日医・松本会長 社会保障費の「シーリング撤廃すべき」 高額療養費の見直しに至った「一番の問題」
公開日時 2025/03/06 06:00

日本医師会の松本吉郎会長は3月5日の定例会見で、高額療養費制度の自己負担上限額の見直しは財務省が主張する”社会保障関係費のシーリング”の考え方に起因しているとして、「シーリングの撤廃」を主張した。今夏に策定が予定される骨太方針に向けて、「高齢化の伸びの範囲内に抑制する社会保障予算の目安対応の廃止」を重点的に訴える考えも示した。一方で与野党の政党間協議をめぐり日本維新の会が医療費4兆円削減を掲げるなど、政治主導の財政圧力が強まっている。松本会長は、医療機関の経営がひっ迫している状況を改めて説明し、「単純な医療費抑制では医療提供体制が崩壊する。国民の命と健康をどう思っているのか。強く訴えていきたい。非常に憤りを感じている」と語気を強めた。
◎国民の生命や健康守るためにも「財政フレーム見直しを」
高額療養費について松本会長は、「制度を見直さずに済むならそれに越したことはない」と強調。そのうえで、「高額療養費制度の自己負担上限額の見直しが迫られているのは物価と賃金が上昇する中で、財務省が主張している社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲内に抑制するというシーリングの考え方に起因しており、これが一番の問題点であってこのシーリングを撤廃すべき」と主張した。
「高額療養費の見直しなどにより患者さんたちに過度な負担を負うことがないようにするためにも、さらには国民の生命や健康を守るためにも社会保障予算に関する財政フレームの見直しを行い、社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲内に抑制するという取り扱いを改めて強く求めてまいりたい」とも強調した。
◎「国民的な議論必要」 医療にアクセスできない人がいないよう丁寧な議論を
高額療養費制度の議論について松本会長は、「日本医師会は一貫して患者さんに過度な負担を負うことがないよう丁寧な制度設計を常に求めてきた」と説明。社会保障審議会医療保険部会でも、「高額療養費制度は医療におけるセーフティネットであり、患者負担が過度にならない、全ての人が適切な医療を受けられるよう十分な議論が必要と患者自己負担の軽減を主張し続けてきた」と振り返った。
政府が患者の声を踏まえて制度を一部修正したことについては、「一定の理解を示したい」としたうえで、「患者さん本人は“生活や人生に直結するため自己負担は増えてほしくない”と考える。ところが一般国民は、“保険料を下げてほしい、できるたけ安い方が良い、増額してもらっては困る”と普通は考える」と指摘。「社会保障は個人単位で考えるのではなく、病気になった方を社会全体で支えるための制度だ。その時にどこから医療費削減をどのように持ってくるかという話であり、国民全員での十分な議論が必要だ」との見解を示した。今後の議論に際し、「日本医師会としても医療にアクセスできない人がいないよう、丁寧な議論が必要だ。医療現場や患者さんたちの声をしっかりと政府に届けてまいりたい」と話した。
◎OTC類似薬の保険給付のあり方 「患者負担増につながる。慎重の上にも慎重に議論を」
OTC類似薬の保険給付のあり方についても言及。24年10月に長期収載品に選定療養が導入され、患者の「自己負担が増えたばかり」と指摘。「薬剤の自己負担に関する見直しは今回の高額療養費のように患者さんの負担増につながることから、慎重の上にも慎重に議論を行うことが大切」との見解を示した。
なお、東京都医師会は同日、「役員一同の総意をもって、今回の「高額療養費制度」の自己負担上限額引き上げなどの見直し案に反対し、凍結を求める」とする緊急声明を公表。「セルフメディケーションによるOTC医薬の活用など、直接患者さんの命にかかわらない政策から実行に移す」ことなどを提案している。
◎26年度改定「賃金・物価上昇に応じた新たな仕組み導入を」 改定前に「期中改定も視野」
日本医師会の松本会長はこの日の会見で、医療機関経営がひっ迫している状況を改めて歌えた。補助金での迅速な対応に加え、「26年度診療報酬改定の前に、場合によっては期中改定も視野に入れて対応していく必要があると考えている」と改めて訴えた。
「現在の医療機関の経営状況ではこれ以上の賃上げは到底、不可能だ。このままであれば人手不足に拍車がかかり、患者さんに適切な医療提供できなくなってしまう」と訴えた。26年度改定に向けては、「賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入」の必要性を指摘した。
松本会長は、「賃金と物価を別枠にして考える必要がある。例えば春闘の結果や他産業の賃金の伸びや物価指数を勘案し、診療報酬の中でいかに方程式として当てはめられるか、考えていただきたい」と主張した。