大鵬薬品・小林社長 アラリス買収で「低分子薬とADCの両方に強み持つ製薬企業に成長」
公開日時 2025/03/19 04:51

大鵬薬品の小林将之代表取締役社長は3月18日、次世代の抗体薬物複合体(ADC)の創薬技術基盤を持つバイオ企業・アラリス社(本社:スイス チューリッヒ)の買収に関するオンライン説明会で、「優れたADC創薬技術基盤と(3つの)パイプラインを一気に獲得できる。低分子薬とADCの両方に強みを持つ製薬企業に成長できる」と買収の意義を語った。アラリスの技術と大鵬薬品の創薬ターゲットを組み合わせてファーストインクラスのADCを創出することにも意欲をみせた。
大鵬薬品は17日に、アラリスを総額11.4億米ドルで買収すると発表した
(記事はこちら)。買収手続きは25年前半に完了する予定で、大鵬薬品はアラリス独自のADCリンカープラットフォーム「AraLinQ」と、前臨床段階の3つの開発品を獲得する。
小林社長は買収の戦略的意義として、▽革新的なADC創薬プラットフォーム技術の獲得、▽自社創薬力の強化、▽次世代ADCパイプラインの獲得――の3つを挙げた。そして、「ADC創薬において差別化の肝となる最先端のリンカー・コンジュゲーション技術(=AraLinQ)を獲得し、これを大鵬独自の創薬ターゲットと組み合わせることで、ファーストインクラスのADCを創出する」と述べた。また、「大鵬はこれまで低分子創薬に強みを持っていたが、今回の買収により、ADCの専門家、研究施設を一度に獲得することで、自社のバイオロジクス研究開発体制を強化する」とも買収意義を語った。
◎相良取締役 複数種のペイロードを同時搭載できる技術に「極めて競争優位性が高い」
大鵬薬品によると、ADCは米国で14製品承認されている。ただ、既存ADCの課題として▽不十分な均一性、▽物性悪化と血中安定性の低下、▽単一ペイロードしか導入できない、▽多段階製造――があるという。
これらの課題に対し大鵬薬品の相良武取締役(開発・MA部門管掌、研究部門担当)は、「アラリスの創薬技術は、これらの課題を解決し得る」と説明。アラリスのADC技術を用いることで、▽極めて高い均一性、▽良好な物性と血中安定性の向上、▽異なるMOAを有する複数ペイロードの導入、▽一段階製造――が実現できると言い、特に複数種のペイロード(=薬物)を同時に搭載可能なリンカー技術を持つことが「極めて競争優位性が高く、発展性を有する」と紹介した。
小林社長も、「ADCの領域では後発となるが、今回の買収を通じて優れた技術基盤とパイプラインを一気に獲得することで、ADCを大鵬薬品の新たな強みとすることができる」と述べた。
◎3つの開発品は「ベストインクラスADC」 世界初のマルチペイロードNectin-4 ADCも
相良取締役は、今回獲得する3つの開発品(ARC-02、ARC-401、ARC-201)について、「(いずれも)独自リンカー技術により大幅に性能向上させたベストインクラスADC」だとし、25~26年にIND(臨床試験開始申請)を予定していると説明した。
ARC-02はCD79bを標的としたADC(ペイロード:MMAE(Monomethyl auristatin E))で血液がんを対象疾患に開発する予定。ARC-02は25年中のINDを予定している。相良取締役は、「DLBCL(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)で承認されているポラスツズマブベドチンの毒性を軽減し、効果を最大化するようデザインされたもの」と紹介した。
ARC-401はネクチン-4を標的としたADCで、3つの異種ペイロード(MMAE/Exatecan/ Exatecan類縁体)を搭載する。相良取締役は「26年中に世界初のマルチペイロードNectin-4 ADCとして臨床試験を開始予定」と説明した。尿路上皮がんなどの固形がんを対象疾患に開発する予定。
ARC-201は、ペイロードにトポイソメラーゼ阻害薬を用いたNapi2bを標的とするADC。卵巣がんなどを対象疾患に開発する予定。26年下期のINDを目指す。
◎大塚HD・井上社長 アラリス買収は「次世代の成長を生み出す投資」
大塚ホールディングスの井上眞代表取締役社長兼CEOは、28年度を最終年度とする第4次中期経営計画を念頭に、「(アラリス買収は)次世代の成長を生み出す投資であり、独自の事業基盤である医療関連事業におけるがん領域の強化のひとつになる」とし、持続的成長を支える外部資産獲得の一環だと話した。第4次中計は「新規事業の拡大と次世代の成長を生み出す投資を促進-創造と成長の5年間-」と位置付けており、中計とも合致する買収だとしている。
大塚グループでは水平協業による新たな価値創造にも取り組んでいる。井上社長は、今回のアラリス買収と、18年に買収した独自AIを用いた抗体創薬基盤を持つ米ビステラ社とのシナジー創出に期待を示し、「ビステラのノウハウを共有することにより、新たな価値を創造することにも挑戦する」と述べた。