財務省 25年度薬価改定は全品目対象に実勢価改定を 市場拡大再算定含む全ルール適用 不採算は年末に検討
公開日時 2024/11/14 06:04
財務省主計局は11月13日の財政制度等審議会財政制度分科会で、2025年度薬価改定について、「原則全ての医薬品を対象にして、実勢価格に合わせた改定を実施すべき」と主張した。適用ルールについても市場拡大再算定など「既収載品の算定ルールについて、全て適用すべき」とした。薬価改定の実施により、長期収載品の薬価が引き下がることで、相対的に革新的新薬創出に対するインセンティブになるとして、国民の負担軽減に加え、医薬品産業の構造改革の点からも薬価改定の必要性を指摘した。一方、25年度薬価改定の除外品目としては、「安定供給確保に資する医薬品」など政策的対応の合理性のあるものに限定すべきとした。23年度、24年度改定と2年連続で不採算品再算定が臨時・特例的に実施されたが、財務省主計局は「それも含めて年末の交渉。(前回は企業から希望のあった品目すべてを対象に実施されたが)、それでいいのかという議論はしている」としている。
◎「実質的な改定対象は長期収載品に限られる」 相対的インセンティブで構造改革促す
財務省主計局はこれまで、「診療報酬改定のない年の薬価改定」、いわゆる中間年改定については、“完全実施”という言葉で強く迫っていた。25年度薬価改定ではあえて“完全実施”の言葉を使わずに、「原則全ての医薬品を対象にして、実勢価格に合わせた改定を実施すべき」、「既収載品の算定ルールについて、全て適用すべき」と主張した。
対象品目については、23年度、25年度と中間年改定は平均乖離率の0.625倍超とされた。一方で、24年度薬価制度改革で新薬創出等加算が見直され、特許期間中の薬価が維持されることなどから、全ての医薬品を対象としても「実質的な改定対象は長期収載品等に限られる」と指摘。「乖離率に基づき改定対象品目を限定することについては、国民負担軽減等の観点からも、長期収載品依存からの脱却等の観点からも、政策的合理性が乏しい」とした。
薬価改定の実施により、革新的新薬は薬価が維持される一方で、長期収載品の薬価が引き下がることで、製薬企業にとっては革新的新薬創出の“相対的なインセンティブ”につながると説明。「長期収載品に依存したような経営の在り方の見直しを促すことにもつながる」と指摘。長期収載品依存から脱却し、革新的新薬を創出するビジネスモデルへの転換につながるとの考えを示した。
◎新創品の累積額控除やG1・G2ルール、Z2など「既収載品の算定ルール、全て適用すべき」
適用ルールについても、「毎年薬価改定が行われる中で、2年に1度しか適用されないルールがあるのは合理的な説明が困難」としたうえで、特許切れのタイミングで適用される、新薬創出等加算の累積額控除や、G1・G2ルールやZ2など長期収載品の薬価改定については、「革新性を失った医薬品の評価を適切に見直すルール」と指摘。上市のタイミングの差で、最大2年間程度の適用の差が生まれる可能性があるとして、「現役世代を含む国民負担軽減の観点や、収載のタイミングによる不公平の解消の観点から、2025年度改定では、既収載品の算定ルールについて、全て適用すべき」と主張した。
なお、中間年改定では、年間販売金額が350億円超などの要件を満たす四半期再算定は適用されるが、年間販売金額100億円超から対象となる市場拡大算定についても、財務省主計局が示した既収載品のルールには含まれている。
◎調整幅「一律2%」についての在り方検討を 年末に向けて議論求める
調整幅についても年末に向けて議論する必要性を指摘した。現行の薬価制度は流通コストも含めて保険償還される仕組みであることから、薬価差益があるならば、「保険財源からの不当利得とも考えられる」と指摘。「価格や薬剤の種類によらず調整幅を一律に2%としている」ことを問題視した。調整幅は、「薬剤流通の安定のため」とされているが、後発品など低薬価品など一部品目を除いた場合の流通について調整幅の必要性に疑問を投げかけ、「その在り方の検討が必要」と主張した。年末に向けて、議論することを求める考えを示した。
◎創薬力強化へAMED調整費の柔軟な活用でシーズの実用化後押し 後発品の安定供給で構造改革求める
創薬力強化に向けて、薬価上でメリハリを付ける必要性を指摘する一方で、医療保険外となる予算措置の必要性も強調した。「創薬の事業化の各段階に対応した包括的なものとすると共に、財政規律の観点からも、民間企業にとっての予見可能性を高める観点からも、必要な財源を確保しながら、包括的な支援を継続的に実施していく」必要性を指摘した。
シーズの実用化に向けて、アカデミアからベンチャーへの橋渡し機能の不足や、ベンチャーキャピタル(VC)などからのリスクマネーの不足などが指摘されている。AMEDについても縦割りなどの課題があると指摘。25年4月からスタートする第3期健康・医療戦略にでは、「AMED調整費の柔軟な活用等により、各省補助等事業の間の連携を確保し切れ目ない支援を行うとともに、事業の検討段階から出口志向の研究開発マネジメントを行うことで、有望な創薬シーズの企業導出の加速を推進することが重要」とした。
一方、後発品については、産業構造改革の必要性を指摘した。少量多品目構造解消に向けて、「企業統合やコンソーシアム形成等により、品目統合を行い、効率的な生産体制を確保していく」必要性を指摘した。このため、「機運醸成やインセンティブ付けによる支援のみならず、円滑な再編に資する薬事上の対応や、安定供給に貢献しない場合のディスインセンティブ措置も含めた総合的な対応が必要」としている。
◎OTC類似薬「保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大、検討すべき」
このほか、保険給付範囲の在り方を見直す必要性も指摘した。OTC類似薬については、「薬剤の自己負担の在り方も検討すべき」と主張した。「保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大についても併せて検討を行うべき」とした。現行制度では診療報酬上の技術料も薬剤も原則3割負担となっているが、技術料については保険診療とする一方で、OTC化された医薬品についてのみ全額自己負担とすることを提案した。また、「医薬品の有用性に応じた自己負担率の設定や、薬剤費の定額自己負担の導入について検討を進めるべき」としている。
◎選定療養 バイオ先発品にも一部導入を バイオシミラーの浸透を強力に推進
今年10月から長期収載品の選定療養がスタートしたが、バイオ医薬品は対象から外れたが、「バイオ先発品の一部選定療養化」も含めて、バイオシミラーの浸透に向けて、「幅広い取組みを強力に推進していくべき」ことも盛り込んだ。
◎増田分科会長代理「社会的課題は薬価と別の手段で考えるべき」
出席委員からは、「現役世代を含めた国民負担の軽減ひいては国民皆保険制度の持続性確保の観点から、25年度の薬価改定も確実に実施すべき。過去2回の奇数年での改定では適用されなかったルールがあり、改定対象品目が限定されたりしたことは問題で、今回の薬価改定は、適用ルールや対象品目の拡大も必要」などの声があがった。
財政審の増田寬也分科会長代理(日本郵政取締役兼代表執行役社長)は財政審後の会見で、「薬価改定は、メリハリが重要。創薬力強化は様々な要因が関係しており、必ずしも薬価の問題だけではなく、産業構造の問題なども大きく関係する。国民皆保険を支えるうえで、診療報酬も薬価改定も社会実態に合った形で適切に見直していく必要がある。適用ルールや対象品目の拡大は、しっかりと行っていくということが必要だ。(医薬品の供給不足や創薬力強化など)今起きている社会現象に対してどうこなしていくかは薬の価格とは別の手段を考えないといけない」と述べた。