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有識者検討会 日本ベンチャー発の革新薬の迅速導入へ “リスクテイク”できない内資系企業が課題に

公開日時 2023/01/16 06:26
厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」は1月13日開かれ、ベンチャー支援に関する有識者、関係企業からのヒアリングを行った。芦田耕一構成員(INCJ執行役員ベンチャー・グロース投資グループ共同グループ長)は、日本の創薬スタートアップであっても、革新的新薬につながる“成功例”が期待される大型契約は外資系企業が多いとのデータを提示。メガファーマに比べて内資系企業の企業規模が小さいなかで、「売上高や収益の規模でどれだけのリスクを負えるかということに違いが出てくるだろうと思う」と述べ、日本発の革新的新薬の迅速導入が少ない背景に、開発早期から“リスクテイク”できない内資系企業の実態が指摘された。

革新的新薬の迅速な導入に向け、創薬スタートアップ(ベンチャー)や、国内に拠点を持つ企業、アカデミア、ベンチャーキャピタル(VC)や投資家、銀行などの金融機関による“創薬スタートアップ・エコシステム”を日本に根付かせる必要性が指摘されている。一方で、課題としては、アセットの少なさに加え、投資資金や専門人材の少なさなど、ヒトモノカネの少なさも指摘されている。

芦田構成員は日本の創薬スタートアップであっても、大型契約は外資系企業が多いと説明。井上光太郎構成員(東京工業大工学院長)にこの理由を問われ、「一つには海外メガファーマと日本の製薬企業での一つの違いはやはり企業規模だと思う」と指摘。「技術を導入する、スタートアップに対して大きな契約を結ぶということは、ある意味リスクを負っている。技術ライセンス契約に対してもアセットに対しても、早い段階であれば必ず新薬が承認される、上市できるというわけではないので、開発のリスクを負う。売上高や収益の規模でどれだけのリスクを負えるかということに違いが出てくるだろうと思う」との見解を示した。井上構成員は、「そもそも規模の問題でリスクテイクの量が制約されていて、なかなか逆に成功例ではなかなか日系企業とベンチャーの間のシーズの受け渡しが難しくなっているということだ」と述べた。

◎内資系企業の事業化する力は・・・?

坂巻弘之構成員(神奈川県立保健福祉大大学院教授)は、海外の新興バイオ企業が内資系企業に導出したにもかかわらず一向に上市されないこともあるとの個別の例を紹介し、「そもそも事業化する力についてはどうなのか。これもなんとなく弱いんだろうなと感じている」と指摘。「日本のバイオベンチャーもそうだが、パートナーである(内資系の)製薬企業の事業化する力に問題があるのではないか」との問題意識を示した。これに対し、芦田構成員は、「海外の企業と提携をして、事業化を進めていくということも含めてされている企業もある。事業化する力というのは、少し個別性が高いのでは」と話した。

◎芦田構成員「アメリカのエコシステムに入り込んで人材、資金獲得を」

創薬スタートアップ・エコシステムのあり方については、日本だけにとどまるのではなく、海外リソースを活用する必要性を芦田構成員は指摘。そのためには、“海外法人”の設立も一つの選択肢にあげた。芦田構成員は、「海外、特にアメリカの人材を活用していくことも必要ではないかと思う。その方法としては、アメリカの方に“日本に来てくれ”というのは非常にハードルが高いので、一つはアメリカに現地法人を作る。そこで人材を獲得し、できれば資金を獲得していくということで、ある意味アメリカのエコシステムのなかに入り込んでいくということが一つ必要ではないか」と表明。「医薬品は基本的に製品がグローバルなもので、プレーヤーも顧客も、競合もグローバルなので、やはりグローバルなエコシステムのなかにどう位置づけていくかという視点が必要だと思う。日本のなかの閉じたエコシステムではなく、いかに海外のエコシステムのなかに入り込んでいくか、もしくはリソースを取ってくるかといった視点が必要ではないか」と強調した。

◎ベンチャーの方が企業よりも資金力高くパイプラインに集中投資 意思決定のスピードも

この日の有識者検討会では、ベンチャーが革新的新薬を創出するメリットに質問が集中。参考人である、武田薬品からスピンアウトしたリボルナバイオサイエンスの富士晃嗣代表取締役は、「当時できなかったプロジェクトを、我々のプロジェクトとしてできるということだ」と説明。「もう一つ、意思決定の素早さというところがあげられると思う。バイオベンチャーは、データが出てすぐそこからすぐ次のビジョンに向かえるというところから、大きな製薬会社での意思決定のプロセスから比べると非常に簡素化されていて、そこが一つの大きなバイオベンチャーでいるメリット」と述べた。

遠藤久夫座長(学習院大経済学部教授)は、「ファイナンスとか人材にベンチャーにすると非常に不足があるというのであるならば、なぜ武田薬品のなかでやらなかったのか」と質問。富士参考人は、「実はベンチャーで行う方が大企業よりも、ファンドもお金も集めやすい。実はパイプラインごとの資金という意味では、大企業のなかでやっている開発よりも、まだベンチャーでやる方が資金面でも実は多いのではないかと考えている」と述べた。

これに対し、小黒一正構成員(法政大経済学部教授)が、「横から申し訳ないが、会計上は武田薬品さんと連結になってないのではないか」と、カットイン。さらに、遠藤座長がリボルナ社に対し、「先ほど来、ずいぶんベンチャーキャピタルからのお金が不足しているというような議論もあったが、企業のなかにいるよりはまだマシだが、アメリカと比べれば、というそういう理解でよろしいか」との質問に対しても、小黒構成員が「武田薬品は上場しているので、リスクとの関係で、会計上は別の方がいいということではないかと推測する」、「武田薬品の株価に対する影響だと思う」などと発言した。

芦田構成員は、「製薬企業も数多くの創薬プロジェクトを持たれていて、それが常に一定ではなく、戦略の変更やポートフォリオの組み替えが行われている。重点領域から少し漏れてしまうようなプロジェクトというのもやはり出てくるわけだ。大手企業の戦略の変更でそういったことが起きてくるということは、常に起こり得ることだと思う」と説明。スピンアウトすることで、「プロジェクト自身、もしくは研究者自身をきちっと評価されるのであれば、そこに資金をつける投資家がいるということになると思う」と説明。「投資家からすると、シーズなりアセットをちゃんと専門性を持って評価し、実際にそれを研究開発する、経営陣がいるかどうかだ。研究や経営者の能力など、実行可能性を評価したうえでお金をつけるかどうかの判断をしている」と述べた。

◎MEDISO・川上氏「ベンチャー、アカデミアに情報発信で一元窓口として機能」

このほか、情報の一元化や人材の流動化の必要性も指摘された。参考人の医療系ベンチャー・トータルサポート事業(MEDISO)の川上明彦プロジェクトマネージャー(三菱総合研究所ヘルスケア&ウェルネス本部 ヘルスケアイノベーショングループ主任研究員)は、医療系ベンチャーの支援策が増えるなかで、「課題として考えられるのは、ベンチャー支援に関する情報を収集し、一元的に情報発信するような交通整理が必要だというところだ」と指摘。「MEDISOが交通整理を行い、官民によるトータルサポートを実現してはどうかと考えている。具体的には各支援策の情報収集、情報発信、円滑な支援の橋渡し、イベントの相互の活用促進をこれまで以上に実施し、医療系ベンチャー企業、アカデミアに対するトータルサポートの一元窓口としてより一層機能することで、日本からの革新的な医薬品の創出につながると考えている」と述べた。

井上構成員はアカデミアの立場から、「企業と大学の間で非常に情報の非対称性みたいなものがあり、名のある研究者には企業側から集中的に来るけれども、なかなか若手のところまで行きにくいという問題もある。その辺のシーズの前段階になるかもしれないが、研究者と企業とのマッチングをより進めていく必要があると思った」と強調。医学系だけでなく、工学系や薬学系などへの情報発信も求めた。



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