日本製薬工業協会（製薬協）は５月７日に開かれた自民党の医療情報政策・ゲノム医療推進特命委員会で、健康医療データの利活用促進に向け、「個人情報保護法の医療分野の特別法の制定」を要望した。欧州で成立間近の「European Health Data Space（EHDS）」では、原則同意は不要で、匿名化・仮名化した医療データの一次・二次利用が可能となるよう環境整備が進む。製薬協は、創薬や医学研究が国際連携で成り立つ中で、日本が立ち遅れることに対して強く危機感を表明。国として、データ基盤構築に加え、法制度の整備に早急に着手する必要性を強調した。特命委では、骨太方針に向けて提言を取りまとめる方針で、検討を進める。

◎改正次世代医療基盤法施行も　ゲノム情報や画像データなど一部データは活用できず　データ量も不足

改正次世代医療基盤法が４月に施行されたが、製薬協は「なお残る課題」を指摘した。データを提供する医療機関や自治体が120にとどまり、提供施設も国立病院機構や大学病院に偏るなど、データ量が不足していると指摘。転院後の医療情報が得られないことが多く、ライフコースデータが得られないなどの課題がある。

ゲノム情報やCT画像など一部の画像データは個人識別符号に該当することから、活用できない。また、二次利用に焦点が当てられており、患者や医療機関が診断・治療に活用する一次利用については明確にされておらず、医療機関にとってはインセンティブもないため、データを提供するメリットが少ないことが指摘されている。

一方、欧州で成立間近のEHDSは、ヘルスデータ基盤構築と利活用に関する総合的な構想・法案。約５億人のＥＵ市民の電子カルテやゲノム、アプリなどの健康医療データを国境をまたいで連携。診断と治療の改善などの一次利用と、行政・規制当局などの保健政策の改善や、研究者・企業による新たな診断・治療法・治療薬の開発など二次利用の両面から活用できる仕組みとなっている。

◎製薬協　基盤構築と法制度整備の総合政策で「同意取得前提とせずに利活用促進と成果還元を実現」

製薬協は、EHDSについて、電子カルテの規格化など「データ収集・基盤構築」と、利活用審査を厳格化することで原則同意不要で匿名・仮名化したデータを利用できるなど、「利活用ルール」を「総合的に策定している点で優れている」と指摘。日本でも、全国医療情報プラットフォームの構築が進む中で、「全国民の仮名化したライフコースデータを利活用するためのデータ基盤構築と法制度整備を両輪とする総合政策及び法整備」の必要性を強調した。

特に、日本では二次利用に際し、患者の同意が必要であることに問題意識を表明。「同意という方法が果たして患者保護策として最適か？医療機関の負担にもなっており、同意取得が形骸化している恐れはないか？」と問題提起。データ利活用の状況を見える化しつつ、利活用の目的と禁止事項を明確化して不利益を防止することや、利活用審査機関が患者に代わりプライバシー保護を含めた厳格な審査を行うこと、セキュアなデータ解析環境構築による漏洩防止、罰則強化などの対策を総合的に講じることで、「同意取得を前提とせずとも、患者保護の強化、医療機関の負担軽減、データ利活用推進と成果還元を同時に実現できるのではないか」との意見を示した。

◎出席議員から製薬協の主張に理解示す声も

特に大規模化が進むゲノム研究は国際的な協業が不可欠な中で、仮名加工情報ではゲノムデータや臨床画像のうち個人識別符号に該当するものは削除せざるを得ないという課題もある。創薬や医学研究が国際連携の中で成り立つ中で、患者の同意説明文書が膨大である点も、企業や患者・医療機関にとっても大きな負担になっていると指摘した。このため、個人情報保護法の医療分野の特別法の制定や、NDB等の公的データベースを仮名化・連結して創薬にも利用できるよう、根拠法を改正することなどを要望した。出席議員からは製薬協の意見に理解を示す声が多く聞かれたという。