厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課は4月19日、医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議に、代替品が存在し、過去5年間のシェアが低い品目に限り、供給停止・薬価削除プロセスを簡素化することを提案した。構成員からは、過去5年間のシェアについて、「5%程度」との意見もあがった一方で、慎重論も出た。厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の水谷忠由課長は、「まずは限定した範囲でスタートし、運用状況を見ながら範囲を拡大することを検討する」考えを示した。薬価削除をめぐっては、品目が増加する中で、関係学会・製薬企業双方の負担が指摘されていた。
厚労省はこの日の検討会に、供給停止・薬価削除プロセスについてルールを明確化することを提案した。薬価削除をしたい製薬企業が事前に代替企業に了承を得たうえで、関係学会の了承を得たうで、厚労省に対して、「供給停止事前報告書」を提出。これを受け、厚労省が関係学会の意見を聞いたうえで、製薬企業に了承を伝達。製薬企業が医療機関・薬局に対し、販売停止について情報提供を行い、厚労省に対して「薬価削除願」を提出。厚労省は薬価削除の可否について関係学会の意見を聞いたうえで、経過措置期間(最大1年間)へと移行するための告示を行うという8段階にわたるプロセスをたどる。
厚労省は、代替品の考え方として、必ずしも同一成分に限らず、臨床上の位置づけが同じ品目であれば代替品として取り扱うことを可能とするほか、普通錠とOD錠は代替可能とすることなどを提案。このほか、期間を明確化することなども提案した。
◎シェアの低い品目対象 「企業が意図的にシェアを下げない」よう促す 薬価調査でも確認
さらに、負担軽減の観点から、「代替品が存在し、過去5年間のシェアの低い品目」に限って、製薬企業と厚労省が関係学会に意見を聞くプロセスを、厚労省が供給停止の可否を判断する際の1回に簡素化することを提案した。シェアについては、簡素化を狙い、企業が意図的にシェアを下げることがないよう、“過去5年間”とした。シェアについては同一成分・剤形・含量・効能内とした。企業からの報告が原則となるが、厚労省が薬価調査の結果などを活用してシェアを確認する考えも示した。
◎薬価削除品目の30%がシェア「1%以下」 「5%前後」との意見も
シェアの数値についいてはこの日の検討会では具体的には示されず、構成員からの意見を聞いた。厚労省は2023年度下半期に供給停止事前報告書が提出された品目における過去5年間の平均シェアを提示。シェアが「1%以下」の品目が30%を占めることなどを示した。
國廣吉臣参考人(日本製薬団体連合会安定確保委員会情報提供検討部会供給不安解消タスクフォースリーダー)は「この図を見ると、5%前後なのかなという感覚は持つ」と述べた。
原靖明構成員(日本保険薬局協会 医薬品流通・OTC 検討委員会副委員長)は、「医師、薬剤師にとって薬は大きな存在で、数が減ることは我々の中では手段が減ることになるので、慎重にやっていただきたいと思う反面、色々な薬が出る中で歴史的使命が終わってしまう薬もこれから出てくると思う。(薬価削除により)成分そのものがなくなってしまう可能性も頭の片隅に入れておくべきではないか」と指摘。シェア5%の製品でも5品目あれば25%と大きなシェアになるとして、「兼ね合いもよく考えて決めなければいけないのではないか」と述べた。
水谷課長は、「申請をいただく際に、その分のシェアシェアを代替品として確保できることを前提とした上で、手続きが始まってるということが議論の前提」としたうえで、「範囲を決める必要はあるが、まずは少し限定された範囲でスタートする。ただ、それを未来永劫続けるというよりは、運用状況を見ながら、さらにその範囲を拡大していくことを検討する」との考えを示した。
このほか、薬価削除が決まった品目の経過措置期間(最大1年間)については、製薬企業が経過措置期間の延長申請の活用を含め、使用期限の残存する医薬品が薬価削除されることによる流通当事者が被る不利益を適切に対応することを求めている。安部好弘構成員(日本薬剤師会副会長)は、製薬企業側に返品による対応を求めた。「通常取引の中で在庫品を返品するなということと、薬価削除の時の対応は全く違うものなので、そういう区分けでメーカー、卸、医療機関、薬局の中でどういう対応をするか議論する」必要性を指摘した。
◎企業内の“安定供給責任者”めぐり議論 流通含めた統括的な責任求める
同日の検討会では、医薬品の安定供給確保についてのマネジメントシステムについて、製薬企業内の「安定供給についての責任者」をめぐる議論があった。構成員からは、生産だけでなく、流通を含めて統括的に束ねる安定供給責任者を求める声が相次いだ。
宮川政昭構成員(日本医師会常任理事)は、「もともと安定供給についての責任者は企業の中にいるはずだが、誰に聞いていいかわからないことがずっと続いている。誰が、従来から責任なのか」と質した。これに対し、梶山健一構成員(日薬連安定確保委員会委員長)は、生産や薬事、営業など様々な部署が携わっており、それぞれに責任者がいると説明。「統括して束ねる責任者がどこにいるのかが見えにくいというご指摘は、重く受け止め、しっかりと設定をしていく方向で検討していきたい。ただ、企業の中でこれまで現実問題として認識しきれてないところもあったやに思っている。少し時間をいただきながら、しっかり検討させていただいて、設定の方向で考えるのが適切かと思う」と述べた。
國廣参考人は各社により状況は異なるとしたうえで、「弊社では、生産本部長が責任者」と説明。供給不安が様々な要因で起きる中で生産本部長がすべての責任を負えるのか問う声も上がった。法制化の必要性を指摘する声も上がる中で、水谷課長は、法制化を前提としていないと説明。「供給不安には様々な要因があるが、企業として責任持って対応する体制を構築するそのために責任者をどう考えるか、ご議論いただいている」と述べた。製薬企業だけでなく、医薬品卸や医療機関を含めたマネジメントシステムを構築する必要性も指摘した。
◎一條構成員 全体の流れを見る責任者の名簿求める 卸にメールだけで出荷調整連絡が9割超
一條武構成員(日本医薬品卸売業連合会副会長)は、出荷調整のある企業96社、4130アイテムを調べたところ、出荷調整をメールだけで連絡する企業が90.6%、FAXが7.3%、電話とFAXが2.1%だったという。訪問回数がゼロの企業も20%といい、「要するにメールでポンと寄越して、これは出荷調整になりますというのがすごく多い」と指摘。また、2024年度問題でトラックドライバーの働き方改革の影響で配送頻度が企業によって異なるなど対応が難しいことも説明した。こうした問題を問い合わせる“責任者”が不在であることを指摘。「サプライチェーンの中でも、生産は生産本部長がいるが、全体の流れを見てくれている責任者の人も名前が書いてあることはなかった。日薬連が企業に1人責任者を置き、名簿として出してもらうようなガイドラインのようなものを作っていただき、そこと連絡を取りながらしっかりやっていきたい」と述べた。
坂巻弘之構成員(医薬政策企画P-Cubed 代表理事)は、「チーフサプライチェーンオフィサー的なものを作ればいいのではないか」と提案した。