厚労省・三浦経済課長 「一挙手一投足が見られている」と警鐘 変化共有で産業構造転換を促す
公開日時 2018/11/09 03:53
厚労省医政局経済課の三浦明課長は11月8日、都内で開催された卸連主催のセミナーで講演し、薬価制度抜本改革などで医薬品産業が厳しい局面に晒されていることを認めながらも、それ以上に社会保障全体は労働生産人口の減少と医療・介護の需要増などの「荒波に立ち向かっていることを(産業側と)共有しておかなければいけない」と警鐘を鳴らした。製薬業界にとっては18年度、19年度、20年度と薬価の全面改定が続くとしながらも、国が推し進める健康寿命の延伸や予防対策などの視点を産業全体で受け止める必要があると強調した。
三浦課長は、内閣官房・内閣府・財務省がまとめた2040年度の将来推計から、医療・介護給付費は最大94.7兆円に達するとのデータを提示した。国内総生産(GDP)比率が増大することを説明しながらも、社会保障全体が厳しい状況に置かれていることを強調した。これまでは超高齢社会を見据えた施策が打たれてきたが、2040年度を見据え、健康寿命の延伸へと施策の舵が切られているとの見方を示した。その一例として、介護では多職種連携により効果のあった施策を他の自治体に横展開することで、介護予防につながったことなどを紹介した。医療・介護領域で様々な改革が進んでいることを示し、「直接、間接的に医薬品、流通業界とも関係なし、ではいられない」と強調した。
三浦課長は、「(製薬業界を見る)国民の目線が確実に高まっている。財務省がMRの生産性を指摘する時代だ。皆さんの一挙手一投足が見られている。隙があれば業界に無駄があると言われてしまう」と指摘した。そのうえで国の社会保障をめぐる議論は、2025年以降、2040年までの新たな改革の視点として、労働生産人口の確保を目的とした「健康寿命の延伸や予防施策に大きく舵を切っている」と述べ、産業側に対して、環境変化を踏まえた産業構造の転換を促した。
◎流通改善「十数年にわたり成果を出してこなかった」
厚労省医政局と保険局は18年1月、「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」を発出し、流通改善を促した。三浦課長は医政局と保険局がタッグを組むことで、「大きな前進のきっかけになったのでは」と述べた。そのうえで、2004年の緊急提言で、流通をめぐる課題として指摘された、▽一次売差マイナス、▽未妥結・仮納入、▽総価契約-の3課題のうち、未妥結減算の導入で妥結率が改善したのを除き、「十数年にわたり、成果を出してこなかった」と指摘した。ガイドライン発出後も5月時点では「川上取引については改善されてこなかった」ことも述べ、適切な仕切り価・割り戻しの設定などの通知発出に至ったことも説明した。三浦課長は、「(2018年は)大事な年になっていく。流通ガイドラインは上期、尽力していただき現場にいきわたった。苦労したと聞くこともあるが、背中を押してくださったと聞くこともある。下期、来年という形で、しっかり根付かせて成果を出すことが重要だ」と述べた。
このほか、2019年10月に予定される消費増税に伴う薬価改定についても言及。製薬業界側は10月改定を強く要望しているが、三浦課長は、半年後に20年度改定が行われることから、「そのスケジュールでできるかで、物事が決まっていくのではないか」と述べた。
◎日薬連・手代木会長 官民パートナーシップ“日本版IMI”求める
日本製薬団体連合会(日薬連)の手代木功会長(塩野義製薬代表取締役社長)も同日講演し、創薬が難しくなるなかで、官民パートナーシップによる“創薬プラットフォーム”の構築を「考えないといけない時期にきている」との見方を示した。手代木会長は、細胞医療や遺伝子治療の登場などで、製品のモダリティが多様化するなかで、「製薬企業だけでは難しい」との見解を表明。欧州での研究開発における官民パートナーシップ“Innovative Medicine Initiative(IMI)”を引き合いに日本版“IMI”とも呼べるものを構想することを求めた。また、アジアへのグローバル展開を見据え、日本と欧米の承認制度の違いにも言及。現状、米FDAや欧州のEMAで承認されれば、アジアでも承認されるが、PMDAの承認は異なると指摘し、「ハーベストがあるのに、すぐ販売につなげるメリットを享受しきれていない」と指摘。PMDAで承認を受ければアジアでも承認されるようなスキーム構築を厚労省側に訴える考えも示した。
流通改善については、「信頼される産業として普通の人からみてわかりやすい産業」となる必要性を強調。「メーカーも卸も普通の人からみておかしいのでは、と言われるような商取引を直していく」必要性も指摘した。
医薬品は製薬企業と医薬品卸の“共有財産”であるとの見解も表明。18年度薬価制度抜本改革について改めて、「我々が主張したこととは乖離がある。相当痛めつけられた」との認識を示したうえで、2016年度、17年度、18年度と社会保障費抑制財源のほとんどが薬価で賄われていたことを問題視。製薬産業はリーマンショックで産業全体が厳しい局面に置かれた際、納税額が全産業で一位だったと説明。「確実に国を支える産業としてライフサイエンス関連産業がある」と担税力のある産業の意義を強調した。そのうえで、「共通のアセット(=医薬品)を守るために乱暴なことは控えるように、ということを言い続ける」とも述べた。