HIMSS ウルフCEOが会見 変革期の米医療業界 戦略的なAI活用と先を見据えたデジタル革新をリード
公開日時 2025/03/07 04:52

HIMSSのハル・ウルフ プレジデント兼CEOは3月4日、米国ネバダ州ラスベガスで開催中のHIMSS Global Health Conference and Exhibitionで記者会見に臨み、急速な技術革新と政策変動の渦中にある米国の医療業界の新たな機会と課題について言及した。ウルフCEOは、トランプ新政権による財政環境の変化が、医療経営におけるデジタルヘルスの重要性を高めていることなどを指摘した。一方で日本における医療ITの革新について、業務プロセスの変革とそれを遂行する強力なリーダーシップが不可欠との見解を示した。(米・ラスベガス発 森永知美)
◎意思決定層の学会参加者が増加、医療イノベーションの行方を見極める場として重要性増す
HIMSS 25(3月3日~6日)の参加者は約2万人を見込んでおり、年々増加傾向にあるとウルフCEOは強調した。特に、一般のマーケットサプライヤーではなく、医療業界の専門職や意思決定層の参加が増加しており、カンファレンスの質の向上につながっていると考察。多くの参加者が、どの分野に投資すべきか、どこで最も革新的な技術が生まれているか、業界のネットワーキングをどのように活用するか―などを探るために参加しており、変革期を迎えた米医療業界においてヘルスケア・エコシステムやAIの未来像について参加者の関心を高め、業界の方向性や真の価値を生むイノベーションを見極めようとしていると洞察した。
◎診療や業務の効率化でAI導入進む 戦略的活用とガバナンスが今後の焦点
AIの医療分野への導入状況についてウルフCEOは、既に多くの医療機関で診療プロセスの最適化や業務効率化で成果をあげており、現場の医療従事者をサポートするツールとして活用されているとした。臨床現場では、音声認識技術を用いた診療記録の自動入力や要約作成はもとより、診断支援や治療選択の補助として利用されているほか、患者のトリアージや診療予約の最適化、AIチャットボットやバーチャルアシスタントによる患者対応や症状チェックのサポート、医療アクセスの向上などで貢献していると説明した。
現在は補助的な役割が主流だが、将来的にはより高度な臨床判断のサポートが期待されるが、そのためには医療機関はデータの統合、標準化および相互運用性の確保と、業務プロセスの最適化を進め、AIを単にツールとして導入するのではなく、医療従事者のワークフローに統合することが重要であると論じた。同時にAIが提供する判断の責任所在、またAIが学習するデータの偏りによるバイアスの影響など、倫理的、法的な課題も考慮すべきであると付け加え、戦略的な活用とガバナンスの確立がカギとなることを示唆した。
◎トランプ新政権による財政削減を見据えたデジタル戦略が成否を分ける

トランプ新政権が与えるヘルスケア業界のインパクトについては、医療業界は不確実な財政環境に適応しなければならないと指摘した。米国の医療費の約50%は連邦政府(主に高齢者対象の公的医療保険制度メディケアと、低所得者対象の公的医療支援制度メディケイド)によって賄われているため、政府の医療政策変更が、医療機関の収益に直接的な影響を与えるとした上で、「現政権からの発言を聞く限り、今後メディケアやメディケイド、オバマケア関連のプログラムに影響が及ぶ可能性が高い」と推測、特に病院経営者は2026年以降の財政削減を見越した収益と運営計画が重要となり、そのためにはデジタルヘルスや新技術の導入がカギになると強調した。
◎日本の医療IT革新には「業務改革」と「リーダーシップ」が不可欠
日本の医療機関においてITイノベーションを進展させるためのカギは何か、との本誌の質問に対し同氏は、「日本におけるIT導入の遅れは技術的な問題ではなく、業務の変革に対する文化的な障壁である」と指摘した。日本では家庭内のイノベーション(ロボットやデバイスの利用)は進んでいるが、医療施設内のオペレーション変更が進まないことが、IT導入のボトルネックになっていると考察した。
そのうえでウルフCEOは、業務プロセスそのものを見直す必要があり、変革を促す最大の要素は「需要」と「危機感」であると述べた。超高齢化社会を迎えている日本は若年層が少ないため、医療提供を維持するにはデジタルヘルスの活用が不可避であるとした上で、変革には強いリーダーシップによるオペレーションでの改革が不可欠であると強調した。