厚労省 安定確保医薬品見直しはWGで議論へ 法令上の生産促進要請など見据え
公開日時 2024/10/22 07:11
厚労省は10月21日の「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」に、安定確保医薬品の見直す方針を示した。安定確保医薬品は現在506成分が選定されているが、医療上の必要性が高いことから、法令上に位置付け、感染症対策物資と同様に生産促進等の要請ができることなどが検討されており、こうした点も踏まえて議論が進むことになる。今後は、日本医学会参加の主たる学会の各専門領域からの提案を踏まえ、安定確保会議下部のワーキンググループ(WG)での議論を踏まえて検討を進める方針。
安定確保医薬品は2021年に日本医学会傘下の主たる学会の各専門領域から、汎用され安定確保に特に配慮が必要な医薬品として提案された品目(成分)に基づき、506成分が選定されている。内訳は、「A(最も優先して取組を行う安定確保医薬品)」が21成分、「B(優先して取組を行う安定確保医薬品)」が29成分、「C(安定確保医薬品)」が456成分。一方で、安定供給に向けて安定確保医薬品は安定供給の優先順位の高さの判断や政策決定のプロセスに活用されており、厚労省がマネジメントシステムの構築に取り組む中で、「安定確保医薬品の供給確保要請」は柱の一つなっている。法制化により、感染症対策物資と同様に生産促進等の要請(A・Bを想定)、報告徴収 (平時からのモニタリング )(A・B・Cを想定)という強い措置を行うことについて検討が進められている。
◎選定の4要件 「多くの患者が服用(使用)していること」は優先順位付けに
こうした中で、厚労省は安定確保医薬品が21年に選定され、一定の時間が経過していることも踏まえ、安定確保医薬品のリストの見直しに加え、選定当時にコロナ禍で議論が十分にされなかったことを踏まえて制度改正の影響も検討する。
品目選定に際しては、日本医学会の協力の下、安定確保会議で全体的な方針及び品目・カテゴリの最終決定を担当し、ワーキンググループで個別品目の選定及びカテゴリ分類の検討を行う。選定に際しては、主に「対象疾患の重篤性」、「代替薬・代替療法の有無」、「製造の状況・サプライチェーン」を評価。優先順位付けを行う必要もあることから、カテゴリ分類では、「多くの患者が服用(使用)していること」も加えた4要素を総合的に勘案し、決定する。各学会10成分を目安とするが、必要な品目については10成分に限らず提案可能とした。ただし、品目の優先順位、選定・優先順位付けの理由を付記することも求める考え。ワーキンググループには新たに、宮川政昭構成員(日本医師会常任理事)や小野寺哲夫構成員(日本歯科医師会常務理事)、豊見敦公構成員(日本薬剤師会常務理事)らを加え、臨床上の観点からの品目の漏れがないよう品目を選定する考え。
◎安定確保医薬品「品目数、増えることが想定される」
厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課医薬品産業・ベンチャー等支援政策室の藤井大資室長は、「具体的にいくつにするというものを考えているわけではない」と断ったうえで、「品目数が増えてくることも想定される」と説明。「例えば、優先順序の観点から、A・Bを絞る一方、A・B・Cの品目数を増やすというのも一案と思っている。引き続き優先順位の考え方はA・Bを中心に考える一方、平時からのモニタリングについてはA・B・C全てを対象にすることが一案」との考えを示した。
◎安定確保医薬品の生産要請「強い措置」 バランス考え「A・B」が対象に
安定確保医薬品をめぐっては、「感染症対策物資と同様に生産促進等の要請(A・Bを想定)」が検討されている。厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の田中広秋総括調整官は、「感染症法上の感染症対策物資に関する規定を想定して、と説明しているが、感染症法上の措置並びとなると、生産計画の提出、それに対する変更、さらには要請に従わなかった場合には企業名の公表まで含まれるかなり強い規定になっている。法令上の規制の強さとのバランスを考え、現行の506成分全てが指定されている安定確保医薬品全てではなくてABを想定している」と説明。ワーキンググループでの議論に際してもまずは、「A・B」について議論する方針を示した。
◎國廣参考人 A・B品目で「実は原薬が入らないリスクが高い」 一律の措置は考慮を
國廣吉臣参考人(日本製薬団体連合会 安定確保委員会供給不安解消タスクフォースリーダー)は、「A・Bを見直し、ある程度限定して選び、措置をとることは同意する。ただ、現在A・Bに該当し、長期間供給されている製品には実は原薬が手に入らないリスクが非常に強くなる。そういった点を考慮なしに一律的に強い措置となると、企業として指定されたものを供給するのが難しくなる」と指摘。「選ばれた後に考慮いただきたい」と述べた。また、A・Bに該当する品目の安定供給の支援策の必要性を指摘。「例えば弊社の例でいえば、基礎的医薬品や安定確保医薬品ABについては通常のものより多めの在庫を積んでいる。実際、安定確保のためにどの程度の在庫が必要なのか。そうなるとコストだ。そういった点も考慮された上での選定、それとその範囲ということを考えていただきたい」と要望した。
松本哲哉構成員(国際医療福祉大学医学部感染症学講座主任教授)は、「見直しは大事だと思うし、今の状況に合わせて必要なものをさらに追加していくことは大事だと思う」と述べたうえで、「逆に企業側からすれば実情として、ある意味指定をされたくないぐらいのものもあるのではないか。指定され、作ることを強制されるというのは経営上かなり厳しいものがある可能性もある。A・Bは薬価も含めて色々なサポートを表裏一体として規定しなければ、単に強制力だけ働かせると、逆に企業に苦しめることにもなる。結果として安定供給も図られなくなるので、それも踏まえて選定する方向でお願いしたい」と述べた。
厚労省の田中総括調整官は、今後そうした点も踏まえて検討すると応じたうえで、「現行の感染症法上の感染症対策物資についても、生産促進要請等をかける場合には、付随した財政的な補助等に関する規定が盛り込まれている。もし規定を発動する場合には財政上も考慮する必要があるし、現行でも安定確保医薬品の薬価で特例的な対応を講じられているが、そういった点も含めて検討していくことになると考えている」と応じた。
◎サプライチェーン上の課題を指摘する声も
安定確保医薬品の選定をめぐり、臨床上の必要性だけでなく、サプライチェーン上の課題を指摘する声も上がった。川上純一構成員(浜松医科大医学部附属病院薬剤部教授・薬剤部長)は、「例えば、代替薬・代替療法の有無という点で、必ずしもその薬がなくても同じような薬効群で別のもので代替できるとなれば、入れなくてもいいという考えもある。一方で、抗菌薬のように一つ駄目だと一網打尽ですべて供給されなくなるようなものは、どちらかというとサプライチェーンの観点だと思う。薬価のリスト上、代替薬があったとしても、事実上ないに等しい。製造の実態も含めて検討しなければいけない」と指摘。「臨床上の視点とかは別の治療法が代替手段としてあるということ以上に、やっぱりその製造の実態もきちんと反映させるという点で、そちらの専門家の先生方のご意見もうかがいたい」と述べた。
原靖明構成員(日本保険薬局協会医薬品流通・OTC 検討委員会副委員長)も、「緊急時に何が起きるか。災害時もそうかもしれないが、代替療法があるかということと、サプライチェーンの問題が非常に大きい。地政学的リスクで1か所しか作ってないと入ってこない」と指摘。厚労省に安定確保の意味合いも含めた整理を求めた。