盤をもとに、独自のトータルヘルスケア企業として、一層の大飛躍を求め、新たなステージに移行するために第4次中期経営計画を今年スタートさせた。今だからこそ新たなリーダーに託し、次のステージに当社グループを昇華させる適切なタイミングだと判断した」と述べた。
井上氏については、「事業推進におけるリーダーシップ人材および組織マネジメントには卓越したものがあり、当初グループの主要事業の戦略構築と、そして実践およびアライアンスマネジメント等の事業展開において、十分な成果を上げている。2020年に就任した大塚製薬の代表取締役社長としての実績も十分。これらの経験を生かし、グループの連携をいかに強化し、大塚グループならではのイノベーションを創出し続け、グループを率いてくれると確信している」と語った。
樋口氏は大塚ホールディングスが設立された08年以降、初代の代表取締役社長兼CEOとして尽力。上場後の10年に一次中期経営計画を発表した当初には1兆円規模だった売上を23年には2兆2000億円と過去最高業績を達成するまでに成長させた。大型品であるエビリファイの特許切れにも直面したが、「人々がまだ気がついていない、あるいはまだ誰も取り組んでいないニーズに挑戦し、成果を積み重ねることで、結果として、製薬企業が必ず直面するいわゆるパテントクリフにも対応できて、持続的成長を実現してきた」と振り返った。
◎取締役相談役としては「長期的な視野で」
取締役相談役としては、長期的な視点を持つ考えを表明。「我々の社内のコアな強みであるフェノタイプ創薬は非常に大事なセットだが、AI創薬などのテクノロジーをいかにドッキングさせるか。そのために必要なアセットをどのように外から入れていくか。Well-beingという概念で捉えたときに、社会的な要求はどう変わっていくか。国内だけでなく海外を含めて、ネットワークを通じて情報を入手することは必須だ。長期にわたる考え方に基づいた活動をすることで、会社にフィードバックし、経営陣やオペレーションに責任を持っている人を助ける」と述べた。
◎井上新社長 MRからキャリアスタート 未知のことゼロから学ぶ中で「課題解決の姿勢身についた」
新たに社長兼CEOに就任する井上氏は1983年4月に大塚製薬に入社。2008 年 6 月 同社執行役員診断事業部事業部長、09 年 6 月 同社常務執行役員医薬品事業部副事業部長、15年3月に同社取締役(兼)専務執行役員ニュートラシューティカルズ事業部長、15年4月 米国・ファーマバイト LLC 取締役などを歴任。20年3月から大塚製薬社長、24年1月から大塚ホールディングスの代表取締役COOを務めている。井上氏は、大塚製薬でMRとしてキャリアをスタートさせ、首都圏の2支店の支店長を務めた。その後、ニュートラシューティカルズ事業部や北米・欧州の海外関連会社の経営に携わるなど、幅広い職務に携わってきた。
井上氏は、「新たな役割が与え与えられる度に、未知のことをゼロから学ぶ必要があった。自然と自分はまだ気づかず、知らないことが多くあるのでは、と疑うことが当たり前になり、知らないことを恐れずに人と対話をし、意見を交わしながら、事業よりより深く理解し、課題解決していく姿勢が身についた」と語る。大塚製薬の社長就任後も、「社員から率直な意見を聞き、ともに課題を解決することを心がけている」という。オープンスペースに身を置き、フラットの社員と対話する時間や場を設けるなどしており、「こうした対話と私自身の領域に縛られない経験が合わさり、単体の事業領域では発想に至らない事業のアイデアにたどり着くことがある。今後はさらにグループの様々な専門性を持った社員が、社内外の方々と対話連携することで、新たなイノベーションが生み出されることを期待している」と話した。
新たな人事は、同日開催された大塚HD、大塚製薬の取締役会で決議された。樋口CEOは大塚製薬の代表取締役会長を務めていたが、取締役会長となる。また、大塚ホールディングスの松尾嘉朗取締役副社長は代表取締役副社長に昇格する。