25年度薬価改定 最低薬価は3%引き上げ 不採算品再算定の対象に解熱鎮痛薬や止血剤も追加
公開日時 2025/01/16 04:52
中医協総会は1月15日、2025年度薬価改定について薬価算定基準の見直しを了承した。賃上げや消費者物価指数を勘案し、最低薬価を3%引き上げる。薬価が最低薬価を下回る、いわゆる“みなし最低薬価”の品目についても、乖離率などの要件を満たせば、最低薬価まで引き上げる。最低薬価の引上げは、消費増税を除けば、本格的な実施は初めて。厚労省はこの日、インフルエンザの感染状況拡大などを踏まえ、不採算品再算定の対象品目として、新たに解熱鎮痛薬や止血剤を追加することも提案し、中医協で了承された。25年度薬価改定の骨子として厚労省が中医協に提案した対象範囲より拡大する。総会に先立って行われた薬価専門部会で、支払側の松本真 人委員(健康保険組合連合会理事)は、「今後、告示前の期間に事務局のご判断でさらなる追加がないようにご留意いただきたい」とクギを刺した。
◎最低薬価 錠剤は6.10円、局方品では10.40円に 賃上げや消費者物価指数を勘案
最低薬価の引上げは3%引き上げで決着した。日本薬局方収載品では錠剤やカプセル剤を10.10円→10.40円、注射剤(100mL未満1管又は1瓶)を97円→100円などに引き上げる。局方品以外では、錠剤などを5.90円→6.10円などに引き上げる。みなし最低薬価の品目も引上げを行う。同じ組成・剤形区分の品目全体の平均乖離率が全体の平均乖離率以内の場合は最低薬価まで引上げを行う。ただし、薬価の急激な引上げの影響を緩和するため、上限は改定前の薬価の2倍とした。
引き上げ幅を3%とした理由について、厚労省保険局医療課の清原宏眞薬剤管理官は、「過去5年の賃上げ率の平均と、消費者物価指数の昨年平均等を総合的に勘案した」と説明した。
◎支払側・松本委員「薬価差益の調整弁とならないように」 清原薬剤管理官「実勢価を注視」
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「今後インフレが続いた場合に同様の見直しが自動的に行えるものではないということ、また原則この仕組みが薬価の下限値ということで薬価差益の調整弁にならないよう、くれぐれもお願いをしたい」と強調した。支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「今般の引き上げが価格に適切に反映されているかについては今後確認していくべき」と指摘した。
これに対し、厚労省の清原薬剤管理官は、「自動的にとは考えていない。その都度、必要があればこの場でご議論していただければと考えている。特に薬価差益の調整弁、あるいは実勢価格が今後どうなるのか注視したいというご意見もあったので、それについては注視し、その結果については、この場でご報告をさせていただければ」と応じた。
◎清原薬剤管理官「インフルエンザの急激な拡大踏まえた薬価の下支えが必要」
不採算品再算定の適用対象をめぐっては、厚労省は25年度薬価改定の骨子において、基礎的医薬品、安定確保医薬品(カテゴリA・B)、感染症対症療法薬等の安定供給に向けて行われた大臣要請についての品目を基本とすることを12月末の中医協に提案し、大筋で了承されていた。この日の中医協に厚労省保険局医療課は、大臣要請品目が鎮咳・去痰薬に対してのみ行われたことを踏まえ、感染症対症療法薬のうち、対象外となっていた解熱鎮痛薬(成分:アセトアミノフェン、イブプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム)、止血剤(トラネキサム酸)を追加することを提案した。
清原薬剤管理官は、「インフルエンザの流行が過去に例がないほどに前倒しで急激に伸びている」と説明。「不採算品として引き上げの要望が出ていること、インフルエンザの急激な拡大等を踏まえると、それ以外の感染症対症療法薬と同様に、不採算の状況を改善するための下支えが必要であり、今回の不採算品の対象と考えている」と述べた。
◎支払側・松本委員「今後告示前の期間に事務局判断でさらなる追加がないように」とクギ
支払側の松本委員は、「これまでの議論を振り返ると、基礎的医薬品のカテゴリA、Bと大臣要請品目のみが対象になるものと考えていたが、今回こうした形で追加になることはいささか唐突感を感じる」と述べた。そのうえで、「インフルエンザの過去に例を見ないほど大幅に流行する中で、必要な医薬品を製造するほどメーカーの赤字が膨らむ状態にあり、下支えが必要だということで理解はする。ただ、今後告示前の期間に事務局のご判断でさらなる追加がないようにご留意いただきたい」とクギを刺した。
清原薬剤管理官は、「対象範囲が少し広がることになったが、現時点での判断ということになっておりますのでご理解いただきありがとうございます。今後の追加については基本的にはないことを考えているので、ご安心いただければと思っている」と述べた。
◎石牟禮専門委員「不採算でも通常流通を継続する品目などの下支えに」
業界代表の石牟禮武志専門委員(塩野義製薬渉外部専任部長)は、「特にみなし最低薬価に対する措置ですとか、不採算品再算定の対象についてご検討いただきましたこと、これは不採算でも、通常流通も継続している品目や増産に努めている低薬価品の供給の下支えとなるものと認識している。引き続き業界としては、医薬品の供給不安の解消に向けて努めてまいりたい」と述べた。
◎抗インフルエンザ薬 2400万人強の供給を計画 過剰な発注抑制や代替薬検討を
このほか、抗インフルエンザ薬の供給不安にも議論が及んだ。森昌平委員(日本薬剤師会副会長)が「季節性のインフルエンザの急激な感染拡大により、安定供給に大きな支障を来した時には、国備蓄品の開放を検討すべき」との考えを表明。「医療現場はもちろん国民が困っていますので、厚生労働省全体として関係部署や関係者との連携を図り、必要な対応を講じていただくようお願いする」と述べた。
厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の水谷忠由課長は、抗インフルエンザ薬の供給計画は昨年度を上回る2400万人強で、メーカーや卸に1000万人超の在庫が確保されていると説明。沢井製薬がオセルタミビルカプセルとドライシロップの出荷停止をしたことがきっかけとなり、「注文が殺到した場合に在庫の偏在等を来してはならないということで、限定出荷をかけているところが今出てきているという状況」と説明した。そのうえで、「医療現場には大変なご迷惑をおかけしているが、私どもとして医療機関、薬局から過剰な発注をぜひ抑制していただくことで、うまく全体を回していきたいということで、ご協力のお願いをさせていただいている。こうした取り組みの中で、代替薬の使用も含めて検討いただくことで対応できるのではないかと思っているので、引き続きご協力をいただきたい」と述べた。