ヘルスケア業界の女性活躍を支援する「HBA Tokyo」 製薬等52社から400人超参加 企業を超えた挑戦
公開日時 2024/12/23 04:52
ヘルスケア業界で働く女性の地位向上を目指す団体「Healthcare Businesswomen’s Association」(HBA)は、世界各国で80超の拠点を持ち、約150の企業から8万5000人以上が参加している。日本でも2023年10月に「HBA Tokyo」が設立され、本格的な活動を開始した。立ち上げたのはブリストル マイヤーズ スクイブ(BMS)生産物流部門の責任者で愛知工場長を務める井村佐をり氏。「女性の働き方や健康問題など、ヘルスケア業界として多岐にわたる課題に触れながら、一人ひとりのニーズに寄り添っていきたい」と語る井村氏にその思いを聞いた。(早瀬 悠里)
◎「いつかこういった風景を日本に持ち帰りたい」 井村氏
井村氏はインタビューの中で、これまでの仕事を通じ、日本人女性リーダー職との出会いが少なく、女性社員たちに何ができるか考えさせられる機会が多かったと語ってくれた。自身もBMS内の女性活躍を推進する従業員コミュニティに参加。ジェンダーについてのダイバーシティに携わるキャリアを歩んできた。そんな中、米国本社赴任期間に出会ったのがHBAだった。
BMS本社のある米・ニュージャージー州には多くの製薬企業が拠点を構えている。ある日のこと、社内には会社の壁を超えて、大勢の参加者が集まった。そこでは、業界の抱える課題を熱く議論し、自分自身のキャリアやリーダーシップを発揮した経験談などを話し合う参加者の姿に衝撃を受けたという。「いつかこういった風景を日本に持ち帰ることができたら、私が周りで関わったメンバーにも刺激になるのではないかと思った」-。当時の様子を井村氏はこう振り返った。
◎日本に帰国し、23年10月に「HBA Tokyo」を立ち上げ
日本に戻りコロナ禍を経て、23年10月に「HBA Tokyo」を立ち上げた。24年2月にキックオフミーティングを行った際には、製薬企業を中心にヘルスケア業界25社から100名が集まった。その時の光景を、「私が思い描いていた、アメリカで見たもの」と井村氏は目を細める。立ち上げから一年。オンラインで働き方などについてカジュアルに話す機会を設けたり、コーポレートパートナーにHBAを紹介するイベントを行ったりして、順調に会員数は伸びていった。
結果的に、目標としていた会員数の3倍以上となる400人以上が52社から集まった。「ヘルスケア業界で働く人たちは、患者さんのため、人々の健康のために働きたいという、共通の使命感に燃えている人たちが多い。その中で業界として、その会社を超えてでも聞きたい話があるのではないかと感じた」と井村氏は語る。
◎10月の一周年イベント 17人のカントリーリーダーを招聘 ラウンドテーブルを開催
24年10月の一周年イベントでは、企業のカントリーリーダー17名を招き、リーダーズラウンドテーブルなどを行った。そこで共通していた話題が、各社ジェンダーやダイバーシティの取り組みは行っているものの、満足している会社が一つもなく、数社のリーダーからは「ボトムアップの取り組みがトップダウンと合わせてないと難しい」という提案もあった。こうした提案やニーズを取り入れながら、今後もHBAの繋がりを持っていきたいという。
HBA Tokyoでは「リアルな悩みを吐き出せる場を合わせておく」ことも大事にしている。実際に「『薬事の仕事をやっていて、今私はマネージャーだがどのようにシニアマネージャー、ディレクターになっていけるのだろうか』とか、『どんな知識や経験を積んだらいいのだろうか』というようなことを情報交換し合う」場にもなっており、「気軽に同じ業界内の他社の方たちと繋がれるというのが非常に嬉しい」と参加者にも評判が良いそうだ。
◎土日の顧客向けWebセミナーなどに問題提起 「普通の時間」でいい環境を提供
井村氏は、看護師、薬剤師など全体としてみると女性の割合が多いヘルスケア業界だからこそ女性活躍を推進する意義があると強調する。「イベントで指摘された話として、製薬企業が顧客向けに行っているWebセミナーや、 土日・祝日に企画する医療者向けの勉強会などに非常に多くの時間を割いている。医師の働き方改革が行われる中で、これは本当にお互いにあるべき姿なのか」と語り、「そういったところを改善できれば、MR業務に関わらず誰しもが適切な働き方に繋げられるのではないか。子育てなどの時間的制約がある中で、お互いに『普通の時間の中でやりましょうよ』となれば、いい環境が提供できるのではないか」と、多岐にわたってヘルスケア業界を支えていけるような存在を目指したいという胸の内を明かしてくれた。
HBA Tokyoの提供価値は、「ヘルスケア業界で働く1人ひとりが最大の可能性を発揮できるように、お互いからお互いを知り、お互いから学び、お互いをサポートできる環境を提供する」―。「お互いから学び、出会いを大事にして、自由に繋がって輪を広げていければ」と語る井村氏の展望のように、企業を超えたスクラムが業界の新たな課題に道を切り拓く第一歩となるかもしれない。