安定確保医薬品の供給「単一国」は8成分 代替供給源やサプライチェーンの複雑化に課題 厚労省検討会
公開日時 2025/01/27 07:30

厚生労働省は1月24日、「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」に安定確保医薬品カテゴリA21成分のうち、供給源が「単一国」となったのは8成分あったことを報告した。厚労省は前回調査を実施した2022年から大きな変化はないと結論付けた。一方で、供給停止などのリスク要因となる「代替供給源の不在」や「サプライチェーン管理の複雑化」に課題をあげる品目が7割に上ったことも報告した。現在、厚労省はダブルソース化を進める場合の補助事業や供給リスク管理のためのマニュアルの作成を進めており、こうした取組みを進めることで、リスク管理を行う方針を示した。
政府は経済安全保障推進法に基づき、2022年12月に抗菌性物資製剤(抗菌薬)を特定物資に指定。セファゾリンなどβラクタム系抗菌薬4成分については、医療上の必要性が高いにもかかわらず、原材料のほぼ100%を中国に依存しているといった状況を踏まえ、国産化の取組みが進められている。厚労省は、前回調査から2年を経て、再度サプライチェーンについてカテゴリA(21成分、102品目)について製造販売業者に対して調査を実施した。
◎原材料の供給経路 「単一国」8成分 「2国」5成分 「3国以上」8成分
その結果、原薬原材料の供給経路が「単一国」が8成分、「2国」が5成分、「3国以上」が8成分だった。特にリスクの高い供給経路が「単一国」のうち、「中国」から原材料の一部分も含めて輸入しているのは、国産化を進めるβラクタム系抗菌薬4成分を含む5成分あった。残る1成分は特定重要物資に指定されていないが、厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課は、「原材料の供給企業が特定国のみに存在するものではない。また、これまでに原材料の外部依存を原因とした供給途絶事案はなく、現在も供給に問題はない。βラクタム系抗菌薬とは異なり、特別な製造技術や他の医薬品との混入防止のため他製品と生産ラインを共有できない等の課題はない」と説明した。
このほか、単一国から供給されている成分は1成分が日本、1成分が台湾、1成分がフィンランドだった。製造時の品質トラブルにより一時的に供給が不安定化する事案はあったものの、供給を特定国に依存せず、これまでも原材料の外部依存を原因とした供給途絶事案はなかったとしている。
厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課は、「2022年の選定時から大きな変化はないが、引きつづき状況を注視し、変化の兆しが見られた場合には、直ちに対応を検討する」方針を示した。
◎「代替供給源の不在」や「サプライチェーン管理の複雑化」は7割の品目に
一方で、供給リスクに対応する観点から、リスク要因に対応する必要性も指摘した。調査結果では、出荷停止などのリスク要因となる、「代替供給源の不在」(74品目)や「サプライチェーン管理(サプライヤ管理、品質・製造管理、ロジスティクス管理)の複雑化」(67品目)に該当する品目が7割あることも示された。厚労省は、製薬企業が代替供給源の対策を行う場合の補助事業や供給リスク管理のためのマニュアルの作成を進めており、こうした対策を続ける方針を示した。
三村優美子構成員(青山学院大名誉教授)は、特定重要物資について地政学的リスクに加え、採算性などの課題があることを指摘。半導体や電子部品を引き合いに、「元々国内供給体制があったにもかかわらず、それが採算やコスト上昇、あるいは国際競争力の観点から海外に流出する、あるいは国内供給体制が脆弱することの問題があるのではないか」と述べ、政策立案に際してもこうした点に留意する必要性を指摘した。
松本哲哉構成員(国際医療福祉大学医学部感染症学講座主任教授)は特定重要物資に指定された4成分以外にも、医療上重要な品目が含まれていると指摘した。「例えば、カルバペネム系の中で、国内で9割を占めているメロペネムの国内製造は10%しかなく、残りは中国に依存している。抗MRSA薬の中で8割を占めるバンコマイシンも、原薬は中国とハンガリーで100%とかなり依存度が高い。いずれも国内での感染症の治療を考えますと重要なものだ」と述べ、今後の特定重要物資を指定する方針について質した。
厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課医薬品産業・ベンチャー等支援政策室の藤井大資室長は、医療上の重要性に理解を示したうえで優先順位を決めて取り組む重要性を強調。「現時点では国産化はβラクタム系4成分で行い、引き続き状況を注視する。国産化以外の取組みも重要だと考えており、供給源の複数ソース化やリスク管理マニュアルなど、できる取組みからしっかりやっていきたい」と述べた。