中医協薬価専門部会は12月18日、2025年度薬価改定をめぐり、改定の対象範囲について議論した。焦点となっている不採算品再算定については、診療・支払各側から“企業から希望のあった品目すべて”に特例的な対応を行うことに否定的な意見があがり、「医療上の必要性が高い品目に限定」する方向で一致した。薬価改定の対象範囲については、これまで反対の姿勢を示していた診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)が、「やむを得ず中間年改定を実施するのであれば」と前提を置きながら「平均乖離率1倍超より下は切り込み過ぎている」と表明。診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)も「できるだけシンプルに考えるのが良い」と述べた。また、医科、歯科、調剤すべての診療側委員から、薬価財源をめぐり、医療提供体制に還元する必要性を指摘する声があがった。
◎不採算品再算定 診療・支払各側が安定供給の効果に否定的
厚労省はこの日の中医協に不採算品再算定品目の乖離状況を報告した。対象品目の平均乖離率は2.1%。95%以上が平均乖離率の5.2%以内となった。23年度、24年度と製薬企業から「成分規格が同一の類似薬の全てが該当する場合に限る」との規定を適用せずに、企業から希望のあった品目すべてを対象に実施された。一方で、24年度薬価改定で不採算品再算定が適用された品目のうち、供給状況の改善傾向がみられる品目は4割にとどまるなど、安定供給に対する効果は限定的との意見もあがっている。この日も中医協委員からは、不採算品再算定をめぐっては限定的な実施を求める声が診療・支払各側からあがった。「医療上の必要性が高い品目」への対応が焦点となる。
◎診療側・長島委員「必要性の高い品目や対応が十分でない品目に限定でメリハリを」
診療側の長島委員は、「これまで2年連続、特例的に大規模に行ってきたが、残念ながらいまだに必要な医薬品がいつも届くという状況とはなっていない」と指摘した。「円安、物価上昇、賃金上昇など原価が上がる要因が継続しているので、必要な医薬品が患者さんに届くよう、対応を検討することは必要」としながらも、「不採算品再算定を行う場合、その範囲は、必要性のより高い品目や、これまでの対応が十分ではなかった品目に限定することなど、メリハリのついた対応を提案する」と述べた。
◎診療側・森委員 不採算品目「乖離率に加えて医療上の必要性や効果の点から範囲を検討」
診療側の森委員も、「安定供給の点から不採算品再算定の適用は必要だが、過去2回の改定で、大規模に対応していること、前回の業界ヒアリングの内容等を踏まえながら、適用の際には全ての不採算品目に対して再算定を適用するのではなく、乖離率に加え、医療上の必要性や効果の点からどのような範囲で行うか検討する必要がある」と述べた。
◎支払側・松本委員「不採算品再算定の特例的な充実は、これ以上繰り返す妥当性は乏しい」
支払側の松本委員は、「安定供給確保の効果が限定的な不採算品再算定の特例的な充実は、これ以上繰り返す妥当性は乏しい」と強調。支払側の鳥潟委員も、「不採算品再算定は、その効果に疑問も生じているが、物価高騰や賃上げが続く中、今般も対応を行うのであれば、メリハリのある対応が必要」と指摘。「前回と同じルールをそのまま適用するのではなく、医療上必要性が高い品目に限定することに加え、乖離率要件等についても検討していただきたい」
◎新薬創出等加算の累積額控除 「過去に実勢価改定で薬価が猶予された部分は還元すべき」
新薬創出等加算の累積額控除も薬価改定の焦点の一つとなっている。厚労省保険局は、新薬創出等加算品目について24年度薬価制度改改革で、企業指標を廃止しされたことなどから、平均乖離率以内であれば薬価が維持されるようになったと説明。また、改定時加算が適用された品目は新薬創出等加算品目となり、要件を満たせば薬価が維持されるようになった。薬価収載時に補正加算が適用された品目も24年度薬価改定後は8割と23年度の7割から増加しており、新薬収載時のイノベーション評価と特許期間中の薬価維持が24年度薬価制度改革で実現されている状況にある。
製薬業界は業界ヒアリングで、新薬創出等加算の累積額控除について、「革新的新薬の価値が新規収載時に適切に薬価に反映される仕組みと、特許期間中の新薬の薬価が海外先進国と同様に維持される仕組みの実現がセット」と主張していた。
支払側の松本委員は、「後発品に市場を譲りつつ、長期収載品として患者負担の軽減、そして医療保険制度の持続性可能性に寄与していただくという観点からも、過去に実勢価改定で薬価が猶予された部分はしっかり還元すべきというふうに改めて主張する」と念を押した。
◎新薬創出等加算の累積額控除で想定される医薬品を厚労省が開示
なお、新薬創出等加算の累積額控除が実施された場合、対象となることが想定される「24年度に収載された初後発医薬品」の成分を厚労省は中医協に提示した。抗凝固薬やDPP―4阻害薬、抗がん剤など大型品も含まれている。▽スガマデクス静注液200mgシリンジ(先発名:ブリディオン、企業:MSD)、▽ウステキヌマブBS皮下注45mgシリンジ(ステラーラ、ヤンセンファーマ)、▽スガマデクス静注液200mg/同静注液500mg、▽ロピバカイン塩酸塩0.75%注75mg/10mL/同注150mg/20mL(アナペイン、テルモ)、▽エゼロス配合錠LD/同配合錠HD(ロスーゼット 、オルガノン)、▽リバーロキサバン錠10mg/同錠15mg(イグザレルト、バイエル薬品)、▽ビルダグリプチン錠50mg(エクア、ノバルティスファーマ)、▽サキサグリプチン錠2.5mg/同錠5mg(オングリザ、協和キリン)、▽ヒドロキシクロロキン硫酸塩錠200mg(プラケニル、サノフィ)、▽スニチニブリンゴ酸塩錠12.5mg(スーテント、ファイザー)、▽エリブリンメシル酸塩静注液1mg(ハラヴェン、エーザイ)、▽メトロニダゾールゲル0.75%(ロゼックス、マルホ)、▽エピナスチン塩酸塩LX点眼液0.1%(アレジオンLX点眼液0.1%、参天製薬)-。
◎診療側・森委員「改定時加算の適用考慮を」 市場拡大再算定は適用すべきでない
このほか、適用するルールをめぐっては、診療側の森委員が「中間年改定でもイノベーション評価はさらに充実させるべき。例えば新薬に対する改定時加算を適用するなどの対応があり得る。市場拡大再算定については、イノベーションの推進やドラッグ・ラグ/ロスの解消の観点からも、中間年改定での適用はすべきではない」との見解を示した。
このほか、最低薬価についても、「しばらく見直しが行われておらず、物価変動や現在の原材料価格等の高騰やインフレ下に鑑みた見直しは必要」と指摘。精製水を例に、「現在の薬価では採算性が乏しく、長期的な安定供給に支障をきたしかねない状況。昨今の原料、資材価格の高騰化、人件費の高騰、流通経費の増大等を踏まえ、最低薬価の引き上げを検討する必要がある」と強調した。
◎対象範囲 新薬創出等加算品目は平均乖離率以内であれば薬価は維持
厚労省は同日の中医協に、2024年薬価調査の結果に基づき、平均乖離率の「0.5倍超」、「0.625倍超」、「0.75倍超」、「1倍超」、「2倍超」にわけ、改定対象となる品目について試算した結果を提示した。なお、2024年薬価調査による平均乖離率は約5.2%。
平均乖離率超(1倍)で試算すると、対象品目数は8900品目(51%)で、新薬は840品目(34%)が対象になるのに対し、長期収載品は1300品目(76%)、後発品は5860品目(66%)。21年度、23年度では対象範囲となった「平均乖離率0.625倍超」では、1万750品目(62%)、新薬は1370品目(55%)、長期収載品は1450品目(85%)、後発品は6750品目(76%)などとなっている。なお、新薬創出等加算品目は平均乖離率以内であれば、薬価は維持されることになる。
いわゆる中間年改定の対象が「価格乖離の大きい品目」とされる中で、厚労省保険局医療課は、「医薬品の取引実態を踏まえ、医薬品のカテゴリーごとに薬価差の程度や役割等」を踏
まえて、どう考えるかを論点として提示した。
◎診療側・長島委員「できるだけシンプルに考えるのが良い」
診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「改定の対象範囲は、医薬品の役割等に対応して、価格乖離の大きな品目を考えることは合理的」と表明。「これまでの議論の大きな流れである長期収載品に依存しない創薬開発型企業への転換や、後発医薬品の使用促進することで、国民皆保険の持続性を維持していくといった視点に加え、昨今の安定供給確保の必要性等にも配慮しつつ、できるだけシンプルに考えるのが良い」と述べた。
◎診療側・森委員「平均乖離率1倍超より下は切り込み過ぎているという認識」
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「もっと対象範囲は限定すべき。乖離率が縮小しているにもかかわらず、同じ改定対象範囲で実施することは、対象範囲をさらに拡大していることと同義」と主張した。“価格乖離の大きな品目”については、「平均乖離率1倍超より下は切り込み過ぎているという認識」と述べた。これまで中間年改定の対象範囲は一律に乖離率の倍数(0.625倍)により決められてきたが、「医薬品のカテゴリーごとに対応を変えるのは、イノベーションや安定供給確保への配慮からあり得る」との考えを示した。
◎支払側・松本委員「新創品は一旦対象になっても加算で薬価が戻る」 新薬を含めて幅広い対象に
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、業界ヒアリングでの卸連の発言を踏まえて、「粛々と実勢価改定を実施することで、薬価差を速やかに国民負担に還元しても、安定供給自体に支障はない」との見方を示した。対象範囲については、「対象範囲を狭めるほど新薬が対象から外れ、平均乖離率2倍というあまりに極端なケースを別にすると、後発品は大きな変動がない」と指摘。「イノベーションの評価という観点で言えば、新薬創出等加算の対象品目は一旦改定の対象になったとしても、加算で薬価が戻ることを踏まえれば、新薬を含めて幅広く対象範囲とすべき」と主張した。
支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「国民負担の抑制や国民皆保険の持続可能性の観点から、平時のルールに基づき、例年通り行うべき。そのため対象範囲についても、21年度、23年度薬価改定の前例をもとに検討していくべき」と述べた。
◎診療側 薬価財源について医療提供体制に還元すべき
改定の実施に際し診療側委員からは、薬価財源について医療提供体制に還元する必要性を指摘する声が相次いだ。
診療側の長島委員は、「薬価改定だけでなく、物価高騰等による昨今の医療を取り巻く極めて厳しい状況の中、医療の質の維持向上のためには、時期に即した評価が必要。医療機関では、医療の質向上への対応として、医療DXの取り組み強化等とともに、働き方改革への万全な対応など、時代に即した努力が求められ、実行を続けている。4大臣合意において盛り込まれた国民負担軽減と、医療の質の向上という薬価制度抜本改革の本来の目的を意識した対応としていく必要がある」と述べた。
診療側の林正純委員(日本歯科医師会副会長)は、「薬価財源については、一部は安全・安心な医療提供に還元されるべきと長島委員がご発言いただいているが、その内容に賛同する」と述べた。
◎診療側・森委員 長期収載品選定療養で現場は苦労「配慮を」
診療側の森委員は、「仮に、やむを得ず中間年改定を実施するのであれば、イノベーションと安定供給の確保、そして薬局・医療機関に与える影響に十分配慮する必要がある」と強調。「特に、薬局は薬剤料の割合が大きいため、備蓄医薬品の資産額の目減り、売上の減少は、薬局経営に大きな損害を与える」と危機感を露わにした。「現場が賃上げ等に対応できる、そして医療の質、国民の医薬品アクセス低下とならないよう、薬局・医療機関を支える対応は不可欠」と述べた。
今年10月から実施される長期収載品の選定療養の導入について供給不安が生じているほか、「薬局における患者への説明が長時間に及ぶ事例が多数報告されるなど、薬局に大きな負担を生じさせている。現場ではこれらの影響に大変苦労しているところで、これらに関する配慮が必要だ」と強調した。