厚労省は7月2日、新薬として10製品16品目を承認した。この中には、武田薬品が承認申請し、全世界売上2000億円超(17年度)の潰瘍性大腸炎治療薬エンタイビオ点滴静注用(一般名:ベドリズマブ(遺伝子組換え))がある。また、アストラゼネカ(AZ)が非小細胞肺がんの治療薬として承認申請をした抗PD-L1抗体イミフィンジ(一般名:デュルバルマブ(遺伝子組換え))、日本初の遺伝性乳がん治療薬として効能追加の承認申請をしたリムパーザ(一般名:オラパリブ)も今回承認となった。
新薬として承認された品目は次のとおり。
▽エンタイビオ点滴静注用300mg(ベドリズマブ(遺伝子組換え)、武田薬品):「中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。薬効分類239。
中等症から重症ではステロイド剤などが使用されるが、抵抗性の場合、抗TNF抗体などが用いられる。同剤も中等症以上に用いる抗体医薬という位置づけだが、ヒト化抗ヒトα4β7インテグリンモノクローナル抗体で新規の作用を持つ。
武田の最主力品で、2017年度の売上高は米国で1336億円、米国含む全世界では2014億円に上る。 海外では「エンティビオ」の製品名で販売されている。
▽イミフィンジ点滴静注120mg、同500mg(デュルバルマブ(遺伝子組換え)、アストラゼネカ):「切除不能な局所進行の非小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法後の維持療法」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。薬効分類429。
がん免疫療法薬で抗PD-L1抗体。がん免疫療法薬で非小細胞肺がんの適応を持つオプジーボ(小野薬品)、キイトルーダ(MSD)、テセントリク(中外製薬)はいずれも、切除不能な進行・再発のケースを適応としているが、イミフィンジは、局所進行の根治的化学放射線療法後の維持療法と、他剤と適応が異なる。
AZの発表によると、切除不能な局所進行(ステージ3)の非小細胞肺がんは、同時化学放射線療法(CRT)により患者の89%はCRT後に病勢が進行、転移しており、5年生存率は15%と報告されている。現在の標準治療は、CRT後の無治療経過観察に留まることから、新たな治療が強く望まれていた。同社の谷口忠明研究開発本部長は、「CRTの登場以降、約20年間に亘り治療の進展が見られなかったステージ3非小細胞肺がん治療において、イミフィンジが本邦初の抗PD-L1抗体として承認を取得した」と、同剤の意義を説明している。
AZは、同剤の対象患者の治療法が極めて限られるとして、厚労省の「保険外併用療法制度」のもとで薬価収載までの間、同剤を無償提供する。
▽リムパーザ錠100mg、同錠150mg(オラパリブ、アストラゼネカ):「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」を効能・効果に追加する新効能医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間10年。薬効分類429。
がん細胞死を誘導する世界初のPARP阻害薬で、日本では2018年に卵巣がんの治療薬として承認された。今回は、BRCA遺伝子変異によってDNA損傷が修復されず細胞のがん化につながるタイプの遺伝性乳がんの治療薬として適応追加したもの。国際共同フェーズ3(「OlympiAD試験」)では、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)では化学療法群4.2か月に対し、オラパリブ群では7.0か月と有意に延長した。処方にはコンパニオン診断薬でBRCA遺伝子変異を調べる必要があり、BRCA遺伝子変異を判定した上でする処方する薬剤は初めて。AZとMSDがコ・プロする。
▽レフィキシア静注用500、同静注用1000、同静注用2000(ノナコグ ベータペゴル(遺伝子組換え)、ノボ ノルディスクファーマ):「血液凝固第IX因子欠乏患者における出血傾向の抑制」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。薬効分類634。
血友病Bの患者を対象にした半減期延長型製剤で、定期的な投与では40IU/kgを週1回投与する。
▽ダフクリア錠200mg(フィダキソマイシン、アステラス製薬):感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。薬効分類611。
適応菌種はクロストリジウム・ディフィシルで、これに起因する感染性腸炎(クロストリジウム・ディフィシル感染症=CDI)に用いる抗菌薬。CDIは重篤になると死亡することもある。日本では、治療薬としてメトロニダゾール、バンコマイシンがあるが、近年は感受性が低下しているとの報告があり、新たな作用を持つ同剤が治療選択肢の一つになることが期待される。
▽ジェミーナ配合錠(レボノルゲストレル/エチニルエストラジオール、ノーベルファーマ):「月経困難症」を効能・効果とする新医療用配合剤。再審査期間4年。薬効分類248。
用法・用量では28日間を1周期とするか、84日間を1周期とするか、患者の生活様式などに応じて選択できるようになっている。レボノルゲストレル0.09mg、エチニルエストラジオール0.02mgを配合する。レボノルゲストレルを配合した月経困難症薬は初めて。
▽スピラマイシン錠150万単位「サノフィ」(スピラマイシン、サノフィ):「先天性トキソプラズマ症の発症抑制」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間10年。薬効分類6419。
妊婦がトキソプラズマに初感染した場合、トキソプラズマが胎盤を介して胎児に感染し、先天性トキソプラズマ症を発症する可能性がある。感染すると、胎児は流死産、水頭症、脳内石灰化などが起こることがあるが、日本ではトキソプラズマ症に関する適応で承認されている薬剤はなかった。
その中で日本産婦人科学会から開発要望が厚労省に提出され、同省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で開発の必要性が認められ、同省から開発要請を受けたサノフィが開発した。
▽ガザイバ点滴静注1000mg(オビヌツズマブ(遺伝子組換え)、中外製薬):「CD20陽性の濾胞性リンパ腫」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。薬効分類429。
対象疾患は、悪性リンパ腫の種類の1つで、リンパ球のB細胞から発生する非ホジキンリンパ腫。B細胞を標的とするモノクローナル抗体。製造販売は中外製薬、販売は日本新薬。
▽トレリーフ錠25mg、同OD錠25mg(ゾニサミド、大日本住友製薬):「レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズム(レボドパ含有製剤を使用してもパーキンソニズムが残存する場合)」を効能・効果に追加する新効能・新用量医薬品。再審査期間4年。薬効分類116。
この適応症は初めてで、海外でもこの適応症では承認されていない。レボドパ含有製剤を一定期間使用してもパーキンソニズムが残存する患者に対し、レボドパ含有製剤と併用する。1日1回25mgを投与する。
▽イラリス皮下注用150mg、同皮下注射液150mg(カナキヌマブ(遺伝子組換え)、ノバルティスファーマ):「既存治療で効果不十分な全身型若年性特発性関節炎」を効能・効果に追加する新効能・新用量医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間10年。薬効分類399。
同剤はIL-1βに対するモノクローナル抗体で、炎症性サイトカインIL-1βに結合し、活性を中和することで症状を改善する。ステロイドによる標準的治療を行っても効果不十分なケースに用いる。
厚労省 効能や用法追加などの承認も
厚労省は7月2日、新薬以外の承認として、既存の医療用薬への効能・効果や用法・用量の追加も行った。この中には関節リウマチなどに用いるレミケードのバイオ後続品もあり、承認取得したファイザーとしては初のバイオ後続品となった。承認された品目は次のとおり。
▽インフリキシマブBS点滴静注用100mg「ファイザー」(インフリキシマブ(遺伝子組換え)[インフリキシマブ後続3] 、ファイザー):「既存治療で不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止含む)、尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症」「中等度から重度の活動期にあるクローン病、外瘻を有するクローン病の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)」「中等症から重度の潰瘍性大腸炎(既存治療で効果不十分な場合に限る)」を効能・効果とするバイオ後続品。再審査期間なし。
田辺三菱製薬のレミケードのバイオ後続品は3製品目となる。先行品のレミケードと異なり、このバイオ後続品には、ベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎、強直性脊椎炎、腸管型・神経型・血管型のベーチェット病、川崎病の急性期の適応はない。
▽トレアキシン点滴静注用25m、同点滴静注用100mg(ベンダムスチン塩酸塩、シンバイオ製薬):既存の効能・効果である「低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫」において併用療法を追加する新用量医薬品で、同日に新薬として承認されたガザイバ点滴静注と併用できるようにした。ガザイバが適応とするCD20陽性の濾胞性リンパ腫は、CD20陽性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫の代表的な組織型という。再審査期間は残余(2020年10月26日まで)。同剤はエーザイが販売している。
▽タフィンラーカプセル50m、同カプセル75mg(ダブラフェニブメシル酸塩、ノバルティスファーマ)
▽メキニスト錠0.5mg、同錠2mg(トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物、ノバルティスファーマ)
:BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫の既存効能に、術後補助療法を追加する新効能・新用量医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は残余(2026年3月27日まで)両剤を併用する。
▽イムブルビカカプセル140mg(イブルチニブ、ヤンセンファーマ):再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の既存効能に対し、未治療患者にも使えるようにした新効能医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は残余(2026年3月27日まで)。
▽フェントステープ0.5mg、同テープ1mg、同テープ2mg、同テープ4mg、同テープ6mg、同テープ8mg(フェンタニルクエン酸塩、久光製薬):新たな規格として0.5mg追加し、0.5mg単位での用量調節をできるようにした。再審査期間なし。久光製薬と協和発酵キリンが共同販売している。
▽ジアグノグリーン注射用25mg(インドシアニングリーン、第一三共):「血管及び組織の血流評価」を効能・効果に追加した新効能・新用量医薬品。再審査期間なし。厚労省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で公知申請が妥当とされ、医薬品部会で事前評価ののち公知申請されたもの。そのため追加する適応症については既に保険適用されている。
<訂正>(7月4日16時40分)
リムパーザ錠について「日本発の遺伝性乳がん治療薬」としていましたが、正しくは「日本初の遺伝性乳がん治療薬」です。下線部を訂正しました。