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医薬品卸 災害時も医薬品の流通を止めない  (1/2)

自然災害と卸機能

公開日時 2025/01/17 00:00
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「社会的使命を果たす」 機能と対応力をより強化

医薬品卸各社は巨大地震などの自然災害が発生した際、被災地に迅速に医薬品などの必要物資を供給するため、平時から多面的な対策を練り有事に備えている。1年前の2024年元日に発生した能登半島地震では国や自治体などと連携して医薬品の緊急配送を実施。事前の備えもあって、1月4日までにほぼ流通体制も整えた。安定供給のためのバックアップ体制も機能した。ただ、半島という地形的制約から配送手段の再考が求められるなど新たな課題も確認された。医薬品卸各社は様々な災害対応を教訓にBCP(事業継続計画)の改善を重ね、有事でも必要物資を届ける社会的使命を果たすため、機能強化と訓練を続けている。(神尾 裕)

日本では大地震や地球温暖化による豪雨被害が相次いでいる。この30年間に震度7を観測した巨大地震は1995年1月の阪神・淡路大震災、2004年10月の新潟県中越地震、11年3月の東日本大震災、16年4月の熊本地震の前震と本震、18年9月の北海道胆振東部地震、そして能登半島地震の計7回。豪雨被害はほぼ毎年起こり、24年9月には地震からの復旧の途上にあった能登半島で広範囲の浸水被害があった。

気象庁気象研究所は、地球温暖化による線状降水帯の頻度及び強度が増していることによる「極端降水」、これに猛暑や大雪を加えた「極端気象」に対する防災の重要性を呼びかけており、自然災害が減るとの見立ては残念ながら見当たらない。

厚労省や各自治体は医療機関に対し、自然災害などの有事に備えて医薬品などの必要物資(以下、医薬品等)を3日間程度、地域によっては1週間程度備蓄するよう求めている。しかし、医療機関も被災した場合、医薬品等が棚から落下して使用できなくなったり、不足する医薬品等を確認するだけでも多くの時間・日数がかかる。医薬品を含む多くの支援物資が避難所や救護所に運ばれても仕分けに時間を要し、支援物資の箱が山積みとなるシーンは今も続いている。

阪神淡路大震災以降、災害対策に長く携わっている広域卸の担当者は、「巨大地震などの広域災害の場合、医療機関の備蓄も重要だが、被災エリアの場合は備蓄品がそもそも使えない、または備蓄している薬をわかる人がいない、足りないということは少なくない」とし、「われわれ医薬品卸がいち早く医薬品などの必要物資を把握し、自治体や自衛隊などとも連携して必要な場所に必要な物資を迅速に届けることが重要になる。これは今も変わらない」と現状を話してくれた。

BCPは、自然災害やテロなどの緊急事態に遭遇した場合に、中核事業の継続あるいは早期復旧を可能とするため、平常時に行うべき活動や緊急時の事業継続のための方法や手段などを決めておく計画のこと。内閣府が東日本大震災を機にガイドラインをまとめ、国内の企業・組織はBCPを策定している。

物流センターの免震・耐震化
物流バックアップ体制などハードの整備進む
では、医薬品卸各社の自然災害を見据えた備えはどのような状況にあるのか。ミクスは今回、メディパルホールディングス(HD)、アルフレッサHD、スズケン、東邦HD、バイタルケーエスケーHDの医薬品卸5社にBCPにこめた思いや対策のポイントを聞くとともに、能登半島地震の対応の振り返りをしてもらった。災害対策の必要性を感じたのは30年前の阪神淡路大震災がきっかけだった。この地震で“物流こそ卸の大事な機能”と再認識したとの声も聞かれた。その後、災害に強い物流・流通を目指してBCP対策に着手。頻発する大規模災害から教訓を得てBCPを改善し続け、現在に至っている。

5社にBCPにこめた思いを聞いた。一様に、「災害時も物流を止めない」、「有事であっても医薬品を届ける社会的使命を果たす」が基本的な考えだとした。社員の安全を確保しつつ、求められる医薬品等を迅速かつ継続して供給する体制を整備すると決意を述べた。

各社が公開している対策は、▽物流センターなど主要拠点の免震化・耐震化、▽物流網の多重化(拠点間の代替輸送ルート、バックアップ体制の確立)、▽基幹システム(ホストコンピュータやデータセンター)の二重化、▽停電に備えた自家発電装置の設置、▽自家給油設備の設置、▽緊急時の配送手段、▽有事に迅速に活動できるよう自治体や自衛隊との協定締結及び地域医療との連携強化――などがある。取組み内容に若干の違いはあるが、全社でほぼ実施していた(5社の自然災害等主な備えはこちら)。

これらの対策を詳細にみると、物流センターなどの免震化・耐震化は全社で実施し、その時々で最新の装置や構造を採用していた。能登半島地震では、七尾市の拠点の保管棚の下に制振装置(ミューソレーター)を採用していたため、医薬品などの商品の落下をほぼ防止できたとのベストプラクティスを得られた企業もあった。

物流網の多重化も全社で対応済みだ。各社とも、被災エリアの医薬品の安定供給を維持できるよう、物流の支援体制・相互補完体制を確立。必要となる医薬品等は被災エリア以外の物流センターや支店から供給するバックアップ体制を敷いている。グループ内で販売・物流に係る基幹システムを統一し、在庫状況などを一元管理できる仕組みを構築していることも大きい。

メディパルHDは全国13カ所の物流センター「ALC」を中心に連携体制を構築し、1つのセンターから供給できなくても他のセンターがバックアップする体制を整えた。アルフレッサHDは全国15カ所の物流センターと4カ所の医薬品センターを効果的に配置し、被災エリアの支援・バックアップ体制を整備した。東邦HDは、東邦薬品とその医薬品卸事業子会社で構成する「共創未来グループ」の基幹システムを完全に共通化し、全国10カ所の物流センター「TBC」や営業所211カ所を常時リンク。必要な情報を一元管理し有事に対応する。

スズケンはメーカー物流と卸物流が一体となった物流ネットワークを構築。メーカー物流は現在、製薬企業50社から受託している。スズケンのグループ企業が持つ総合的な輸配送ネットワークにより、有事の際も安定的な製品供給が可能だとしている。東北を商圏とするバイタルネットは東日本大震災での被災経験を踏まえ、現在も在庫拠点を地域の実情に応じてきめ細かく配置。この「毛細血管型物流網」で有事に対応する。近畿を商圏とするケーエスケーは3つの物流センターでバックアップする体制を敷いている。
BCPの実効性高める
社員の運用教育や訓練に重点
能登半島地震では、各社ともバックアップ体制が機能し、北陸の拠点まで物資を安定供給できた。元日の発災ではあったが発災直後や翌日までに対策本部が立ち上がり、電話やWeb会議システムを用いて被災エリアの責任者・担当者から被災状況や必要物資を情報収集し、対策本部や本部責任者が即断即決して対応にあたった。この即断即決や迅速対応は被災エリアの社員から「安心できた」との声につながったという。

これは、有事に備えて構築した物流網などのハードを生かすのは、結局は人だということを表している。今回の取材を通じて多くの災害対策の担当者から、ハード面は充実してきており、今後はBCPの実効性を高めるための社員の運用教育や訓練をより充実・強化していくとの考えを聞くことができた。
特注の四輪駆動車 
能登半島地震や豪雨災害で実績積む
このほか東日本大震災での大規模停電の教訓を踏まえ、全社で物流センターに自家発電装置を設置済み。最近の物流センターは自動化が進み電力消費も大きいが、各社とも大型装置を導入し72時間連続稼働可能だとしている。物流センター以外の拠点に小型発電機を用意した企業も多く、全建屋に保冷車両を配置している企業もあった。

大規模災害時はガソリンスタンドに長蛇の列ができ、1回の給油量も限定されるため、自家給油設備を導入している企業も複数確認できた。導入企業では配送車両用の燃料を約7日分備蓄していた。

巨大地震や津波被害によって交通網が寸断された教訓から、緊急配送用バイクやヘリポートを設置している企業が複数あった。バイクについては50台、100台と配置している企業がある一方、運転できる社員が少ない上、悪路にバイクを用いると社員のケガのリスクが高まるとしてバイクの配置を再検討する企業もあった。最近のトレンドとして、特注の四輪駆動の災害対策車両を配置する企業が増えていることも確認できた。

この災害対策車両を業界で初めて導入したのはバイタルネットとみられる。同社は現在2台配備中(下に写真とスペック)。地震や河川氾濫、ゲリラ豪雨による冠水といった災害時でも多くの物資を運搬可能で、23年の秋田豪雨災害、能登半島地震、24年7月の山形豪雨災害で活躍した。このうち能登半島地震で同社は、グループ会社で北陸を商圏とするファイネス(本社:石川県金沢市)に車両を貸与。道路の陥没や土砂崩れなどの箇所が多く、悪路を移動するには最適な車両で大いに助かったとの声が寄せられたという。



バイタルネット、ファイネスと同じグループのケーエスケーの担当者は、能登半島地震などでの運用実績や南海トラフ地震などへの備えのため、1台準備中だと明かしてくれた。メディパルHDグループで高知・香川県を商圏とする中澤氏家薬業も同様の理由で今年2台導入。アルフレッサHDは能登半島地震での運用実績を踏まえ、災害対策車両を配備したと説明した。南海トラフ地震の発生確率は今後30年以内に70%、豪雨災害も毎年あることから、災害対策車両は今後、医薬品卸に急速に広がっていく可能性がありそうだ。
実効性ある災害対応をより強化
各社に聞くと、能登半島地震では概ねBCPに沿った対応ができたものの、対応が困難だったことや想定外だったこともあった。例えば半島という地形的制約から配送手段の課題が浮き彫りになったほか、生活用水のニーズが高かったとの声が多かった。被災者には、ペットボトルの飲料水をトイレなどに使うことに抵抗感があったようだ。そこで消費期限の迫っているペットボトルの水を用意したり、被災エリアの社員宅に1000リットルのローリータンクを設置し、定期的な水供給も行い、近隣住民に活用してもらう対応を行ったという。

また、元日の発災だったため、得意先から被災状況や必要物資を聞き取ることに時間を要したとの振り返りも聞かれた。今後、いつ、いかなる時でも可能な限り迅速に情報収集できるよう「連絡手段の重層化」に取り組み、対応力を強化すると話してくれた。

自然災害が多い国のため、あらゆるシナリオを想定し、また有事の対応経験も踏まえて、機能強化と訓練を続ける医薬品卸。いつ発生するかわからない災害のために備えを続ける背景には、「有事でも必要となる医薬品などを迅速に供給する社会的使命を果たす」との決意がある。社会インフラを支えるエッセンシャルワーカーの一員として、実効性のある災害対応をより強化していく考えだ。





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