第一三共の奥澤宏幸代表取締役社長兼COOは12月23日のサステナビリティに関する意見交換会で、「イノベーションを支える基盤は、競争優位の源泉であるサイエンス＆テクノロジー（S&T）の強みとそれを生み出す人的資本にある」と強調した。その上で「事業環境に応じた人的資本の適正化」と「組織のグローバル化」に注力することで、「継続的なイノベーションを創出し、生み出した価値を再投資することで、持続的な価値創造ストーリーの実現を目指す」と訴えた。

◎リーダー育成プログラム「DS Academy」　経営者候補30人参加　グローバルの成長牽引に期待

取り組みの一つとして、国内外の次世代グローバルリーダーを育成するプログラム「DS Academy」を紹介した。2024年4月から2年間のパイロットプログラムとして始まったDS Academyには、経営者候補約30人が参加し、東京やドイツ・ミュンヘンでのセッションを開催。集合研修のほか、グループ討議や経営会議メンバーとのメンターセッションを重ね、第一三共の歴史やリーダーシップ、ペイシェント・セントリシティなどについて学びや研鑽を積んだ。

このうち、東京セッションでは奥澤社長COOとともに中山讓治常勤顧問、眞鍋淳代表取締役会長兼CEOの歴代社長が登壇し、それぞれの時代における変革の歩みを紹介。ミュンヘンでは、受講生が26年度からの新中期経営計画をテーマに小グループでの模擬立案に取り組んだ。受講生からはリーダーシップに加えて全社視点を身に付けたり、経営会議メンバーとの議論を深めたりと、前向きな受け止めが得られているという。奥澤社長COOは「企業文化を共有する次世代リーダーたちがグローバルな成長を牽引することで、競争力と優位性を生み出す環境を作り出していくことに期待している」と意義を強調した。

プログラムは25年春に米・ボストン、同年秋に東京でセッションを予定。パイロットプログラム後の26年からは本格実施を計画しているという。

◎社長キャラバン　国外グループ会社を訪問　エンゲージメント向上に手応え

社員のエンゲージメント向上に向けて、奥澤社長COOは23年度の国内全拠点訪問に加え、24年度は日本以外のグループ会社への社長キャラバンを進めている。12月時点で全体の88％にあたる20社、約1万7000人相当との対話を通じて「会社の方向性に対する社員の納得感を深めるとともに、One DS Cultureの醸成やパーパス実現に向けた社員の高いモチベーションやコミットメントを確認することができた」と手応えを示した。

◎専門人材の獲得・育成　バイオ人材育成の仕組みづくり「だいぶ進んでいる」

専門人材の獲得・育成に向けた取り組みでは、強化領域への再配置や新たなチャレンジ機会の提供も進めている。日本ではバイオ、グローバル、DXで専門人材の獲得・育成に力を入れ、外部からの採用や社内育成に積極的な投資を進めている。それぞれに人材獲得目標を定めており、バイオ人材の抗体製造・プロセス開発では26年度目標が100人体制（23年時点で65人）、グローバル人材では50人、DX人材では110人と掲げる。

社内では異動配置を通じた人材強化に数年前から取り組んでおり、奥澤社長COOは「特にバイオ人材は、かなり育成方法やトレーニングプログラムが進んでいる。新卒社員も半年後にはそこそこの戦力に仕上げることができる仕組みがすでにできている」と強調した。

グローバルにおいては、日本以外の北米や欧州などの社員数が16年度に比べて24年度には39％増加。主に臨床開発やテクノロジーなどの専門人材の獲得強化によるものだとし、グローバル共通の人事制度導入によりさらなる人材強化を図っていくという。

◎ケンブリッジとミュンヘンに研究イノベーション拠点開設　S&T強化に期待

研究開発では、24年5月に米・ケンブリッジとドイツ・ミュンヘンに研究イノベーション拠点を開設した。奥澤社長COOは「現役のリサーチャーを数人送り込んでおり、創薬エコシステムの中でプレゼンスをしっかりと出しながら、何か一緒にやっていけるようなことがあるかどうかを探っている。出来上がったものを買ってこようというものとはだいぶ性格を異にしている」と説明。強みとするS＆Tのさらなる強化に期待を示した。

さらに奥澤社長COOは、常務執行役員研究開発本部長兼研究統括部長だった我妻利紀氏の逝去に触れ、「我妻氏はADCの研究チーム発足前から抗体研究を進めてきたサイエンティスト。そのバトンはR&Dだけでなくテクノロジーの人たちにも受け継がれ、第一三共の強みと呼べる領域にまで達している」と功績をたたえた。