厚生労働省は11月10日、中医協薬価専門部会にドラッグ・ラグ/ロス解消に向けて、「先駆加算に準じた評価」を新設することを提案した。試行的導入に向けた検討に異論は出なかった。提案は、業界要望を踏まえたものだが、「施策が導入されれば、ドラッグ・ラグ/ロスは本当に改善されるものか」(診療側・長島公之委員・日本医師会常任理事)など、施策の効果を問う声があがった。厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、「今後の検証も、当然必要ではないかと考えている」と述べ、国際共同治験への日本の参画状況などを指標にフォローアップする必要性を強調した。
◎申請・承認から6か月以内の優先審査品目に先駆加算に準ずる評価を
厚労省は、革新的新薬の日本への早期導入について、①国際的な開発が進行している(国際共同治験の実施)又は日本で先に治験が実施されている品目、② 医薬品医療機器等法における優先審査品目、③承認申請時期が欧米より早い又は欧米で最も早い申請から6か月以内、④承認時期が欧米より早い又は欧米より最も早い承認から6か月以内-のすべてを満たす品目について、先駆加算に準ずる形で薬価上評価することを提案した。
現行の薬価制度には先駆加算があるが、製薬業界は要件が厳しいとして、先駆加算に準じた補正加算の新設による、収載時に欧米並みの価格設定ができる仕組みを要望していた。今回の厚労省提案は製薬業界の提案を受けたものとなる。先駆加算は、「欧米の承認申請より先駆けているか、同時(欧米の申請後30日以内も可)」とされているが、これを柔軟に判断して申請または承認が“6か月以内”と幅を持たせた。
◎成川主任研究者 米国バイオベンチャーにメッセージ伝わる制度を
この提案のベースとなっている中間報告をまとめた主任研究者の成川衛・北里大学薬学部教授は、日本語の申請資料作成に加え、国際共同治験データから日本人集団の有効性・安全性の傾向分析を行うことなどに一定の時間が必要であることなどを説明した。
成川研究班の研究報告では、日本法人を有さない米国のバイオベンチャーなどが米国で承認を取得している場合や、国際共同治験に日本が参画していないことが要因だと指摘している。成川氏は、「薬事の面から、日本の薬事規制の発信を対外的に強めようという検討が行われている。薬価でも、良い医薬品であれば(日本でも)早期導入のインセンティブになるというメッセージ性が伝わるような、海外企業の方に分かりやすい仕組みを薬価上のルールに少し盛り込んでいただく」ことが必要との考えを示した。
◎「ドラッグ・ラグ/ロスの解消につながるか」 診療側から指摘あがる
制度の導入に対しては、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)が「一定の評価があっても良いものではないか。評価を行う場合、新規収載時における補正加算も効能効果による改定時加算もいずれも適用すべきではないか」と述べた。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)も、薬事制度と整合性がとれており、「試行的に導入する余地はある」との見解を示した。
診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「検討の前提として、医療上の必要性が高い革新的新薬の早期導入のインセンティブと、近年問題視されているドラック・ラグ/ロスの改善との関係について明確にしておく必要があると考える。つまり、これらの施策が導入されれば、ドラッグ・ラグ/ロスは本当に改善されるものなのか」と指摘。「事前に指標を定め、事後的な評価をきちんと行っていく必要がある。その後の開発状況について継続して検証していくこととセットで措置するものと思う。ドラッグ・ラグ/ロスについては他の施策とセットの相乗効果によって改善されるものであることは理解しているが、改善しない場合は、評価のあり方を見直すことも必要ではないか」と述べた。
診療側の森委員も、「薬価上の評価をすることにより、本当にドラッグ・ラグ/ロスの解消につながるかどうか、いま一つ明確でないと感じている」と指摘した。
◎石牟禮専門委員「国際共同治験の後押しにつながる」
厚労省保険局医療課の安川薬剤管理官は、「今回の提案は、業界からの要望も踏まえて論点として提示をしたものだ。今後の検証も、当然必要ではないかと考えている。いずれにしても、専門委員や業界からドラッグ・ラグ/ロスの解消のために、今回示した論点も含めて措置が必要であることをどう考えているか。あるいは、対応によって日本の開発状況がどう変化するかを業界としてどう考えていくのか、意見をいただきたい」と業界側に質した。
これに対し、業界代表の石牟禮武志専門委員(塩野義製薬渉外部長)は、「業界陳述の内容に沿ったものというふうに理解をしている」としたうえで、「薬事の方で検討されている、国際共同治験への参画を後押しすることにつながると私どもは考えている。加算の新設をぜひご検討いただきたい」と訴えた。このほか、「現在薬価改定の時期に応じて新薬の承認時期が遅れるタイミングがどうしても発生する。企業にとってはやむを得ない場合ということを考慮して柔軟に適応いただきたい」と要望した。
◎収載後の外国平均価格調整の引上げ 患者負担増から診療・支払各側から反対の声
業界が要望した、収載後の外国平均価格調整のルールにおいて、価格が引上げとなる場合も適用することなども議論の俎上に上った。現行ルールでは、原価計算方式のうち一定要件を満たす品目の引下げルールしか存在しないが、類似薬効比較方式で算定される品目についても、収載後の外国平均価格調整のルールを適用することを提案した。なお、「価格の引上げを検討する場合には、患者負担増への影響等の配慮が必要である」とした。
診療・支払各側から患者の負担増への懸念の声があがった。診療側の長島委員は、「すでに使用されている医薬品の外国価格が高いという理由だけで、収載後に薬価を上げることは、患者さんの理解は得られにくいのではないか。日本は承認から保険適用までの期間が短いため、比較できる外国価格がない状況はごく自然に発生してしまうが、それは迅速に保険適用されるという我が国ならではのメリットの裏返しとも言える」と述べ、現行ルールの維持が望ましいとの見解を示した。
診療側の森委員は、「類似薬効比較方式で算定される品目も対象とすることに検討の余地はあるものと考える」としたが、「収載後に薬価の引き上げを行うと継続的に薬剤を使用する患者さんにとっての負担感は小さくないと思われる。患者負担額への影響に配慮し、価格が引き上がりすぎないよう、上限を小幅に設定するなどの対応は必要と考える」と述べた。
支払側の松本委員は、「外国の方が(薬価が)高いという理由だけで途中から(薬価を)値上げすることは患者の理解を得られない」と指摘。引上げの対象品目も少ないとして、「導入そのものは難しい」との見方を示した。類似薬効比較方式への導入についても、「引上げと引下げがセットであれば、患者負担への影響に配慮して慎重に検討すべき」と述べた。
◎有用性系加算に新たな評価項目追加 バイオ・核酸など新たなモダリティ登場で
このほか、従来品と創薬・製造プロセスが大きく異なるバイオ医薬品や核酸医薬などの新規モダリティ製品が登場することを踏まえ、有用性系加算を算出するポイント制に新たな項目を追加し、評価することも提案された。「患者QOLの向上など、臨床試験での重要な副次的評価項目において既存の治療方法に比べた改善が示される」ことを追加することも提案した。
また、市場性加算、小児加算等の有用性系加算以外の補正加算に関して、最近の医薬品の開発状況や、症例数による治験の実施の困難さ等を踏まえ、現在規定されている範囲内で、薬価算定組織が加算率を柔軟に判断することも提案した。
診療・支払各側から異論は出なかったが、診療側の森委員は、「薬価算定組織の個別の判断によって加算を行う場合には、その根拠を中医協総会に説明して、承認を得ることが前提と考える」と述べ、薬価算定組織に「考え方や評価の妥当性」を報告することを求めた。
石牟禮専門委員は、「評価の視点が明らかになることにより、新たなモダリティで開発された新薬の価値評価や、開発が困難な領域の企業の取り組みを促進するものにつながると考えている」、「開発コストの回収が難しい領域への取り組みが評価されるということが明示されますと、企業の意思決定の後押しになると考えている」と述べ、有用性を強調。あわせて、複数の加算の併算定を可能とすることについての検討も求めた。