千葉大学VART最終報告 東大・小室教授ら「虚偽説明で調査混乱、長期化」 処分求める
公開日時 2014/07/16 03:52
千葉大学は7月15日、降圧薬・ディオバン(一般名:バルサルタン)の臨床研究問題で小室一成教授(現・東京大学医学部附属病院循環器内科教授)ら研究者が、VART Studyの統計解析、図表の作成を研究グループ自ら行っていたと「虚偽の説明をし続け、調査を混乱させ、長期化させた」とする最終報告をまとめた。千葉大学側が小室氏らに論文の取り下げを勧告したものの複数の研究者が同意していないことを明らかにした上で、東大病院に対し「しかるべき処分の検討を要請すべき」とした。同大のホームページ上で発表された。
◎PROBE法に違反 研究者がイベント評価
報告書によると、同委員会はデータの不一致などから、「信頼性に著しく欠け、科学的価値も乏しい」と結論付け、同大学長から論文著者に対し、論文の取り下げを5月23日に勧告した。ただ現時点で、プロトコル論文は8名中6名、メイン解析は7名中3名、サブ解析は8名中3名が取り下げ勧告に同意しない意思を表明している。プロトコル、メイン解析については責任著者も同意していない。これに対し、報告書では各著者に対し、あらためて3論文の取り下げの勧告を行う旨を報告書に示した。
その背景として、新たに実施された追加解析の結果など新たな問題が明らかになったとした。追加解析の結果では、副次評価項目データの脱落率が60~80%と異常に高く、結果としてディオバン群で有利な結果となる方向に偏りがみられたと指摘。「結論をある方向に偏らせた可能性を否定できない」と結論付けた。
さらにイベント評価委員会に属す医師が被験者3名、効果・安全性評価委員会に属す医師が被験者15名の担当医であることも発覚した。「委員会としての中立性が担保されていない」と指摘したほか、「被験者がいずれの群に割り付けられたかを知らない第三者がイベント評価を行うPROBE法に違反している」とした。
◎小室氏「白橋容疑者は大阪市立講師と認識」 議事録と食い違う証言
調査過程に行った事情聴取で、同研究の統計解析について、薬事法違反で逮捕された元ノバルティスファーマ社員の白橋伸雄容疑者の関与をめぐる証言が覆された点についても言及した。
小室氏ら3名の研究者は、当初「アドバイスをもらっただけで、研究者自身が解析を行っていた」と供述。解析を依頼した理由については、「データ解析の中立性が疑われる可能性があることから、大阪市立大学非常勤講師の白橋氏に依頼した」としていた。
ただ、今年4月に入り、論文の筆頭著者がこの証言を覆し、主論文の複合イベントの解析と副次評価項目の解析を白橋容疑者に依頼したと証言。「全面的に統計解析を行ってもらうとともに、その解析結果をそのまま論文に掲載した」と述べたという。同論文が博士号取得のための論文であったことや、自身で解析をできなかったことを認めた点、証言自体が同氏にとって不利益であることなどから、白橋容疑者の関与を極めて高いと結論付けられていた。
さらに事情聴取を行ったところ、小室氏の指示で筆頭著者が白橋容疑者にデータ送付、中間解析、本解析の依頼を行ったことがわかった。この点について小室氏も白橋容疑者を推薦したことを認めた上で、「中間解析、最終解析も第三者である白橋氏に任せることは了承していた」と証言を覆した。ただ、白橋容疑者の所属については、「ノバルティス社員ではなく、あくまで大阪市立大学の所属であると認識していた」と証言している。白橋容疑者自身が所属を明確にした上で挨拶したと証言していることに加え、ほかの研究者が研究の引き継ぎ時の議事録にノバルティスと明記されていたとしており、この点については食い違いがある。
報告書ではこれらのことから、白橋容疑者による「統計解析の過程において意図的な操作が行われた可能性が否定できない」と指摘。その上で、「本年4月に至るまで、統計解析及び図表の作成を研究グループ自らが行っていたものと虚偽の説明をし続け、調査を混乱させ長期化させたこと」に対する小室氏ら3名の研究者の責任は重いと明記。中でも筆頭著者を指導する立場にあった小室氏、千葉大の現教授の責任を問い、「これまでとってきた行為は厳に戒められるべき」とした。今後は、学内で処分の検討を求めるほか、小室氏については、東大病院に「本委員会の調査結果を伝達した上で、しかるべき処分の検討を要請すべき」としている。