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【World Topics】 米製薬業界 医薬品と医薬品原料へのトランプ関税の段階的な導入でロビー活動を展開

公開日時 2025/04/21 04:53
トランプ政権は4月14日、医薬品に対する国家安全保障調査を開始したと発表した。調査の目的は米国が国内製造業活性化促進のために医薬品に関税を課す必要があるという理由を明らかにするためである。関税率や時期はまだ不明ながら、米国では製薬業界がすでに段階的な関税導入に慎重なロビー活動を展開している。(医療ジャーナリスト 西村由美子)

関税が導入されれば、米国の製薬業界にとっての打撃は大きい。国連貿易データベースによると、2024年の米国の医薬品輸入額は約2130億ドルで、14年に比してほぼ3倍。株式調査会社の推計では米国が関税を導入すると製薬業界は460億ドルのコスト増に見舞われる可能性があるという。ちなみに主要製薬大手の現在の売上高はおよそ年間7000億ドルである。

製薬企業は関税導入に備えて米国への出荷と在庫の確保を開始していると伝えられており、当面2025年内の値上げは回避できる可能性が高いとみられている。しかし、最終的には、関税コストは患者や米国政府の医療費支出を支える納税者に転嫁されることになるだろう。

◎インドに関税導入 インド製のジェネリック医薬品は18%程度上昇との試算も

米国内の患者にとっての直近のリスクはジェネリック医薬品であるというのが有識者の共通見解である。ジェネリック医薬品の大半はインドと中国で生産されている。アナリストの試算ではインドに25%の関税が課された場合、インド製のジェネリック医薬品の価格は18%程度上昇する見込みだ。ジェネリック医薬品は利益率が低く、そのため製造企業がコストを吸収するのが難しいという事情がある。実際、ジェネリック医薬品は、米国の処方箋の90%を占めているにもかかわらず、医薬品支出のわずか17%を占めるに止まっている。

一方、特許薬(いわゆるブランド医薬品)の価格は、通常、製薬企業と商務省及び政府との協議によって市場が許容するレベルに設定されている。したがって製薬企業がこれらの薬価をいきなり大幅に引き上げられるとは考えにくく、その意味で、長期的には価格引き上げがあるとしても、当面のコストは製薬企業によって吸収され、価格引き上げには直結しない可能性が高い。しかし、ブランド薬も製造はアイルランドなど欧州連合諸国を含む海外拠点に依存している。

◎内外価格差を問題視するトランプ政権 消費量は13%も売上収益50%支払う米国

トランプ政権はかねて医薬品の内外価格差を問題視してきた。実際、価格差はきわめて大きい。2022年の米国の処方薬消費数量は世界全体の13%であったにもかかわらず、売上収益の50%は米国によって支払われていた(Igvia Institute for Human Data Science調べ)。またRAND研究所の2022年の調査によれば、米国の医療保険は推定値引き後でもブランド医薬品に対して海外諸国に比して3倍以上高い価格を支払っていた。ロイターは「メディケアは支払償還する高額医薬品リストのトップ10の価格は他の先進諸国の2倍から5倍高額」と報じている。トランプ政権の関税政策は、実は内外価格差縮小のための広範な取り組みの一環であると見る論評には説得力がある。

イーライリリー、ノバルティス、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどの製薬大手はすでに米国内での製造拠点拡大に取り組んでいると伝えられている。新規事業には時間も資金もかかり、製薬企業はこれら関係コストを転嫁する策を練ることになる。通常であれば、人員削減や研究開発費の削減につながる事態である。26年に向けた保険契約更改交渉を控え、夏には保険者・保険会社と製薬企業の協議・交渉が始まるが、医療市場への影響はもとより、一般消費者への影響もまだ全くの未知数である。
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