アステラス製薬の岡村直樹社長CEOは2月21日の「サステナビリティ・ミーティング2023」で、「本業で社会の持続性向上に貢献する」ことで科学の進歩を患者の価値に変え、継続的にイノベーションを創出できると強調した。その上で、社会の持続性向上に貢献した具体的事例として、同社の血管運動神経症状（VMS）治療薬・VEOZAH（一般名：fezolinetant）を紹介。中等度から重度のVMSに悩む女性に「科学的・医療的価値」を提供し、加えて労働生産性の向上や疾患の認知・理解など、「経済的価値」や「心理的価値」といった社会的インパクトも同時にもたらすことができたと語り、「ライフサイエンスで持続可能な社会に貢献して信頼を獲得すれば、社会やステークホルダーからの信頼と支持を獲得できる」と胸を張った。

◎岡村社長CEO「創薬アプローチも価値駆動型ライフサイエンスイノベーター目指している」

岡村社長CEOは、「（過去の）創薬アプローチはどちらかというと、誰かが作ったものを追い掛ける“Best in class”を目指していた」と振り返る。当時のサステナビリティの考え方は、「CSRはビジネスの外側。ビジネスと関係あることやってはいけないという概念がむしろ強い時代だった」と指摘した。その上で、「現在は価値を明確に定義し、より広範囲なヘルスケアソリューションに事業拡大している。創薬のアプローチも最先端の価値駆動型ライフサイエンスイノベーターを目指している」と強調。「本業を通じて社会と事業の双方の持続性が向上するような好循環を生み出していくことが、私達のサステナビリティだと定義している」と語った。

◎飯野部門長　社員も一緒に汗を流しながらパートナーと社会課題の解決に取り組む

同社は2022年度に策定したサステナビリティ方針を基に、7つの中期優先項目を設定している。23年度は項目の進捗を図るため、約50の指標を設定し、全社的な取り組みを進めてきた。

飯野伸吾サステナビリティ部門長は保健医療へのアクセス向上に向けた外部パートナーとの協業や支援について、「単に資金だけ提供するのではなく、アステラス製薬のナレッジやケイパビリティを活用できる分野にフォーカスを当て、社員も一緒に汗を流しながらパートナーと社会課題の解決に取り組むことを基本にしている」と説明した。具体的な取り組みとして、住血吸虫症の小児用治療選択肢の開発では、小児用プラジカンテル・コンソーシアムの一員として、小児患者が服用する際の味の改良や錠剤の小型化に向けた製剤技術やノウハウを供与しながら成果を挙げることができた事例を紹介した。

◎ブラジルで疾患リテラシー向上へ仮想現実空間を活用

また、別の取り組みとして、ブラジルでは地元スタートアップと連携し、仮想現実空間「Astellas Healthcare E-city」を開発。胃がんの早期診断と予防に関する教育コンテンツを提供し、23年12月の開始以降1000人以上が利用しているという。飯野部門長は「疾患リテラシー向上のためのコンテンツ提供の場として活用し、将来的にはオープンエコシステムとして様々な医療課題を解決するためのヘルスケアソリューションを提供できるプラットフォームを目指していきたい」と語った。また、岡村社長は「まずはアイデアレベルからしっかりワークするかの検証が第一。検証ができた暁には、対象疾患や国を増やすことにつなげたい」と補足。さらに「ヘルスケアへの関心が高まる中で、かえって情報過多になっている。プラットフォームのようなハブをつくることで本当に信頼できる情報、正確で役立つ情報が集まる場になっていけばいい」と展望を述べた。

◎人材戦略　社内外問わず最適な人材を後継者に

人材戦略の面では、経営計画2021の実行に向けた後継者の育成や選別などのサクセッションプランニングの進捗を紹介。必要なリーダー像として「変革的リーダーシップ」「結果思考」「グローバル・マインドセット」を掲げ、社内外問わず最適な人材を後継者候補にする仕組みを取り入れている。23年度では、部門長クラスの7割がサクセッションプランに基づいて用意されたリストから任命された。社内外の比率では12％が社外からの任命だった。

杉田勝好代表取締役副社長(人事・コンプライアンス担当)は、「組織上層におけるサクセッションプランはかなりできてきている。一方でキャリアデベロップメントプランなど若い層が仕事を通じて成長につなげる点についてはまだ少し改善余地がある。人材育成の中核を担う管理職に対して、人事としてどれくらいコーチングやガイドをして、背中を押していけるかが大切になる」と述べた。