日本デジタルヘルス・アライアンス（JaDHA）は2月7日、「ヘルスケア事業者のための生成ＡＩ活用ガイド」を改訂し、第2.0版を公表した。第2.0版では、ヘルスケア領域における国内外の活用事例を大幅に拡充し、先進的な13事例を解説した。製薬企業の取り組みでは、小野薬品の「MaTCH：Mapping out Trend Changesシステム」と武田薬品の「資材作成業務の効率化」、「生成AIを活用したMR：医薬情報担当者教育」を事例紹介。さらに医療機関等が生成ＡＩを活用した製品・サービスを円滑に利活用するため、生成ＡＩサービスを利用する組織内職員が遵守すべき注意事項をまとめた「医療機関内生成AI活用ポリシーひな型（案）」を提案した。

「ヘルスケア事業者のための生成ＡＩ活用ガイド」は、2024年1月にヘルスケアサービスの提供事業者が、生成ＡＩで多様なサービスを創出し、利用者が安心してサービス選択できる環境の構築を目的として策定されたもの。今回の第2.0版は、近年の技術動向や政策動向を踏まえて内容を大幅に拡充した。

◎小野薬品　医学論文のトピック抽出分析ＡＩシステム「MaTCH」メディカル戦略に活用

生成ＡＩの活用については、小野薬品がアイエクセス社と共同開発した医学論文のトピック抽出分析ＡＩシステム「MaTCH（Mapping out Trend Changes）システム」の事例を紹介している。メディカルアフェアーズ活動に適合させたトピック抽出モデルのＡＩ自然言語処理アルゴリズムを搭載し、PubMedに収載されている3700万件を超える医学論文を学習させることで、重要トピックの抽出、重要度のランク付け、重要トピック間の関連性等を時系列で可視化できる。これにより、膨大な医学論文全体の重要トピックを俯瞰的に捉え、臨床上の課題の見落としを防ぐことが可能になったと強調した。また、「埋もれている可能性があるアンメットニーズを見つけ出すことも期待できる」とも指摘している。

さらに、生成AI機能を活用することで、トピックに関連する複数論文をまとめた日本語要旨を瞬時に生成するため、膨大な医学情報を効率的に把握できる。また、メディカル戦略の計画立案に利用することで、メディカルアフェアーズ担当者個人の知識や経験などに依存したプロジェクト間の隔たりを是正し、的確かつ迅速な戦略立案が可能になるとしている。

◎武田薬品　資材作成業務の効率化　ＭＲの継続学習に生成ＡＩを活用

武田薬品は、資材作成業務の効率化に生成ＡＩを活用している事例を紹介。資材作成者が資材（ドラフト）をアップロードし、生成ＡＩによるプリチェックを実施。その後にレビュー依頼を行い社内審査・承認を得るというもの。資材作成に当たっての社内審査・承認のプロセスには複数の段階があり、月間500 以上の資材を作成するため、資材の社内審査・承認作成完了までに多くの時間を要している。同社は、生成ＡＩを活用した資材の校正で、「業務効率を高め、社内審査・承認完了までの時間の迅速化を目指す」とした。

また、「生成ＡＩを活用したMR：医薬情報担当者教育」についても紹介した。従来、MRの教育は、社内審査・承認済（著作権の許諾要否の確認含む）の教育資材をベースに、教育担当者による教育や、MR個々の自主学習によって行われてきた。これに加え、生成ＡＩを活用したアウトプットトレーニング機能を提供することで、「MRがいつでも・どこでも・何度でも、継続的に学習に取り組めるような環境を整備していく」と指摘。ハルシネーションによりMRが間違った知識を習得しないための対策も実施しているとした。また、将来的なＭＲトレーニングにおいては、「利便性の向上と機会の増加」、「学習の選択肢の拡大」、「学習の実施状況と評価の可視化」、および「準備と運用プロセスの効率化」などのメリットが期待されるとした。

◎「医療機関内生成ＡＩ活用ポリシーひな型（案）」を提案

第2.0版では、「医療機関内生成ＡＩ活用ポリシーひな型（案）」を提案した。生成ＡＩが業務効率化や生産性向上に資する技術である一方、入力データの内容や生成物の利用方法によっては法令等違反や他者の権利侵害につながる可能性があることを指摘。ひな型では、院内で生成ＡＩツールを使用する職員が安全かつ安心に活用できる環境を整備することを目的として、生成ＡＩの特性や使用上の注意点をまとめた。生成ＡＩのユースケースでは、「退院サマリの作成」について例示している。