サワイグループホールディングスの澤井光郎代表取締役会長兼社長は6月11日、本誌取材に応じ、供給不安解消に向けて増産する覚悟を示したうえで、「不採算品再算定」の特例ルールの継続を訴えた。同社は、生産余力を活かし、赤字品目であっても他社品の生産を引き受ける考えを示しているが、この背景に24年度薬価制度改革での不採算品再算定の特例ルールの適用があったという。「薬価は上がると一つのモデルができできたことが大きなこと」と強調。特例ルールでは平均乖離率をメルクマルとして対象から除外される要件が盛り込まれたが、「制度が悪いとか、毎年改定があるとか言ってるだけではダメだ。自分たちも汗をかける部分は汗をかく」と述べ、平均乖離率以内での流通など、企業として努力する姿勢を鮮明にし、特例ルールの継続に理解を求めた。(望月英梨)
◎65億錠の生産余力で供給不安解消に貢献できる「いよいよタイミングが来た」
同社は、26年度に220億錠まで増強、30年度に250億錠の生産体制という業界ナンバーワンの生産体制を整える計画を進める。生産余力も生まれる中で、供給不安解消に向け、赤字品目であっても他社の依頼を引き受け、増産するなど品目の集約に乗り出す。澤井会長は、これまでは増産に向けて三交代制で働いていた人が離職するなど、工場や現場が「限界に近い状況だった」と振り返ったうえで、「(第二九州工場の稼働で)65億錠の生産余力を持つことになる。これまで供給不安解消に貢献できなかったが、いよいよタイミングが来た」と語った。
第二九州工場で生産している品目であれば、「半年でPVを含めて生産を開始できる」とスピード感も強調。「まず、第二九州工場で出荷制限している品目や、赤字品目の中で増産することによって、他社さんのラインが開けば、そこで違う品目を作ってもらえば、全体の中での供給不安解消になる。それが一番早いと思う」と話した。
◎「赤字品目も増産」の背景に不採算特例ルール「薬価が上がるモデルできた」
他社から生産の依頼がある品目については、「一番皆さんから出しやすいものは赤字品目だ」との考えも表明。実際、供給不安が長引く背景の一つに赤字品目については各社が増産に踏み切らないことも影響している。一般的に赤字品目を好んで引き受ける企業はないが、こうした決断に至った背景には、生産余力を持ったことに加え、24年度薬価改定で特例的に適用された不採算品再算定があると話す。
24年度薬価改定では、急激な原材料費の高騰、安定供給に対応するため、企業から希望のあった品目を対象に、“全ての類似薬について該当する場合に限る”との規定を適用しない特例的な対応が行われた。ただし、平均乖離率が7%超の品目は除外された。このルールの適用により、改定により薬価は引き下がるという概念は覆され、“プラス改定”企業が出現するなど、業界に衝撃が走った。
澤井会長は、「漢方がそうだったように、赤字品目でも、ちゃんとした理屈が整えば薬価は上げてもらえるという事実ができた」との見方を表明した。生産余力があっても赤字品目であることは変わらないとしたうえで、「診療報酬も賃上げで引き上げられたが、賃上げにより、赤字品目が増えたことを立証する。それだけでなく、業界の平均乖離率以内で販売しているにもかかわらず赤字だということであれば、これからの医療のために必要な手当てだとして、薬価の引上げを理解してもらえるのではないか」と述べた。
◎「自分たちも汗をかく。毎年改定が悪いだけではダメ」 できない企業は退場で再編きっかけに
24年度に適用された不採算品再算定では平均乖離率がメルクマルとされた。ジェネリックは一般的に低薬価であることから、新薬や長期収載品と比べて乖離率も開きやすい。澤井会長は、「自分たちも汗をかかないといけない。制度が悪いとか、毎年改定があるとか言ってるだけではダメだと思う」と強調。「”努力して薬価差をこれだけ縮めました、でも赤字だ”ということで、制度を変えてもらわないといけない。平均乖離率の何倍も出しておきながら、“苦しいので何とかしてください”という理屈では通じない」と述べた。平均乖離率以内で販売することに難しさもある中で、「全部ができないだからこそ再編は起きる。できないところは毎年薬価改定の荒波にもまれ、退場していくかしかない」との考えも示した。
このほか、25年度薬価改定については改定範囲についても言及。これまでの中間年改定では、全医薬品を対象とした平均乖離率で対象範囲が決められてきたが、新薬とジェネリック、もしくは低薬価品目で線引きを変えることなどを提案した。「何も努力せずに、単に外してください、というわけではなく、外れないように我々はこんな努力をしているということ」を示す必要性も強調した。
◎薬価差少ないジェネリック「“値引きのできないカテゴリー”を常識にしたい」
流通におけるジェネリックのカテゴリーを変えていく必要性も強調した。新薬創出等加算品目では医薬品卸・医療機関が平均乖離率以内で販売することに理解を示しているが、「それ以上に値引きができないのがジェネリックなんだという理屈が当たり前となる状況を作りたい」と澤井会長。「ジェネリックの薬価が低く、経済的負担が少ないということは、患者さんにとっては十分付加価値だ。薬価差益をつけられないカテゴリーであるだけに、値引きのできないカテゴリーだという位置づけを常識にしたい」と語った。
一方で、これまで訴えてきた最低薬価の引上げについては、「最低薬価では、努力したところも努力していないところも皆薬価が上がる。努力したところに薬価の手当がされて公平だ。もう少し、皆が努力した状況になってこそ、(最低薬価の引上げを)言うべきだと思っている」と語った。薬価だけでなく、増産設備に対する補助金など国の支援策もあるが、「基本は企業努力の中でやっていけるような姿勢、仕組みにならないといけない」との考えも示した。
◎増産による「将来にわたって安定供給する覚悟」で信頼勝ち取る 価格戦略で乖離圧縮を実現
実際、沢井製薬では、23年に価格戦略を切り替え、乖離率の圧縮を実現している。「不採算品再算定品目は薬価で売り、その他の品目は、基本的には薬価が下がっても仕切価をスライドせずに維持した」と澤井会長。本誌調査による24年度薬価改定による企業別影響度は「約1%」。23年度の8.2%から大幅に圧縮した。平均乖離率以下が要件とされる不採算品再算定品目も58成分96品目が適用を受けた。澤井会長は、物価が上がったタイミングで新たな価格戦略を断行したことに加え、「個々の品目というよりも、会社の目指す方向性を訴えて、価格政策の理解を求めている」と話す。
「65億錠の生産能力を一日も早く動かす、一気に解消に向け動かすので応援してください」と医薬品卸に伝え、一定の理解が得られたと手応えを語る。流通当事者には、「その品目だけでなく、トータルでこれだけの増産体制を整えます、と伝えてきた。これは、将来にわたってちゃんと安定供給する覚悟を示している。これを評価してください」と”サワイブランド”としての強みを伝えてきたという。新薬は外資系企業の開発品目が多く輸入超過が続いているが、「それを止めるのがジェネリックの仕事。メイド・イン・ジャパンのジェネリックをちゃんと先生方に届ける。それを評価してほしい。だからこそ、我々は設備投資をし、安定供給体制を整えている」と強調する。
これまで薬価差でシェアを獲得するビジネスが行われてきた中で、「業界で初めて、価格を下げない、値上げするということをした。MRがよく頑張ったと思う」とも話した。
昨年末に業務改善命令を受けたことについても触れ、「我々としては期待にしっかり応えて、もう二度と起こさないということを常々毎月先生方に伝えていく。これでもう一度信用を取り戻す」と表明。中期経営計画でも土台に、「信頼される企業基盤の確立」をあげていることも強調。信頼の上に生産力に裏付けされた安定供給で、臨床現場から信頼を勝ち取りたいと強調した。