長期収載品の薬価めぐり「患者の自己負担のあり方」が論点に浮上 選定療養も視野 有識者検討会
公開日時 2023/01/27 06:20
厚生労働省は1月26日、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」に先発メーカーの“長期収載品に依存するビジネスモデルからの脱却”を論点にあげた。厚労省は、長期収載品から後発品への置き換えが進まない理由の一つとして、貼付薬などでは「使用感」を理由に患者が選択しているケースがあると説明した。患者の自由意思で長期収載品が選択されていることから、遠藤久夫座長(学習院大経済学部教授)は差額ベッドなどのように、長期収載品を「選定療養」とし、長期収載品と後発品との差額を自己負担とする議論があったことを説明。堀真奈美構成員(東海大健康学部長・健康マネジメント学科教授)は、「どこまで保険で見るのかというのは、検討する余地があるのではないか」と指摘した。長期収載品の薬価をめぐっては、“患者の自己負担のあり方”が今後の焦点となりそうだ。
◎長期収載品比率5割超の企業は2割 新薬扱わず長期収載品取り扱う企業も19社に
長期収載品の薬剤費は減少傾向であるものの、現在でも1.8兆円と薬剤費全体の2割を占め
る。厚労省は、長期収載品に依存したビジネスモデルからの転換を促すことを目的として、これまでも薬価制度上で、「Z2」、「G1・G2」ルールの導入などの取り組みを進めてきたと説明。一方で、長期収載品を扱う企業(120社)のうち、長期収載品の売上比率が5割超の企業が約2割(25社)あるとのデータを提示。先発メーカーでも、「新薬を取扱わず、長期収載品を取扱う企業」も19社あるとした。
厚労省はこの日の有識者検討会に、薬効や剤形ごとに置き換えが進まない要因を検討したデータを提示した。①製造方法や原料の特殊性等により、後発品が存在していない、②抗てんかん薬など、医療上の必要性により長期収載品と後発品の使用が区別されている、③外用剤( 貼付剤・点眼剤) など、長期収載品と後発品とで治療効果の発現に差はないが、使用感等の付加価値により患者が長期収載品の使用を選択している-をあげた。一方で、輸液・生物由来製品(血液製剤)など特殊な原料を使用した製剤や、製造ラインの特殊性により、参入が難しいケースがあることも紹介した。
◎川原構成員 患者自己負担明記の「健保法附則のクリアが課題」
坂巻弘之構成員(神奈川県立保健福祉大大学院教授)は、後発品の普及が進まない背景について、「現実問題として大きいのが、やはり自己負担の問題だ。特にお年寄りでその負担割合が低い、あるいは子供さんが都道府県、地域で医療費が免除されているところにおいては、ジェネリックの置き換わり率は低い。論点としては、ジェネリックがあまり使われない集団に対して自己負担のあり方について議論すべきではないか」との見解を表明した。
患者負担の議論をめぐっては、健康保険法附則には3割負担の維持が明記されている。川原丈貴構成員(川原経営総合センター代表取締役社長)は、「健保法の附則をどうクリアするかという問題もある。通常の低分子薬よりも、バイオシミラーの方が1品あたりの単価が高いと思うので、自己負担をどうするかを考えていかなければならない。高額療養費もおそらく絡んでくるのかなと思った」と述べた。
◎遠藤座長 法改正なくとも選定療養で可能も「新薬シフト」の可能性指摘
遠藤座長は、「(長期収載品かジェネリックかは)最終的には患者さんの意向、これは自由に選択できる。そこをどうするかということで、自己負担を考えるという議論が出てきているわけだ」と説明。患者の自己負担のあり方については、社会保障審議会(社保審)医療保険部会で繰り返し議題にあがった経緯があることに触れたうえで、「要するに、長期収載品とか、あるいは特定の薬剤について自己負担を引き上げるという仕掛け、これは給付率を変えなくても、場合によっては、選定療養の対象にするとか、考え方はいくらでもできる」との見解を表明した。
そのうえで長期収載品の自己負担割合が引上げられると、特許中の新薬の自己負担の方が安くなってしまう可能性も指摘。「結局、ジェネリックへの転換ではなく、新薬への転換が起きるということが起きて、それは新薬のマーケットを大きくし、新薬の研究開発を促進するという目的からは、合目的なのかもしれないが、薬剤費を抑えるという点からしてみると、むしろ逆だ。そこら辺はどうするべきかという議論でいつも議論なっている。そのあたりも含めて、どう考えるかということだと思う」と述べた。
◎堀構成員 使用感や企業の付加価値「本当に保険で見るものか」と問題提起
堀構成員は、「アメニティとは言わないが、使用感あるいはその企業側の付加価値をつけるための努力は非常に前向きなものだと思う。そこについて本当に保険で見るものなのか」と指摘。「保険外併用療養費の話であるとか自己負担の話、あるいは自己負担の上限の話とかもあったが、例えば湿布の話とかも出てきたが、本当にそれをどこまで保険で見るのかは検討する余地はあるのではないか」と述べた。一方で、輸液など代替が難しい製品への対応の必要性も指摘。「カテゴリーごとに同じ後発品といっても考えなければいけないっていうふうに思った」と述べた。これまでのZ2などの薬価上の対応については、「いまの新しいモダリティを考えると、これまでのやり方は限界にきているのではないか」とも述べた。
◎長期収載品依存の製薬企業 井上構成員「新薬の開発にいけないのはその企業の実力」
長期収載品に依存する先発メーカーのビジネスモデルの転換も議論となった。芦田耕一構成員(INCJ執行役員ベンチャー・グロース投資グループ共同グループ長)は、後発品の使用促進策がスタートしてから20年経過し、長期収載品を売却するなど、ビジネスモデルの転換を進めている企業があるとした。そのうえで、「逆に言うとこの20年間、何もしてこなかった会社も多数ある」と指摘。「後発品やバイオシミラーを扱う企業、ある種兼業のような形でCMO/CDMOに業態転換するという方向性はあると思う。それぞれの企業の経営者がどう判断するかというのが最も重要だ」と指摘した。
井上光太郎構成員(東京工業大工学院長)は、「(ビジネスモデルは)企業が独自に考えるべきものなので、これに沿って政策を考えるというのはちょっとやや驚きを持った」と述べた。そのうえで、「新薬の開発に行けないということは、その企業の実力」と表明。「長期収載品に依存している企業をどうするかはその企業自身が考えること。何か政策的に企業が不当に競争状態で歪められているということでなければ、むしろ、新薬をしっかり開発できるベンチャーをいかに出していくか」と述べた。「ベンチャーが出てくれば、より長期収載品に依存するというビジネスモデルそのものが持続可能でないということがわかってくる。新陳代謝もしくは長期収載品に依存している企業そのものが特許期間中の開発により注力するという正の循環が生まれてくると思う。しっかりと環境整備する方が競争状態をより高く保つという意味で望ましいのではないか」と述べた。