日医・松本会長 財政審のOTC類似薬の保険給付見直し「容認する余地は微塵もない」 中間年改定は対象絞るべき
公開日時 2024/11/21 04:52
日本医師会の松本吉郎会長は11月20日の定例会見で、財務省が財政制度等審議会財政制度分科会で、OTC類似薬の保険給付見直しを主張したことについて、「国民皆保険制度の理念を形骸化させるものであり、容認する余地など微塵もない」と語気を強めた。セルフメディケーションの推進についても、「医療費適正化の目的のみで、過度に進めることには断固反対」と強調。「薬を選択することにはリスクも伴う。国においては、国民の安心・安全を第一に考えて、セルフメディケーションを進めてほしい」と述べた。25年度薬価改定については、「仮に中間年改定をするのであれば、対象品目はできる限り絞るべき。仮に行う場合でも、生じた薬価差については、技術料に還元すべき」との考えを示した。
◎セルフメディケーション「問題あることは事実」 薬の選択は「リスク伴う」
財務省は11月13日の財政制度等審議会財政制度分科会で、自助の観点からセルフケア・セルフメディケーションを推進する必要性を強調。国民の利便性の観点からも、「医薬品のスイッチOTC化を進め、薬局で自ら購入できる医薬品の選択肢を増やしていく必要がある」と主張した。OTC類似薬の自己負担のあり方についても言及。「保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大」について検討を行う必要性を指摘している。
日医の松本会長は、「セルフメディケーションにおいては、OTC医薬品の適切な選択、助言・相談体制が必要だ。その中で、薬剤師の的確な受診勧奨に基づく情報共有とともに、医療機関との連携がその根幹だ」との考えを表明した。
そのうえで、「災害時や医療機関にアクセスできない場合のセルフメディケーションを否定するものではないが、問題点もあることは事実」と指摘。「例えば日本人のヘルスリテラシーが諸外国と比較すると非常に低いことが指摘されていること、またOTC医薬品による急性中毒や、薬物依存が増加しているなど適正使用されていないこと、またOTC医薬品購入時に専門家が常駐しておらず、適切な情報提供がされていない事例があることなどが挙げられる」と課題を列挙した。「症状の誤認識、副作用の見逃し、および受診機会の遅延など、患者自身が適切な薬を選択できるか。薬を選択することにはリスクも伴う。国においては、国民の安心・安全を第一に考えて、セルフメディケーションを進めていってほしい」と要望した。
◎OTC類似薬の保険給付見直し「国民皆保険制度の理念を形骸化」
また、OTC類似薬における保険給付のあり方の見直しについても言及。「適切な医療は保険給付の範囲で見るべき。財政審の主張は、必要かつ適切な医療は基本的に保険診療に確保するという国民皆保険制度の理念を形骸化させるものであり、容認する余地など微塵もない」と断じた。
◎25年度薬価改定「仮に行う場合、生じた薬価差は技術料に還元すべき」
25年度薬価改定については質問に答える形で、「中間年改定については、政府においては野党との協議の中にも問題が入っているが、これからも議論が進められていく」との見通しを表明。そのうえで、「日本医師会としては仮に、中間年改定をするのであれば、対象品目はできる限り絞るべきだと主張してきた。仮に行う場合でも生じた薬価差については、技術料に還元すべきだと申し上げてきた。その姿勢に変わりはない」と述べるにとどめた。
◎AMED「早急に結果を求め、むやみな削減しないよう留意を」 創薬力強化の予算措置で
創薬力強化の必要性が指摘される中で、財政審ではAMEDの研究開発についても、25年4月からスタートする第3期健康・医療戦略においてAMED調整費の柔軟な活用などで、各省補助事業の間で連携し、切れ目のない支援を行う必要性などが指摘されている。松本会長は、財政審に対する意見の4項目として、AMEDについても言及。「基礎的な研究は長いスパンで考慮する必要があることから、性急に成果を求め、むやみな削減をしないよう留意をしていただきたい」と要望した。
◎医師偏在対策 都市部の医療機関単価引き下げ案は「典型的な机上の空論」
財務省が診療所の偏在是正のために、地域別単価の導入を提案したことについては、「国民の命と健康を守る立場である日本医師会としては容認できないということを改めて強調させていただく」と述べた。
医師の分布は、各地域の人口に応じているとしたうえで、「診療所の過不足の状況に応じて診療報酬を調整する仕組みは、我が国の人口分布の偏りに起因するものを、診療所に責任負わせ、医療で調整させるような極めて問題の多い提案だと思っている」と強調。「財政審の提言は医療現場の感覚からは、著しく、乖離をしており、都市部の医療機関単価を下げるというのは典型的な机上の空論だ」と断じた。
また、財務省がある地域の特定の診療科についての医療サービスが過剰である“特定過剰サービス”に対して診療報酬上の減算措置を導入することを提案したことに対し、「特定過剰サービスという発想自体がそもそも容認できない」とも述べた。
医師の偏在対策については、厚労省の検討会などで年末までに総合対策パッケージの策定に向けた議論が進められている。松本会長は、「24年度の補正予算、25年度の予算、さらには厚労省社保審医療部会での議論を踏まえ、26年度予算によって、できるとことから対応していくことが重要」との考えを示した。
松本会長は、「緊縮財政を目指す財務省は様々な主張を展開しているが、現場の実態を度外視したものが数多く見受けられる。まさに受け入れがたいものばかりだ」と指摘。「財政健全化のために国民の生命と健康を犠牲にするようなことは決してあってはならない。引き続き、日本医師会は攻めるところは攻め、守るところは守るといった攻防一体で対応を続け、国民皆保険制度を堅持して参りたい」と述べた。