官民対話 25年度予算編成に向け創薬力強化と薬価改定のあり方が論点 製薬業界「中間年改定廃止」訴え
公開日時 2024/11/22 04:50
「革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品創出のための官民対話」が11月21日、東京都内で開かれ、年末の予算編成で焦点となるイノベーション推進などをめぐり製薬業界から意見を聞いた。石破政権となって初の2025年度予算編成では、岸田前政権の掲げた創薬力強化に力を入れる一方で、25年度薬価改定のあり方も論点となっている。この日の官民対話では、日本製薬団体連合(日薬連)など複数団体は「中間年改定廃止」を改めて訴えた。米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、省庁横断的な官民協議会が国家戦略を策定し、実行目標に対するKPIを設けてモニタリングする必要性などを指摘した。
厚労省は医薬品のイノベーション推進に向けた施策を説明。24年度補正予算に絡む新たな経済対策では、重点施策として、我が国の創薬力強化のため、アカデミア等とスタートアップとの間の創薬シーズの橋渡しや、各地の創薬クラスターの発展につながる設備投資支援等を強化することとするなど、創薬力強化に向けてアクセルを踏んでいる。一方で、もう一つの焦点となっている25年度薬価改定については、「イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら、その在り方について検討する」と骨太方針の文言を引用した。
◎日薬連・岡田会長 物価高騰や円安、原材料調達難度の上昇など影響「中間年改定の廃止」
日薬連の岡田安史会長(エーザイ代表執行役)は、21年度、23年度と中間年改定の対象範囲が平均乖離率の0.625倍超とされたことに触れ、平均乖離率が6.0%まで縮小する中で、その0.625倍(3.75%)は「“価格乖離が大きい”とは到底言えず、 中間年改定の対象範囲の基準とすることは4大臣合意に反する」と強調。物価高騰や円安、原材料調達難度の上昇、賃金上昇政策などが影響を与える中で、「中間年改定の廃止」を改めて訴えた。また、「市場実勢価改定の在り方の検討にあたっては、医薬品のカテゴリーの違いを踏まえつつ、 過度な薬価差の偏在に関する医薬品流通上の課題も含め、薬価差が生じる要因等の本質的な議論が必要」との考えを示した。
日本製薬工業協会(製薬協)の宮柱明日香副会長(武田薬品ジャパンファーマビジネスユニットプレジデント)は、環境変化の大きさを訴え、中間年改定の廃止のほか、グローバル基準の薬事制度設計、イノベーションの評価、費用対効果評価の適切な運用の必要性を指摘した。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)のハンスクレム日本代表は、「日本はイノベーションと患者アクセスの促進に向けた取組みを継続すべき。2025年度中間年改定を実施 すれば、ポジティブなトレンドを覆すことになる」と危機感を示した。
このほか、再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)志鷹義嗣代表理事会長(アステラス製薬専務担当役員研究担当)は、「再生医療等製品のイノベーションを適切に評価しうる新たな価格算定の仕組みの速やかな導入」や「早期患者アクセスのために、条件及び期限付承認された再生医療等製品の公的医療保険適用の継続」を訴えた。
◎製薬協・宮柱副会長 成長産業・基幹産業であり続けるための国家戦略を策定、実行を
政府が国家戦略を策定し、イノベーションを推進する必要性を指摘する声もあがった。製薬協の宮柱副会長は、石破政権に期待することとして、「製薬産業が成長産業、基幹産業であり続けるために、 “イノベーション創出政策” と “薬価政策” を国家戦略として一貫性をもって継続的に策定・実行していただきたい」と要望した。
◎PhRMAのクレム日本代表 「省庁横断的な常設の組織が国家戦略を策定すべき」
PhRMAのクレム日本代表は、来年の設置に向けて検討が進められている官民協議会に絡め、「省庁横断的な常設の組織が、国内外の革新的医薬品業界から定期的かつ実りあるインプットを得ながら、 国家戦略を策定すべき」と強調。欧州製薬団体連合会(EFPIA)の岩屋孝彦会長(サノフィ代表取締役社長)は、「川上(創薬)から川下(薬事・薬価制度・患者アクセス)まで の包括的な戦略策定と議論が可能な官民対話の場の必要性」を指摘。「省庁横断的かつ患民産官学が参画し、包括的な議論が可能な欧州の官民対話事例を共有」する姿勢も示した。
◎AMED予算の柔軟性や推進体制の整備、シンクタンク的な機能が必要
革新的な創薬シーズを実用化につなげるうえで、AMEDの役割の重要性も指摘されている。製薬協の宮柱副会長は、「アカデミア研究の実用化促進のために AMEDを強化」する必要性を指摘。「基礎研究の振興と、実用化研究の強化を両立できる運用・体制への整備」の必要性を指摘した。
日本医療研究開発機構(AMED)の三島良直理事長は、「基礎的な研究開発から実用化のための研究開発まで各府省の政策・事業を円滑に接続し、有望なシーズや研究に切れ目 なく連続的な支援を行うことが必要であり、そのための機能を抜本的に強化が必要」と強調。AMED予算の柔軟性や推進体制の整備、シンクタンク的な機能が必要として、「戦略策定・実施ユニットを創設し、情報集約・分析や研究開発の進捗把握等を行い、効果的・有機的に高いレベルでペアリング・マッチングなど、特に優れたシーズの育成を戦略的に行うことで、革新的なシーズの企業導出を加速・増加する」姿勢を強調した。