三菱ケミカル・筑本社長 医薬品事業は「収益力高く、いい仕事をしている」 R&D投資に意欲も
公開日時 2024/05/16 04:51
三菱ケミカルグループの筑本学代表執行役社長は5月15日、社長就任(24年4月1日付)後、初となる2023年度の決算説明会に臨み、ヘルスケアセグメントの医薬品事業(田辺三菱製薬)の位置付けについて、「収益力が高く、いい仕事をしていただいていると感謝している。非常に研究開発力の高い事業だと考えており、これからも必要な資金はR&Dの方に投資していきたい」と述べた。また、「薬価の毎年改定もあるので、日本国内の比重は下げていかざるを得ない。より薬価のバリューを認めてもらえるようなアメリカのようなマーケットに事業の主体をシフトしていかざるを得ない」と指摘した。
◎新経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」策定へ
現在、2035年に向けた新経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」の策定に取り組んでおり、全事業の位置付けを検討中という。「ケミカルで十分稼ぐということができているかどうかということもあるのが、ファーマのための資金をどうやって捻出するかはある意味非常に頭の痛い問題でもあり、考えていかざるを得ない。スペシャリティを伸ばしていくこと、あるいはMMA(アクリル樹脂原料)でのアメリカのプロジェクトもあるので、その辺の中での大きなポートフォリオというものも見ながら今後、検討を進めていくことになる」と述べた。
◎田辺三菱製薬 23年度決算は大幅減収減益 コア営業利益は61.0%減
23年度の田辺三菱製薬の連結業績は、売上高が前期比18.3%減(981億円減)の4374億円、コア営業利益は61.0%減(880億円減)の562億円の大幅な減収・減益となった。これは22年度にノバルティスとの間の多発性硬化症治療薬ジレニアのロイヤリティに係る仲裁判断の結果を受けて、ジレニアロイヤリティとして1285億円を一括計上した反動が出たもの。23年度のジレニアロイヤリティは95.8%減(1231億円減)の54億円だった。
国内医療用医薬品売上は3.0%減(92億円減)の3008億円。長期収載品「等」は12.6%減(137億円減)の948億円だった。コーポレートコミュニケーション本部によると、長期収載品「等」の中には、23年4月発売の2型糖尿病治療薬マンジャロが含まれているという。この日開示されたマンジャロの23年度の薬価ベース売上は78億円(第1四半期から四半期ごとに9億円→23億円→24億円→23億円と推移)だった。現在、限定出荷が続いているが、決算説明会で、辻村明広執行役エグゼクティブバイスプレジデントファーマ所管(田辺三菱製薬代表取締役)は「今年の6月4日を持って全てのマンジャロについて限定出荷を解除し、通常出荷を再開する運びになった」と明らかにした。
国内最主力品のクローン病・潰瘍性大腸炎治療薬ステラーラは、競合激化により1.3%減(9億円減)653億円となった。一方、視神経脊髄炎スペクトラム障害の再発予防を適応として21年6月に発売したユプリズナは116.6%増(33億円増)の61億円、経口薬(内用懸濁液)を23年4月に発売した筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬ラジカットは151.0%増(33億円増)の55億円を売り上げた。また国内新製品では、22年6月発売の遅発性ジスキネジア治療薬ジスバルが71.3%増(23億円増)の54億円売り上げた。
海外では、米国で22年6月に経口薬(内用懸濁液)を発売して以降、22年度に216億円増の462億円を売り上げ、急成長中のALS治療薬ラジカヴァが、23年度71.6%増(331億円増)の792億円と大幅に続伸した。
◎24年度は増収、2桁減益予想 ステラーラは10.7%減見通し
24年度の田辺三菱製薬の連結業績予想は、売上高が2.7%増(116億円増)の4490 億円、コア営業利益が25.3%減(142億円減)の420億円と増収・2桁減益を予想。国内医療用医薬品売上は4.9%増(148億円)の3156億円を見込む。24年3月に発売した4種混合ワクチンのテトラビックにHibの抗原成分を加えた5種混合ワクチンであるゴービックが140億円増の152億円となる見通し。マンジャロを含む長期収載品「等」は、13.0%増(123億円増)の1071億円を見込む。なお、マンジャロの売上予想は非開示。最主力品のステラーラは10.7%減(70億円減)の583億円を予想。一方、ユプリズナは22億円増の82億円、ラジカットは8億円増の63億円、ジスバルは9億円増の64億円を予想している。
海外ラジカヴァは15億円増の807億円を予想している。競合品である米アミリックス社の経口ALS治療薬レリブリオは、22年9月に米国で承認を取得したが、同社は24年3月に第3相PHOENIX試験で主要評価項目未達を発表し、4月に販売承認取り消しと市場からの撤退を発表したが、「レリブリオ撤退の影響を精査中であり、24年度の海外ラジカヴァの公表予想には影響を織り込んでいない」(コーポレートコミュニケーション本部)という。
コア営業利益をはじめ各利益が2桁減少するのは、売上原価が8.2%増(173億円増)の2280億円と膨らむのが要因で、原価率が50.8%と23年度に比べ2.6ポイント悪化する。これは導入品など販売製品の構成変動に伴うもの。
【23年度連結業績(前期比)24年度予想(前期比)】
売上高 4374億円(18.3%減)4490 億円(2.7%増)
コア営業利益 562億円(61.0%減)420億円(25.3%減)
営業利益 689億円(18.2%減)480億円(30.4%減)
親会社所有者帰属当期利益 564億円(33.9%減)285億円(49.5%減)
【23年度国内主要製品売上高(前期実績)24年度予想、億円】
ステラーラ 653(662)583
シンポニー 433(436)424
テネリア 120(154)117
カナグル 118(116)114
カナリア 108(97)82
バフセオ 22(20)24
ユプリズナ 61(28)82
ルパフィン 93(98)88
ジスバル 54(32)64
ラジカット 55(22)63
ワクチン計 343(351)445
インフルエンザ 106(111)124
テトラビック 88(93)34
ゴービック 12(—)152
ジェービックV 33(41)35
ミールビック 50(49)47
水痘ワクチン 41(46)40
長期収載品等 948(1085)1071
レミケード 297(346)247
海外医療用医薬品 1117(794)1096
ラジカヴァ 792(462)807
ロイヤリティ収入等 169(1383)非開示
インヴォカナ 66(63)非開示
ジレニア 54(1285)非開示