【MixOnline】パンくずリスト
【MixOnline】記事詳細

乳がん薬トルカプ 高血糖・糖尿病ケトアシドーシスで注意喚起 非糖尿病患者で死亡例 投与初日からリスク

公開日時 2025/04/21 04:52
日本糖尿病学会は4月15日、乳がん治療薬であるAKT 阻害薬・カピバセルチブ(製品名:トルカプ、アストラゼネカ)について、高血糖・糖尿病ケトアシドーシスの発現について注意喚起するステートメントを発出した。国内の市販直後調査では、糖尿病患者ではなかったにもかかわらず、同剤の投与開始後に糖尿病ケトアシドーシス(DKA)を発症し、大量のインスリン(100単位/時間)投与によっても血糖マネジメントが不十分で死亡に至ったケースが報告された。「投与開始1日目から高血糖の発現リスクがある」ことも注意喚起している。

同剤は、世界初の経口AKT阻害薬。ATPと競合的にAKTに結合し、下流へのシグナル伝達を遮断することで、治療効果を発揮する。一方で、AKTを阻害することで、骨格筋や脂肪組織でのグルコースの取り込み、肝臓でのグリコーゲンの貯蔵が抑制され、血糖値の上昇を引き起こすとされている。このため、同剤の作用機序に由来して、副作用である高血糖や糖尿病ケトアシドーシスが引き起こされるリスクがあると考えられている。

実際、日本人を含む国際共同第3相臨床試験「CAPItello-291」では、有害事象として高血糖が16.9%報告されている。なお、同試験の除外基準により、1型糖尿病またはインスリンの投与を必要とする2型糖尿病の患者、HbA1c≧8.0%の患者は含まれていない。

国内の市販直後試験(2024年5月22日~11月21日)では、推定患者数約350人に投与され、高血糖関連事象が重篤例15例を含む33例報告、うち1例が糖尿病ケトアシドーシスで死亡した。死亡例は70代女性。投与期間は2日間だったものの、血糖値が105mg/dLから1129 mg/dLまで跳ね上がり、投与を中止。治療により、600 mg/dLまで血糖値が低下したものの、インスリンにも反応せず、死亡に至っている。

◎糖尿病学会 インスリン分泌低下例などの投与は「投与初日から糖尿病専門医と連携を」

臨床試験データによると、高血糖の発現した例の中央値は15日(1~367日)。この結果を踏まえ、適正使用ガイドでは、投与開始後1か月間は2週間ごと、その後も1か月ごとの空腹時血糖の測定、3カ月ごとのHbA1c測定を推奨しているが、日本糖尿病学会は「特に注意すべき点」として、「投与開始1日目から高血糖の発現の可能性があること」、「一部の症例でDKAを発症すること、また、国内市販後ではもともと非糖尿病者であったにもかかわらず、カピバセルチブ投与を開始後、DKAを発症し、大量のインスリン(100単位/時間)投与によっても血糖マネジメントが不十分で死亡に至った症例が報告されていること」をあげた。

そのうえで、「インスリン分泌が高度に低下した症例へのカピバセルチブ投与の際には、投与初日からのより綿密な血糖値等のモニタリング、食欲不振などの消化器症状を含めた問診および診察、並びに原疾患治療にあたる医師と糖尿病を専門とする医師(不在の場合は担当内科医)の適切な連携が重要」と指摘。「急激な血糖値上昇のリスクや大量のインスリン投与を要する可能性も想定し、診療にあたっていただきたい」と呼びかけた。

◎乳癌学会が「補足事項」として学会見解を表明 Grade2以上では各科と連絡を

一方で、日本乳癌学会も同日、「補足事項」として学会としての見解を表明した。糖尿病ケトアシドーシスを発現した症例が2例あったとして、「それぞれ再発病変に対する10 次治療、8 次治療」として投与されていると説明。「CAPItello-291 試験の適応基準(主に2 次治療から3 次治療での使⽤)に沿った治療を⾏っていただくよう注意喚起する」とした。

適応基準を守った場合でも、「⾼⾎糖やDKA が発⽣する可能性はあり、注意深い経過観察が必要であることには変わりはない」としながら、「その場合の検査スケジュールは推奨されているものでよい」とのスタンスを示した。「やむを得ずCAPItello-291 試験の適応基準外の投与となった場合には、検査や診察を含め厳重な経過観察が必要」としている。

また、「⾼⾎糖に関してGrade2 以上の有害事象が発⽣した場合は、関係各科と緊密に連絡をとりながら厳重な経過観察が必要」とも指摘した。

◎糖尿病学会 「関連諸団体と連携」情報収集、基礎的・臨床的研究等を推進

同剤は24年3月26日に「内分泌療法後に増悪したPIK3CA 、AKT1 又はPTEN 遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」の適応で承認。5月22日に発売された。日本糖尿病学会によると、転移性去勢抵抗性前立腺癌等、他の悪性腫瘍を対象とした臨床試験も進行しているとして、適応症の拡大、使用例の増加の可能性があるという。日本糖尿病学会は「関連諸団体と連携し、カピバセルチブ投与に関連した高血糖・DKA症例の情報収集、基礎的・臨床的研究等を推進していく予定」としている。

プリントCSS用

 

【MixOnline】コンテンツ注意書き
【MixOnline】関連ファイル
【MixOnline】記事評価

この記事はいかがでしたか?

読者レビュー(1)

1 2 3 4 5
悪い 良い
プリント用ロゴ
【MixOnline】誘導記事
【MixOnline】関連(推奨)記事
【MixOnline】関連(推奨)記事
ボタン追加
【MixOnline】記事ログ
バナー

広告

バナー(バーター枠)

広告

【MixOnline】アクセスランキングバナー
【MixOnline】ダウンロードランキングバナー
記事評価ランキングバナー