厚労省・安川薬剤管理官 24年度改定へ「難しい連立方程式を解くような状況」薬剤費、流通など課題山積
公開日時 2023/04/10 04:52
厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は本誌取材に応じ、24年度改定に向けて、「メリハリをつけた対応」が重要になるなかで、流通などの商習慣による課題もあり、「難しい連立方程式を解くような状況だ」との認識を示した。「新薬や長期収載品、後発品、不採算品再算定それぞれにテーマがあるが、今後高額薬剤の登場も見込まれるなかで、すべての願いを叶えるのは難しい。一方で、薬事承認された医薬品が基本的にすべて収載され、医療保険のなかで使用できることは、国民の安心にもつながっている」との見方を示した。
Monthlyミクス4月号(4月1日発行)では、「23年度改定から描く 日本の医薬品産業 安定供給実現と革新的新薬創出への道筋」と題して、特集を組みました。安川薬剤管理官へのインタビューでは、24年度改定への認識や、医薬品の多面的価値などをうかがっており、一問一答にて掲載しております。(記事はこちらから、会員限定)
厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」でも薬剤費が議論の俎上に上っている。安川薬剤管理官は、「現行の薬価制度の改定の仕組みでも、薬価が一定程度下がり、薬剤費は一定程度コントロールされているという前提がある。ただ、安定供給や革新的新薬の創出などの課題があり、このままでよいのか、という課題認識が示されている」との認識を示した。
◎「一つ評価を拡充すれば、どこかを見直すことがセット」
「メリハリをつけた対応が重要になる」としたうえで、「新薬のなかだけでなく、新薬と長期収載品、さらには企業としての開発スタンスなども含めて議論する必要性を指摘する声もある。一つ評価を拡充すれば、どこかを見直すことがセットになる」と指摘。「さらに、財政上の課題だけでなく、流通など商習慣による課題もあり、難しい連立方程式を解くような状況だ。24年度改定ですべてを解決するのは難しいが、何ができるか、段階を踏みながら考えていく必要があると考えている」と述べた。
製薬業界からは特許期間中の新薬すべての薬価維持を求める声もあるが、「18年度改定で革新性の低い新薬も新薬創出等加算の対象となっていたことから、制度が見直された。その議論を前提にすると、特許期間中の新薬すべての薬価を維持する必要性の説明は難しいだろう」とも述べた。
◎24年度改定に向けての議論「かなり大がかりに考えていかないといけない」
24年度改定をめぐっては、22年末の予算編成過程における大臣折衝で、「新薬創出等加算の累積額控除および、長期収載品に関する算定ルールについては23年度改定において適用しない。そのうえで、24年度改定において、“国民皆保険の持続可能性”と“イノベーションの推進”を両立する観点から、新薬創出等加算や長期収載品に関する薬価算定ルールの見直しに向けた検討を行う」ことが合意されている。中医協で決定された「23年度薬価改定の骨子」にも同様の内容が盛り込まれている。
安川薬剤管理官は、こうした背景に。「近年の革新的新薬についての日本の導入状況とか後発品を中心とした安定供給上の課題がある。まさに23年度改定で臨時・特例的に措置したテーマを踏まえながら、薬価制度全体を検討しなければならない」との見解を表明。「23年度改定は何とか無事に乗り越えたが、24年度改定に向けての議論はかなり大がかりに考えていかないといけない」と続けた。
◎不採算品再算定へのフォローアップ「製薬企業側に安定供給の意思を示してほしいということ」
23年度改定については平均乖離率7.0%の0.625倍(乖離率4.375%)超の品目で、新薬創出等加算と不採算品再算定に臨時・特例的な対応がなされた。安川薬剤管理官は、16年末に4大臣合意された「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」で「毎年薬価調査を行い、その結果に基づき薬価改定を行う」と明記されたことを踏まえ、「実施するという前提に立つしかない」と説明した。「薬価改定をやらざるを得ない状況のなかで、いまの課題に対して最大限できることは何か考えた結果」との認識を示した。
不採算品再算定品目は医療上の必要性が高い品目であることから、安定供給を継続することも求められている。このため、「安定供給を製薬企業に求めるとともに、そのフォローアップを実施する」ことも盛り込まれた。安川薬剤管理官は、「製造を継続する製品に対して薬価上、措置しているので、製薬企業側には安定供給の意思を示してほしいということだ。行政としては大きなハードルを課しているとは考えておらず、当然のことだと思っている。安定供給に必要な体制の維持と、適正な価格での流通は避けて通れないのではないか」と強調した。
◎不採算品再算定など薬価上の下支え 乖離大きければ「財政上の措置の意義問われかねない」
不採算品再算定の特例的な対応により、本誌調査ではプラス改定となる企業も出るなど、企業にとっても大きなインパクトが出た。安川薬剤管理官は、「1100品目も薬価を引き上げて対応したにもかかわらず、次回改定で乖離率が大きかった場合、財政上の措置の意義は問われることになりかねないので、留意する必要があると考えている」と指摘した。
実際、厚労省の有識者検討会に、最低薬価では安定確保医薬品であっても平均乖離率が高い傾向にあるとのデータが示されている
(関連記事)。安川薬剤管理官は、「最後の価格は市場流通に委ねることになるが、結果的に乖離が大きいと、薬価上の下支えの制度が何のためにあるのか、という指摘につながりかねない。製薬企業側だけではできないこともあるのだろうが、安定供給の覚悟をもって参入している企業がどれくらいあるかが問われている」との見方を示した。