医薬品卸5社 BCPにこめた思いと”備え”
■ 株式会社メディパルホールディングス
災害に強い卸・物流へ 社員の“災害対応力”が重要
旧三星堂が経験した阪神・淡路大震災の教訓を今に
(左)メディスケット 医薬事業本部長
磦田 智 氏
(中央)メディセオ常務取締役ロジスティクス担当(メディスケット代表取締役社長)
若菜 純 氏
(右)メディセオ執行役員
ロジスティクス本部長
本山 和人 氏
若菜氏)当社グループと自然災害との関わりは、1995年の阪神・淡路大震災にはじまります。メディパルHDの前身である三星堂はこの震災で本社・支店の損壊やホストコンピューターのダウンなど大きな被害を受け事業再開まで多くの時間と困難が生じました。この時、「物流が卸の一番大事な機能」と再認識し、災害に強い卸・物流を目指してBCP対策に着手しました。そして東日本大震災や頻発する豪雨被害などの被災経験を教訓に対策を強化し続け、今日に至っています。現在、主要拠点の免震・耐震化、基幹システム等の二重化、物流等のバックアップ体制、緊急用電源や給油設備の設置などのハード面は充実してきていると自負していますが、災害とは切り離せない国だからこそあらゆるシナリオに対し万全の準備をしていきます。
磦田氏)能登半島地震の際、当社グループは地震発生直後に災害対策本部を設置するなど全般的にBCPに沿った対応ができました。棚免震装置(ミューソレーター)も功を奏し、金沢市、七尾市の支店では医薬品等の落下もほとんどありませんでした。必要物資の安定供給のため名古屋ALCからのバックアップも機能しました。ただ、実際に現地入りすると、例えば断水が続く中での生活用水対策やトイレ対策、陸路以外の代替輸送手段などの課題があり、今後改善に向けた取り組みを行っていきます。
本山氏)生活用水やトイレの問題に対しては、例えば近年稼働した阪神ALCでは雨水を溜める構造にしており、災害時に近隣住民が活用可能な非常用トイレに転用できます。津波被害が想定されるエリアでは建物の屋上を避難場所にし、地域に開放していきたいと考えています。また当社グループではソフト面の充実・強化も極めて重要と認識しており、災害時を想定した従業員の運用教育や訓練を通じた“災害対応能力”をさらに高めていきたいと考えています。
■ アルフレッサ ホールディングス株式会社
有事においても
安心・安全・誠実に医薬品等をお届けする
アルフレッサHD 取締役常務執行役員グループ医療卸事業統括部長
大橋 茂樹 氏
大橋氏)当社グループは全国に15の大規模物流センター、4つの都市型医薬品センターなどを保有し、免震機能等を備えつつ、最長72時間稼働可能な自家発電装置も設置しています。基幹システムは東西2カ所でバックアップ体制を整えています。物流センターには、緊急用医薬品を含め最大約4万5000アイテムの在庫を保管。被災したセンターがあれば、近隣のセンターが代替し、被災地へ商品供給を続けることができます。医療機関への配送は緊急時通行車両の登録など災害時に備えています。
これらを機能させるのは災害時でも医薬品等を安定供給するために策定されたBCPです。24年元日に発生した能登半島地震では、北陸を商圏とする明祥で発災から約50分後に幹部社員が本社に集まり被害状況を確認。2日朝に社長をはじめメンバーが集まり災害対策本部が発足しました。また、2日には石川県からの要請を受け奥能登の病院に緊急用医薬品を配送。3日には緊急配送コースを奥能登で4コース定め、医薬品を配送する体制を整えることができました。有事においても安心・安全・誠実に医薬品等を医療機関や患者様にお届けしたいというBCPの主旨に沿った対応が行えました。
当社グループでは24年度に「つくば物流センター」と「山口宇部センター」が稼働しました。現在建設中の四国エリアの物流センターが稼働すれば、グループのBCPは更に強固になります。
また、当社グループは災害時の医療提供活動の支援にも注力しています。例えば国内初の調剤設備等を搭載した「災害支援コンテナファーマシー」を開発し、救護所等に派遣・設置できる体制を整えました。加えて処方時を想定して、スマートフォンで患者様が服用されている医薬品情報を把握できるアプリを開発・提供しており、災害時でも適切な医療が提供されるよう貢献したいと考えています。
■ 株式会社スズケン
メーカー物流と卸物流を一体化
総合的な輸配送ネットワークで医薬品を安定供給
スズケン取締役専務執行役員
田中 博文 氏
田中氏)大規模災害時も医療機関に医薬品等を安定供給することは、生命関連製品を供給する医薬品卸の社会的使命であり重要な機能です。当社は東日本大震災での教訓などに基づきBCP手順書を策定しています。物流センターの免震・耐震化や基幹システムの二重化、有事の際の実効性を高めるための訓練など多岐にわたる備えをしていますが、一言でいうと、どこで災害が起こっても、医療機関に迅速に医薬品や必要物資を供給する体制を作り上げた、ということになります。
当社グループのBCP機能最大の強みは、メーカー物流も手掛けていることです。傘下の運輸会社、倉庫内管理会社、企画会社により、取引先製薬企業の製造所等から医薬品を集荷して当社グループのメーカー物流センターに運びます。そこから卸物流センターに運び、当社や全国の取引先卸・支店に運びます。当社グループでは、メーカー物流と卸物流が一体となった輸配送ネットワークにより、有事の際も継続的かつ安定的な商品供給が可能です。もちろん各物流センターはその時々で最新の防災機能を施しています。
メーカー物流は当社が業界の先駆けで20年目を迎えます。取引先製薬企業は現在50社です。当社グループのBCPに対する思いや機能を評価いただき、取引先製薬企業を増やしていきたいと考えています。
これまでのBCP対策や震災対応の経験から、能登半島地震では元日から社員が出社して情報収集に努め、名古屋本社などのバックアップ体制も機能し、交通網が寸断された奥能登に1月4日から当社グループ社員が2人1組で必要物資を運びました。社員の使命感は強く、迅速に対応できる誇れるDNA・マインドと仕組みが確立されていると自負しています。BCPはハードとソフト両面の充実が不可欠。より練度を高めていきます。
■ 東邦ホールディングス株式会社
首都直下型地震対策
製薬企業と有事の際の物流のあり方検討
(左)東邦HD 物流企画部長
坂本 武志 氏
(右)東邦HD 顧問
森久保 光男 氏
坂本氏)薬の流通には着実なBCPが求められ、自然災害などが起こった時でも滞りなく薬を届けなくてはなりません。当社グループでは様々な事態を想定してBCPを整備しています。東邦薬品とその医薬品卸事業子会社で形成する共創未来グループの最大の強みは、共通の基幹システムを使用していることです。全国10カ所の最先端物流センター「TBC」や営業所211カ所のシステムは、常時リンクし、必要な情報が一元管理できます。東京と大阪にあるホストコンピューターはミラーリングされ、バックアップ体制を構築しています。システム開発を内製化しており、不測の事態にすぐ対応できることも我々の強みです。
森久保氏)災害対策は、1995年の阪神淡路大震災の被災経験からその必要性を認識し、準備を進めてきました。基幹システムの共通化は11年の東日本大震災よりも前に完了していたこともあり、被災したTBCや営業所に代わり、近隣のTBCや営業所から被災地に商品や必要物資を供給できました。
坂本氏)能登半島地震でも兵庫県の「TBC阪神」から商品を補充し、川の水を浄水できる非常用浄水装置も初めて投入できました。一方で、元日の発災だったため、得意先の被害状況や必要物資の情報を即座に入手できませんでした。連絡手段の重層化は今後の課題の一つです。
森久保氏)当社では首都直下型地震対策にも注力しています。東京都指定の災害時広域輸送基地内に大規模高機能物流センター「TBCダイナベース」を設け、先日も自衛隊と共同訓練を行いました。ただ、地震の規模によりますが、ダイナベースにある在庫だけでは安定供給に支障をきたす可能性があります。災害時にもメーカー倉庫から卸倉庫への物流が断絶しないよう、製薬企業とのBCP体制構築にも取り組んでいます。
■ 株式会社バイタルケーエスケー・ホールディングス
3つの震災を地域密着型卸として経験
「地域インフラは止めない」との思い、誰よりも強く
(左)バイタルケーエスケーHD 執行役員 SCM担当
兼GDP統括部長(ケーエスケー取締役物流本部長)
平谷 洋 氏
(右)バイタルケーエスケーHD GDP統括部担当部長
(バイタルネット執行役員物流本部副本部長)
古井 直栄 氏
平谷氏)私たち地域密着型卸の社会的使命は「地域に尽くす」ということです。このような立ち位置の中、当社グループで近畿を商圏とするケーエスケーは阪神淡路大震災、東北を商圏とするバイタルネットは東日本大震災、北陸を商圏とするファイネスは能登半島地震――と、巨大地震をそれぞれ経験しました。医薬品卸は自然災害があった時、社員の安全を確保しつつ、いかに早く必要な医薬品を大切な方に届けるかという社会的使命を負っています。地域密着で仕事をしている私たちは、有事でも地域に必要な医薬品をしっかり届ける、地域のインフラは止めない、との思いは誰よりも強いと自負しています。
古井氏)東日本大震災を経験し、我々は流通人であり、医療人であるとの思いに至りました。震災当時、我々の目の前に医療機関の困っている姿がありました。医療人として必要物資を何とか供給し続けるという使命感は、私たちは一番強い。この被災地の“感覚”というものを製薬企業など多くの関係者につないでいく役割も担っていると思っています。
能登半島地震では、発災直後からファイネスの物流本部長と電話でやり取りし、グループの物流センターから必要物資を迅速に供給できました。平時の定期配送ルートを活用できたことが大きかった。またバイタルネットに配備しているカスタムした四輪駆動車をファイネスに貸与しました。1月3日のことです。この四駆は最大積載量が500kg。車高は高く、タイヤも頑丈で、瓦礫の上も走れることからとても重宝したと聞きました。
平谷氏)実はケーエスケーでもカスタム四駆を1台発注しました。また当社グループの商圏に山、川、湖が多く、将来の人口密集地上空の飛行も見据えて、ドローンを用いた医薬品配送の取組みも進めています。BCPに関しては、実効性を高めるため、社員の習熟度を高める取組みや訓練をより強化していきます。